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Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew

2024 Best Selection(12月26日~1月12日)

橋本徹(SUBURBIA)を始めとする
「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人が
それぞれのセレクトした音楽への思いを綴る
「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」

詳しい放送内容はこちら
D-03 usen for Cafe Apres-midi
https://music.usen.com/ch/D03/



橋本徹(「usen for Cafe Apres-midi」プロデューサー) Toru Hashimoto

Free Soulが30周年、そしてカフェ・アプレミディが25周年を迎えた2024年。「usen for Cafe Apres-midi」をご愛好くださった皆さん、ありがとうございました。
年末を迎え、今年も年間ベスト・セレクションの季節がやってきました。例年のように、僕が愛聴したベスト・アルバム60枚を、ジャケット付きで発表させていただきます。
年間ベストワンに選んだのは、Clairoの『Charm』。実は12/25に突如、Saultの『Acts Of Faith』が一般公開され、それがCleo Solも大活躍している全曲最高の素晴らしすぎる内容なので、最後までどちらにするか悩んだのですが、やはり一年を通して振り返ると、2024年を代表する一枚に相応しいと判断しました。25歳になったClairoのSSW/アーティストとしての成熟も、もちろん感慨深いほどでしたが、我らがBig Crown主宰、El Michels AffairのLeon Michelsがプロデュースを手がけ、アナログ・レコーディングの質感にこだわった、ヴィンテージな輝きを宿しつつモダンなサウンドが、本当に素晴らしかったですね。
午前0時から8時までの時間帯は、「生きているハンドメイド選曲チャンネル」という矜持を胸に、僕が「usen for Cafe Apres-midi」のために一年間セレクトしてきた名作群の中から、特に好きだった700曲あまりを選りすぐって、日替わりのシャッフル・プレイ放送でお届けしますが、毎年ご紹介しているベスト・トラックの一覧リストは、今年は残念ながら制作が間に合わず、次回のセレクター・コメントに掲載させていただこうと思っています。
最後に、僕が2024年に監修・選曲した7タイトルのコンピレイションも、未聴の方はぜひ冬休みに聴いていただけたら嬉しいです。今年はインタヴュー取材もいろいろと受けて、充実した記事がいくつも公開されましたので、よかったらそちらも読んでみてください。それでは皆さん、来たる新たな素敵な音楽との出会いを楽しみに、よいお年を!

V.A.『Incense Music for Bed Room』
V.A.『Incense Music for Living Room』
V.A.『Legendary Free Soul ~ Supreme』
V.A.『Legendary Free Soul ~ Premium』
V.A.『Seaside Chillout Breeze』
V.A.『Sunset Chillout Breeze』
V.A.『Interior Music ~ Cafe Apres-midi meets ACME Furniture』


『Incense Music for Bed Room』特別対談 with 山本勇樹
『Seaside Chillout Breeze』特別対談 with 山本勇樹
『Legendary Free Soul』ライナー対談 with 山下洋
Free Soul 30周年記念インタヴュー with 柴崎祐二
【フリー・ソウル秘話】Free Soul 30周年記念対談 with 高橋晋一郎
「90年代のFree SoulとCity Popの関係」対談 with 栗本斉
「Free Soul 7inch Collection」リリース記念インタヴュー with 柳樂光隆
「Cafe Apres-midi × ACME Furniture」コラボ・プロジェクト実現記念インタヴュー
「シブヤ文化漂流記」インタヴュー


Clairo『Charm』
Sault『Acts Of Faith』
Shabaka『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』
Arooj Aftab『Night Reign』
Luka Kuplowsky & The Ryōkan Band『How Can I Possibly Sleep When There Is Music』
Turn On The Sunlight『Ocean Garden』
Ganavya『Daughter Of A Temple』
Nala Sinephro『Endlessness』
Daudi Matsiko『The King Of Misery』
Laura Marling『Patterns In Repeat』
Sreya & Cilon『Aten​ç​ã​o com Cora​ç​ã​o』
Bryony Jarman-Pinto『Below Dawn』
Jahnavi Harrison『Into The Forest』
Ganavya『Like The Sky I've Been Too Quiet』
Scott Orr『Miracle Body』
Tiganá Santana『Caçada Noturna』
Sy Smith『Until We Meet Again』
Bruno Berle『No Reino Dos Afetos 2』
batata boy『MAGICLEOMIXTAPE (quando vê, já foi)』
Magalí Datzira『La salut i la bellesa』
shiv『The Defiance Of A Sadgirl』
Vegyn『The Road To Hell Is Paved With Good Intentions』
Helado Negro『Phasor』
Isaiah Collier & The Chosen Few『The Almighty』
Carlos Aguirre & Almalegría『Melod​í​a que va』
Mustafa『Dunya』
Lau Ro『Cabana』
Immanuel Wilkins『Blues Blood』
John Roseboro『Fools』
Jahari Massamba Unit『YHWH is LOVE』
Amaro Freitas『Y'Y』
Jessica Pratt『Here In The Pitch』
Silva『Encantado』
Blick Bassy『M​á​dibá Ni Mbondi』
Zé Manoel『Coral』
Adrianne Lenker『Bright Future』
Shabason, Krgovich, Sage『Shabason, Krgovich, Sage』
Thomas Flynn『No Time Flat』
Luisa y el Mar『Nos Vemos Esta Tarde』
Tyla『Tyla』
Dawuna『Naya』
Mary Halvorson『Cloudward』
Fievel Is Glauque『Rong Weicknes』
A Song For You『Home』
Tyler, The Creator『CHROMAKOPIA』
Dee C Lee『Just Something』
Narkis Raam『אחיזה אחרת』
Ashley Henry『Who We Are』
Ezra Feinberg『Soft Power』
Liana Flores『Flower Of The Soul』
Dina Ögon『Orion』
John Mark Pantana & LOVKN『Childlike』
Almost Twins『Hands / Trees』
Memorial『Redsetter』
Sean Khan presents The Modern Jazz & Folk Ensemble『Sean Khan presents The Modern Jazz & Folk Ensemble』
Zara McFarlane『Sweet Whispers: Celebrating Sarah Vaughan』
Matu Miranda『Matutando』
Jota.pê『Se O Meu Peito Fosse O Mundo』
Alici『Souvenir』
MICHELLE『Songs About You Specifically』

0:00~8:00



富永珠梨 Juri Tominaga

2024 Best Selectionには、イギリスのシンガー・ソングライター、Jamie DoeのユニットThe Magic Lanternが、今年10月にリリースしたアルバム『To Everything A Season』のオープニング曲、「Trembling」をセレクトしました。親密で穏やかなメロディーに導かれ、ジェイミーのヴェルヴェットの歌声が、まるでひとつひとつ祈りの言葉を紡いでゆくような、そんなどこか聖歌を想わせる清らかで美しい一曲。『To Everything A Season』(すべての物事には季節がある)というタイトルは、旧約聖書の伝道者の書「天の下のすべての事には季節があり、すべての目的には時期がある。生まれるのに時があり、死ぬのに時がある」から取られています。娘の誕生と父親との別れを受けて書かれたこのアルバムは、タイトルでも表現されているように「死生観」「愛」「家族」などが主なモティーフになっています。ジェイミーの解説や歌詞を見ていると、ふと「愛すべき生まれて育ってくサークル」という、小沢健二「天使たちのシーン」の一節を思い出します。

「人生には準備ができない瞬間があります。自分の弱さを事前に知っていても、喪失の結末や新しい命が初めて息を吸うときの悲鳴のような血まみれの重大さには、何の備えもできません。私たちは、自分自身の死の真実や、偶発的な生命の脆さを忘れることはできません。知識の傷跡を残しながら、私たちは愛に突き進みます。ゲノムのらせんのねじれた糸は、前後に伸びる弧を描きます」(The Magic Lantern HPより)

とても個人的なお話ですが、今年わたしの大切な友人が天国へと旅立って行きました。
まさに“何の備え”もできぬままに。心が追いつかないまま呆然とした日々を過ごしていたとき、たまたまどこかのカフェで流れていた「Trembling」を聴いた瞬間、なんだかとても救われた気持ちになりました。

これからも、「usen for Cafe Apres-midi」のセレクターとして、遠い街に住む誰かの心に優しく寄り添えるような選曲ができればと思います。
2025年もみなさまにとって、素晴らしい音楽と素敵な笑顔あふれる、良い一年になりますように。

The Magic Lantern「Trembling」
The Magic Lantern『To Everything A Season』

8:00~9:00



山本勇樹 Yuuki Yamamoto

この一年間に選曲してきたリストを全て見直し、その中で、気に入って何度も選んだり、ここぞという場面で入れたりした曲を厳選して、2024年のマイ・ベスト・セレクションを組んでみました。昨年同様に今回も、幅広いジャンルの曲が集まった、「usen for Cafe Apres-midi」らしいラインナップに仕上がりましたし、僕の担当しているランチタイム~ティータイムの雰囲気が強く反映されていると思います。クワイエット・コーナーで編集盤を手掛けた米国のSSWジェイソン・ラピエールをはじめ、個人的によく聴いていたヘンリー・マンシーニ関連では、イタリアのピアニスト、ウォルター・ゲイターによる「Mr. Lucky」のカヴァー。そして、名作揃いだったドイツACTレーベルからはアイスランド出身のアンナ・グレタや、フランス人ジャズ・ヴォーカリスト、シリル・エイミがニューヨーク出身のマルチ楽器奏者、ジェイク・シャーマンとコラボレイトした「Beautiful Way」、さらに橋本徹さんが2011年に選曲された『音楽のある風景~食卓を彩るサロン・ジャズ・ヴォーカル』に収録されたエリー・ブルーナ「1986」のセルフ・カヴァーあたりは、王道のサロン・ジャズといった内容でリピーターとして大活躍。そんな中、特に印象的だったのが、スウェーデンの名門ジャズ・レーベルProphoneよりリリースされた、エレン・アンデションのビル・エヴァンスへのトリビュート・アルバム。やはり同郷のレジェンド、モニカ・ゼッタールンドへのリスペクトが強く感じられる一枚で、北欧らしい凛としたリリシズムが滲み出た美しいヴォーカル作品でした。2024年のベスト・ソングは、このアルバムに収録された名曲「My Bells / Children's Play Song」です。新たな「usen for Cafe Apres-midi」のクラシックになれば嬉しいです。

Ellen Andersson『Impressions of Evans』

9:00~10:00



ヒロチカーノ hirochikano

2024年は、フリー・ソウル30周年に合わせるかのように、新譜の中では特にヴィンテージ系ソウルの好リリースが目立った1年だった。そんな中からまず紹介したいのが、マーヴィン・ゲイへのオマージュ溢れるThee Sacred Soulsの「Live For You」で、70年代の音楽の香りを見事に2024年に再現してくれる奇跡の1曲です。続いては、メロウでタイトなグルーヴが印象に残ったインドネシア出身のThee Marloes の「Mungkin Saja」。彼らの奏でるサウンドに無類の才能を感じると同時に、国境をこえて彼らのような原石を発掘し、世に送り出し続けるBig Crownの音楽への情熱と功績を称えたい。最後に紹介するのは、ミニー・リパートンへのオマージュが溢れる現在進行形のソウル・シンガーSy Smithの最新アルバムから、イントロの小鳥のさえずりに溶け合うメロウなフェンダー・ローズとリムショットのアンンジが深く心に残った「Photograph」。
こうして1年間のベスト・トラックを抽出する作業の中で、改めて感じることなんですが、「いい音楽との出会いって本当に素晴らしいですね」。

Thee Sacred Souls『Got A Story To Tell』
Thee Marloes『Perak』
Sy Smith『Until We Meet Again』

10:00~11:00



渡辺裕介 Yusuke Watanabe

今年のベスト・セレクションは、再発見やニュー・ディスカヴァリーではなく2024年にリリースされた素晴らしい作品のみで選曲させていただきました。
とはいえ、音楽の進化論を問うような作品ではなく、情緒あふれる不変の心地よさ。
90年代半ばフリー・ソウルに出逢った頃に憧れた1960年代〜70年代がリヴァイヴァルするような、本能を刺激する違和感のない時代を超えたカフェ・ミュージック。
今回の選曲は30年前でも30年後でも違和感のない「usen for Cafe Apres-midi」ミュージックだと自負しております。
特に、ある意味ライブラリー・ミュージックのような存在のスムース・ジャズという、80年代以降のLAサンセットな心地よすぎる淡いジャズ・フュージョンから登場しているヴェテラン企画ユニットStreetwize。
この怪しいジャケットに惹かれてしまったハプニングでふと、かつて出会ったRacheal ZのSade「Kiss Of Life」のカヴァーに匹敵する、極上のシルク・ソニックの「Leave The Door Open」カヴァーを知って。
明らかに他の収録曲と力の入れようが違うように感じてしまうほどのアレンジ再現サウンドと、キュートな女声コーラスにケニー・Gまでいかないユセフ・ラティーフでもないけど涙腺に来るソプラノ・サックスに胸を打ち砕かれました。
この曲をDJ現場でかけて、どれだけの人に訊かれたことかわかりません。
7インチで欲しい作品になりました。
そんな名曲が溢れる2024リリース作品から厳選させていただきましたベスト・セレクション。
ぜひ、お酒と一緒にお楽しみください。
来年も素晴らしい名曲に出会えますように。

Streetwize『Lift Me Up』

11:00~12:00



武田誠 Makoto Takeda

2024年もたくさんの新しい音楽に触れることができました。とは言っても、選曲優先の飛ばし聴きが例年と変わりなく続いていて、音楽とアルバム単位でじっくり向き合うことはめっきり減っています。そんな中でも、やっぱりアルバムとして何度も繰り返し聴きたくなるものはあって、今年最も多くリピートしたのは、アルゼンチンのフォルクロリック・ジャズ〜現代アンビエント・シーンとも共鳴する、瑞々しく風通しのいい実験性を孕んだ角銅真実の『Contact』でした(それと、もはや古典・名盤の趣きさえ感じさせたClairo『Charm』も)。なんだか身体にいいものを取り入れている感じがして、生命力がみなぎってくる素晴らしい作品でした。
というところで、今年も僕の担当する時間帯に素敵な彩りを与えてくれた2024年リリースの16曲を多彩なジャンルから選りすぐり、旅の終わりが近づいてくるような年末らしいフィナーレ感を大切にベスト・セレクションとしてまとめてみました。
細野晴臣さんによると、今の1980年代再ブームというのは、1980年代から続いているそうです。アハハハ。今回の選曲のラストはJerskin Fendrixの『哀れなるものたち』サントラ収録曲で終わりますが、なんだか細野さんの『Coincidental Music』を聴いているみたい。ソー・ロング80年代ということで、音楽はもとより、さまざまなカルチャーが交わり調和し、新しい自由な物語が紡がれていく場所としての居心地のいいカフェを今いちど──。
それでは新しい年にむけて、みなさまの健康を心からお祈りします。

Bruno Berle『No Reino Dos Afetos 2』
Clairo『Charm』
Beyoncé『Cowboy Carter』
Cyrille Aimée『à Fleur de Peau』
Shabaka『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』
Liana Flores『Flower Of The Soul』
Manami Kakudo『Contact』
This is Lorelei『Box for Buddy, Box for Star』
The Smile『Wall Of Eyes』
Pearl & The Oysters『Planet Pearl』
Duck Lake「Daydreams」
Fabiano Do Nascimento & Shin Sasakubo『Harmônicos』
Zé Manoel『Coral』
BADBADNOTGOOD feat. Tim Bernardes「Poeira Cosmica」
The Magic Lantern「Trembling」
Jerskin Fendrix『Poor Things (Original Motion Picture Soundtrack)』

12:00~13:00



本多義明(「usen for Cafe Apres-midi」ディレクター) Yoshiaki Honda

2024 Best Selectionでピックアップしたのは対照的なこの2枚のアルバム。1枚はアコースティックな響きとグルーヴがたまらないJohn Mark Pantana & LOVKNの『Childlike』で、もう1枚はエレクロニクスと浮遊感が心地よすぎるWorld Brainの『Open Source』です。どちらも知っていたアーティストではなく、2024年にこの2作品で初めて知ったアーティストです。「usen for Cafe Apres-midi」の選曲をしていると、ほんと毎年毎年新しく好きになる音楽が見つかりますね。2025年も期待します。

John Mark Pantana & LOVKN『Childlike』
World Brain『Open Source』

13:00~14:00



waltzanova

今年も年間ベストの季節になりました。雑誌「&Premium」の1月号はカフェ・ミュージック特集でしたね。カフェ・アプレミディの25年のBGMを橋本さんが振り返るページを読んで、感慨深い気持ちになりました(表紙のルー・コートニーも「Suburbia Suite」1994年号で紹介されていた一枚でしたよね)。僕もリスナーから「usen for Cafe Apres-midi」チャンネルのセレクターになり、自分なりにカフェ・ミュージックを提案させていただいている立場として、改めて気持ちを新たにしました。

Best Selectionはその年の良かったアルバムから個人的なベスト・トラックを選ぶ、というスタイルでずっとやってきたのですが、今年は曲単位でのものが多かったように感じます。それだけリスニング・スタイルが僕だけでなく変わってきているのでしょうね(プリンスがグラミー賞の授賞式で「皆さん、アルバムって覚えていますか?」と言ったことを思い出します。あれは2015年か……)。

個人的にはコンピレイションというメディアのあり方を見直した年でもありました。CDコレクションを多少なりとも整理していく中で、いわゆるオリジナル・アルバムはストリーミング・サーヴィスにカタログがあるので、コンピレイションはディレクションやアートワークも含めてけっこう貴重というか、所持している価値があるのではないかと感じました。
今年のベスト・アルバムはヌバイア・ガルシアの『Odyssey』です。通しで聴くことが多かったアルバムはジャズ系が多く、そんな中でいちばん心に響いたのはこれでした。次点でブライオニー・ジャーマン=ピント『Below Dawn』も挙げておきます。こちらも力作で、ヘヴィー・ローテイション度合いではヌバイア・ガルシア以上だったかもしれません。

先週末、Netflixでアイルトン・セナの伝記映画を観ていました。セナは僕のヒーローの一人です。そして亡くなってちょうど30年、Free Soulと同じというのも何かの縁を感じますね。そんな彼の名言を紹介して、今回は締めとさせていただきたいと思います。これからも選曲の理想を実践できるよう、精いっぱいに……。
「理想を語ることは簡単だが、自ら実践するのはすごく難しい。だからこそ、とにかく、どんな時でも、ベストを尽くして生きなければならない。その結果、うまくいく時もあれば、そうでない時もある。間違いを犯すこともあるだろう。でも、少なくとも、自分自身に対しては誠実に、そして、自らの描いた夢に向かって、精いっぱい生きていくことだ」──アイルトン・セナ

Nubya Garcia『Odyssey』
Bryony Jarman-Pinto『Below Dawn』

14:00~15:00



高橋孝治 Koji Takahashi

今年も残すところ、あとわずか。皆さんにとって2024年はどんな年でしたか? 自分は病気にかかって20日ほど入院してしまい、改めて健康のために生活面を見直す年になりました。若い頃は友人たちとお酒を飲むときは趣味の話で楽しく会話しておりましたが、今や話題の中心が健康の話になることもしばしば……。来年もしっかりと健康には気をつけて過ごそうと思います(笑)。
さて、今年の最後の選曲は恒例の年間ベスト・セレクション。今年も2時間分の選曲をしたので、そのセレクションを日替わりで交互にお届けしたいと思います。
パート1の選曲はネオアコ・テイストの濃い作品を集めたもので、トップバッターに配したのはカナダのオタワで活動する男性アーティスト、Prelovedによるフリートウッド・マックの名曲カヴァー「Silver Springs」です。この作品がリリースされたときにフリートウッド・マックの作品の中で一番好きな曲をカヴァーしていることに感動して選曲に取り入れ、そのときのコメントでベスト・セレクション入りを示唆しました。そして同時にこの曲にまつわるエピソードもコメントで書きました。それは今では名曲として語られているこの「Silver Springs」という作品は、リリース当初の1977年には不滅の名作アルバム『噂』には収録されず、シングル「Go Your Own Way」のB面扱いだったということです。さらに作者のスティーヴィー・ニックスには発売直前になるまでアルバムに収録しないことを伝えなかったとも言われています。この名曲にはこんな歴史がありますが、今回Prelovedがこの作品を取り上げたことによって、新たに若い世代の人たちがこの作品の魅力に気付いてくれたら嬉しいですね。そして疾走感のあるVitesse Xの「Careless」や、シアトルを拠点とするアメリカ人と中国人の夫婦デュオ、Chinese American Bearのデビュー・アルバム『WAH!!!』からピックアップした「Heartbreaker」なども、キラキラと輝くネオアコ感が素晴らしく、思わず笑顔になってしまう作品です。
パート2はメロウでドリーミーな作品を集めて構成してみました。中でもニューヨークの女性シンガー・ソングライター、Cassandra Jenkinsのアルバム『My Light, My Destroyer』に収録された「Only One」が最高ですね。それに続けたノルウェイのベルゲン出身の男女デュオGoofy Geeseの「Mother」も同じテイストのメロウな作品ですが、こちらはその奥に潜むサイケデリックな響きも感じます。またメロウな作品ではありませんが、ロンドンで活動する男性アーティストCaribouのMARRS「Pump Up The Volume」をサンプリングした「Volume」も言わずもがなにベスト・セレクション入りです(笑)。
そして今年もこのコメント欄ではいろいろな映画にまつわるお話をしてきて、例えばフランシス・フォード・コッポラの1969年の名作『雨のなかの女』がようやく海外でブルーレイ化された話などを書きました。そのコッポラと言えば、今年は40年の歳月をかけて製作された大作『メガロポリス』が上映され、各所で賛否を呼んでいます。日本での公開は来年までお預けですが、その代わりに先月の11月29日からコッポラの再評価を促す、1970~80年代に発表された作品を中心とした特集上映が開催されています。再上映された作品の中で特にお気に入りの作品は、1974年にジーン・ハックマンを主演に迎え製作された『カンバセーション…盗聴…』です。ロバート・デュヴァルがジーン・ハックマン演じる主人公に盗聴を依頼する取締役としてカメオ出演している他、下積み時代のハリソン・フォードがその補佐役として登場しているなど、豪華な役者たちが出演しているのも見どころです。今年亡くなった大好きな女優、テリー・ガーも主人公の愛人役で出演していましたね。ストーリーが秀逸な作品ですが、個人的にはヴィンテージ眼鏡が大好きなので、多くの出演者がレアな眼鏡を掛けていたのも大好きなポイントです。この作品には日本テレビ『土曜映画劇場』版と、テレビ朝日『ウィークエンドシアター』版の2種類の日本語吹き替えが存在しますが、残念ながらどちらもソフトには未収録です。自分はテレビ朝日『ウィークエンドシアター』版の日本語吹き替えを鑑賞したことがありますが、ジーン・ハックマンの声を石田太郎さん、ジョン・カザールを納谷六朗さんが務めていてとても素晴らしい吹き替えでした。今後今回再上映された『カンバセーション…盗聴…』4Kレストア版がもしソフト化されるのなら、幻と言われているテレビ朝日版の吹き替え共々日本語版を収録してほしいですね。
そしてリヴァイヴァル上映と言えば、ウィリアム・フリードキンのフィルモグラフィーの中でも問題作とされており、近年は再評価の機運が高まっていたアル・パチーノ主演の『クルージング』も、11月からここ日本で4Kでのリヴァイヴァル上映が始まっています。70年代にニューヨークで実際に発生したゲイの男たちを狙った猟奇連続殺人事件を基にしたこの作品は、ハリウッド映画史上初めて男同士のセックスを正面から描いたことにより、同性愛差別を助長するとして製作発表時から公開後まで全米各地で猛烈な抗議活動を受けた問題作です。日本でのソフト化は巨匠フリードキンの作品ながら、最初はオンデマンドのDVD-Rプレスでの発売。その後プレス盤として発売されましたが(たぶん)初回ロットで生産が打ち切られたので、今ではプレミア化しています。さらにこのソフトはDVDということで画質があまりよくありません。自分は当時海外盤ブルーレイも同時に購入したので、今回上映された4K版ほどではありませんが、かなり高画質の映像で鑑賞しました。特に夜のシーンは美しい映像で、青色の美しさが素晴らしいものでした。そしてこの過激な内容の作品が、なんと1985年に日本テレビの(深夜枠)『金曜ナイトスクリーン』という番組で地上波放送されていたんですね。もちろん日本語吹き替えで放送されたのですが、これもソフトには収録されていないので、大変貴重な放送だと思います。しかしリヴァイヴァル上映されるほど評価が高まっている作品ですが、今の時代に地上波で放送されることは決してないでしょう。

Preloved「Silver Springs」
Vitesse X「Careless」
Chinese American Bear『WAH!!!』
Valley Palace「Time With You」
Glassio & Beauty Queen「A Friend Like You」
Ford Chastain「No Way」
Daneshevskaya「Scrooge」
Archi「R U Blue?」
Maddie Moon「Rosse」
Conflict At Serenity Pools『Rosey Dreams』
Fleur Electra 「Your Darling」
Jane Penny『Surfacing』
Grazer「Close To This」
Night Tapes「Every Day Is A Game」
Duck Lake「Daydreams」
Toledo『Popped Heart』
Cassandra Jenkins『My Light, My Destroyer』
Goofy Geese「Mother」
Aaron Joseph Russo『Calco』
Bubble Tea And Cigarettes「Emi」
World Brain『Open Source』
Cosmo's Midnight『Stop Thinking Start Feeling』
Veronicavon「Deep End」
Layzi『In Between』
Scuba Dvala「Yoink」
Phoebe Rings『Phoebe Rings』
Caribou「Volume」
Julia-Sophie『Forgive To Slow』
Grazer「Memory Screen」
The Kaleidoscopes & Shuttle「Kung Fu」
Luna Li『When A Thought Grows Wings』
Moon Blue「All I Know (Is That)」

15:00~16:00



FAT MASA

2024年間ベスト・セレクトということで、たくさんの良作の中で僕が選んだのはMarcos Valle feat. Leon Ware の「Feels So Good」。過去のデモ音源からAIを駆使して再構築したと思えない、蔵出ししたかのような雰囲気に驚きと感謝であります。しかもアナログ盤もLPそして7インチまでリリース! 7インチ高すぎるので日本盤でリリース願います。
Leon Wareと言えば、橋本さんとご一緒した2009年の丸の内コットンクラブでのライヴと、2012年に初来札した札幌ペニーレーン24で観たライヴが忘れられません。
2009年のコットンクラブは初見でとにかく感動しきりでしたが、最前列のレスポンスの良くないお客もいれば、花束を渡した女性がLeon Wareからキスのお礼をもらう素敵な瞬間もあり、メロウなひとときに酔いしれましたが、大好きな「カルフォルニアの恋人たち」がセットリストになかったことだけが心残りでした。
2012年の札幌ペニーレーン24のライヴでは「カルフォルニアの恋人たち」もセットリストに入り、大合唱するほど大盛り上がり! オールスタンディングの会場ということもあり、さらに盛り上がったのかもしれません。
ただMarcos Valleはまだライヴに行けておりませんので、次の機会には必ずや行きたいところであります。

2025年も皆さまにとって素晴らしい音楽ライフでありますように願いつつ、引き続きよろしくお願いいたします。

Marcos Valle『Túnel Acústico』

16:00~17:00



小林恭 Takashi Kobayashi

2024年もメロウでアンビエント的な曲を数多く聴いた年でした。今回紹介する12枚のアルバムは全てレコードで所有しており、ターンテーブルに置かれる回数が最も多かった愛聴盤です。自宅で寛いだり、穏やかに過ごしたいときに、寄り添ってくれた素晴らしい音楽なので、ぜひ聴いてみてください。
2024年も数多くの素晴らしい音楽体験ができて、とても充実した一年になりました。1時間×2枠にとてもおさまりませんが、ベスト曲を詰め込んだので、楽しんでいただけたら嬉しいです。2025年も音楽に満たされて、そして世界の人々にとって新たな美しい世界が開かれて、平和な一年になるよう祈っています。

Nala Sinephro『Endlessness』
Arooj Aftab『Night Reign』
Amaro Freitas『Y'Y』
Ezra Feinberg『Soft Power』
Bremer/McCoy『Kosmos』
Turn On The Sunlight『Ocean Garden』
Blick Bassy『Mádibá Ni Mbondi』
Teen Daze『Elegant Rhythms』
Bruno Berle『No Reino Dos Afetos 2』
DJ HARRISON『Shades Of Yesterday』
Maria Chiara Argirò『Closer』
Orlas『Viver O Mar』

17:00~18:00



中上修作 Shusaku Nakagami

ここ数年来はジャンルで音楽を語るということがなくなったように思います。2000年代くらいまではジャズならジャズの、フォーク・ソングならフォーク・ソングのセオリーを先人より受け継ぎ熱意をもって音楽を制作していましたが、音楽制作が特権的ではなくなった現在地において、音楽ソフトの流通方法の激変やコロナ・シフトも加わり、大型レコード・ショップのソフトを隔てていた「仕切り」は陳腐化する一方です。

はじめてジョセフ・シャバソンを聴いたとき印象は悪くないものでしたが、とくに心に残った感じはありませんでした。彼はその後順調に作品リリースを重ね、生きているのか死んでいるのかわからない妙な浮遊感に20世紀音楽の「エッセンス」を加えただけの掲題作品に出会ったとき、「あ、これで完全にジャンルが崩壊した」と思いましたね。この衝撃は昨年からの選曲によく現れていると感じます。

選曲という行為はフェティッシュですが、空間を想定するだけで意味合いが異なってきます。サーバーにセットされた音楽が「私」から「公」に変わる瞬間を毎年楽しませていただいております。今年も聴いてくれてありがとう。

Shabason & Krgovich『At Scaramouche』

18:00~19:00



三谷昌平 Shohei Mitani

近年、Kiefer、FKJ、edblなど、ジャズ・テイストを織り交ぜたビートメイカー&マルチ・ミュージシャンの活躍が目立っているが、Gas Labはこの走りとも言うべきアルゼンチン出身のアーティスト。デビュー時から彼の作品を追いかけてきたが、ここ数年、ジャズ色が増し、ますます好みの作品が増えてきた。特に今年の後半は彼の作品を多用したが、本当に街の景色によく馴染む。『Foreign Collections』 はEarly Summer Collectinでもご紹介させていただいたが、まだ聴いてない方はぜひ一聴を!
それでは皆様、楽しい年末年始をお過ごしください。

Gas Lab『Foreland』
Gas Lab & Kristoffer Eikrem『Foreign Collections』

19:00~20:00



吉本宏 Hiroshi Yoshimoto

冬のショッピングモールのパーキングの切ない心象風景を描いたPajaro Sunriseの「Parking Lot」から始まった2024年。今年も全選曲からあらためて選び直した楽曲を上半期と下半期と2本に分けてピックアップ。

UK勢に勢いがあった上半期で象徴的だったのが、ロンドンから届けられたDee C Leeの鮮やかなライトブルーのニットを身にまとったジャケット。「Don't Forget About Love」やWeldon Irvineのナイス・カヴァー「I Love You」の駆け出したくなるような軽やかなソウルが春の訪れを告げた。マンチェスターのCaoilfhionn Roseの「Simple」のひんやりとしたノスタルジックな歌声や、バーミンガムのプロデューサーProdByMichelleによるミステリアスでメロウなトラック「Crystal」は春の夜を穏やかなサウンドで包み込む。清々しい歌声を聴かせたロンドン・ベースのLiana Floresのルーツはブラジル。そのブラジルからはBruno Berleの「Te Amar Eterno」や、イタリア在住のサンパウロ生まれのSSW、Tocoの「Clube」のソフト・ブラジリアンが、エッセンシャルなCafe Apres-midiのサウンドをイメージさせた。

下半期、数多く耳に留まったのはUSA勢。西海岸からは、LAのMALIA 「Cruise Control」やBrijean「Roxy」のドリーミーな歌声や、Peel Dream Magazineの 「Central Park West」、Pearl & The Oystersの「I Fell Into A Piano」など、ポップなバンドのしっとりとしたサウンドが夜の風景に溶け込む。さらにポートランドのPOSYの「All The Time」やサンディエゴのThee Sacred Souls「Live For You」はヴィンテージ感のあるソウル・フレイヴァーがまろやかに響いた。その他のエリアでは、フロリダのAmaria「Over」やノースカロライナのCarlitta Durand「Motions」にはメロウネスが、そしてNYのLinda Diaz「Watching Ourselves」やフィラデルフィアのOrion Sun「These Days」にはスウィートネスが際立った。特にシカゴのマルチ・アーティストのDemetruestの楽曲にはどれもフレッシュなセンスを感じた。

年間を通して特筆したいアーティストは、昨年の下期のベストに挙げたスペインのSSW、 Carlos Abril。今年もコンスタントにシングルをリリースし、どの楽曲もスウィート&メロウで夜の選曲に彩りを添えてくれた。

Dee C Lee『Just Something』
Demetruest『They All Kept Moving, While I Stood Still』
Carlos Abril「Hearts By The Hand」

20:00~21:00



高木慶太 Keita Takagi

ファレルの新譜をきっかけにAORに近いテイストのモダン・ソウルが気になって仕方なかったのが2024年の春のこと。アートワークも含めて琴線に触れてしまうともうダメですね。再発見という名の新発見に高揚しながら、ディオンヌ・ワーウィックに針を落とす楽しさよ。

Dionne Warwick『Dionne』

21:00~22:00



添田和幸 Kazuyuki Soeta

今年も2時間いただいて、僕なりに2024年を振り返ってみました。アルバム単位では来日ライヴが素晴らしかったShabakaやLiana Flores、今年だけで2作リリースしたGanavya、Arooj AftabやDaudi Matsikoあたりもよく針を落としましたね。曲単位では、前半はLaurent Bardainne & Tigre d'Eau Douceの「Luxe, calme et volupté」、後半ではClairoの「Slow Dance」が日々脳内で繰り返し鳴っていたベスト・トラックといった感じでしょうか。リスナーの皆さん、2024年もありがとうございました。2025年も素晴らしい音楽を日々ディグしてお届けできたらなと思っていますので、よろしくお願いいたします。

Nala Sinephro『Endlessness』
Isaiah Collier & The Chosen Few『The Almighty』
Uyama Hiroto『Breath Of Love』
Ashley Henry『Who We Are』
Magalí Datzira『La salut i la bellesa』
Arooj Aftab『Night Reign』
Shabaka『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』
Ganavya『Like The Sky I've Been Too Quiet』
Ganavya『Daughter Of A Temple』
Jaubi『A Sound Heart』
Bill Laurance & Michael League『Keeping Company』
Daudi Matsiko『The King Of Misery』
A Song For You『Home』
Yoshiharu Takeda「Montara」
Turn On The Sunlight『Ocean Garden』
Sophye Soliveau『Initiation』
Liana Flores『Flower Of The Soul』
Laurent Bardainne & Tigre d'Eau Douce『Eden Beach Club』
Saul Madiope『Digital Jazz Man』
Daymé Arocena『Alkemi』
Jembaa Groove『Ye Ankasa | We Ourselves』
Baby Rose『Slow Burn』
Clairo『Charm』
Breakfast Mood『At The Seahouse』
Aaron Frazer『Into The Blue』
Sy Smith『Until We Meet Again』

22:00~23:00



中村智昭 Tomoaki Nakamura

60年代後半〜70年代初頭のブラック・ジャズにあった眼差し、そして2000年代にカルロス・ニーニョ率いるビルド・アン・アークが描いた世界を現在に継ぐ、シカゴ出身のサックス奏者イザイア・コリアー。「Perspective (Peace And Love)」を2025年へのパースペクティヴ、または願いと祈りを込めて。

Isaiah Collier & The Chosen Few『The Almighty』

23:00~24:00

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