文系出身エンジニアがソフトウェア開発現場で活躍するには
組み込み設計から完成品開発までこなすモノづくり企業ユー・エス・イー(USE Inc.)。ベテランエンジニアにインタビューし、エンジニアの魅力や、エンジニアとしての仕事の流儀、今の若手エンジニアへのメッセージをお届けします。
ソフトウェア開発部門で一番大規模なプロジェクトのマネージャーを務める小野里のインタビューをお届けします。
小野里亮太郎
USE歴25年
エンジニア歴25年
文系出身エンジニアでも、入社3ヶ月で客先デビュー
―小野里さん、本日はよろしくお願いいたします。
「よろしくお願いいたします。どんな風にインタビューされるのか、少し緊張しています。」
―そうですよね、今日はいろいろお話聞かせてください。まず、エンジニア歴とUSE歴を教えていただけますか?
「エンジニア歴・USE歴共に25年で、USE Inc.には第二新卒入社しました。先にインタビューされていた長島さんと同期入社です。」
―長島さんは文系出身とのことでしたが、小野里さんは理系出身ですか?
「いえ、私も文系出身ですよ。大学を卒業してそのままバイトを継続していたのですが、IT関係の友人から話をきいて興味を持っていたこともあり、USE Inc.に入社することになりました。当時はプログラミングの『プ』の字も知らないほど知識ゼロでした。」
―今も未経験や独学の方を迎え入れることが多いUSE Inc.ですが、その流れは昔からだったのですね。入社後は研修などで勉強されたのでしょうか?
「そうです、入社初日に教育担当の先輩からプログラミングの本を1冊買うように言われて本で勉強しました。社内研修ももちろんあって、最初1ヶ月は座学で基礎学習、2ヶ月目からは『時計のプログラムを作る』というテーマで実際にプログラミングの練習をしました。そして、3ヶ月目には車載オーディオメーカーのソフトウェア開発で客先出向していました。アセンブラ言語を使用した開発でしたね。」
―3ヶ月目から客先出向って、かなり早いデビューですよね。
「そうですね、当時は基礎を知ったら後は現場で学びながら自分のものにしていくというスタイルでしたからね。一緒に出向した先輩社員や、出向先の方に暖かい目で見ていただいていました。とはいえ、早く一人前になりたくて必死でしたね。その後も車載系の開発が多く、カーオーディオやMD、DVDプレイヤーなどに携わってきました。
まだ若手の時に関わった開発で思い出に残っているものがあります。国内オーディオメーカーのカーオーディオのデザインモデルの開発です。デザインに特化したこだわりの製品作りをしていて、デザイナーさんから独特なリクエストがたくさん出てくるのです。それをソフトウェアで実現させるために相当頭を捻りましたね。なんとかリクエスト通りの仕様を表現することができて、デザイナーさんに『いいね! イメージしたものが再現されている! 』と言われた時は本当に嬉しかったです。そして、実際にカー用品店でその製品が展示されて動いているのを見た時には感動しましたね。」
30代後半から20名規模のプロジェクトマネジメントを担当
―喜びや感謝の声を聞けるのは嬉しいですよね。小野里さんは比較的若い時から大規模プロジェクトでPM(プロジェクトマネージャー)をされていたとお聞きしています、いつ頃初PMをされたのでしょうか?
「2013年に車載部品メーカーの検証業務で20名規模のPMをしたのが最初だったと思います。当時既に30代後半だったのでそこまで若くはありませんが、自分にとっては初めての経験でした。20名規模にもなると実際の業務は複数のチームに分かれて行うので、各チームリーダーとこまめに話をするように心がけていましたね。定例会などだけでなく、日常の中のちょっとしたコミュニケーションや声がけといいますか……。キャラクターや年齢も様々なので、声を掛けられるのを待っているのではなく自分から声をかけることを大事にしていました。
PM業務として開発の進捗管理と同時に、客先とのコミュニケーションも必須です。例えば、客先への報告は相手の立場によって説明や資料の粒度を変えるようにしていました。部長さんに細かい技術の話をしても仕方ないですし、その立場によって『知りたい内容』が変わってきますからね。また、社内で対応可能な納期よりも早い納期をリクエストされることもよくあります。そういう場面では『早く』『70~80点』を着地点とすることを目指して、まず両者の話を聞いた上で、状況を踏まえつつ落としどころを見つけて、さらに両者に納得してもらえるように説明することが必要です。最初に文系出身という話をしましたが、わかりやすく伝える力や相手に合わせた説明するといういわゆる国語力は、文系としての強みかなと思っています。
理系出身の生粋のエンジニア(USE Inc.社内だと、執行役員・斎藤や、技術統括・金子)の知識の広さや深さには到底かなわないと思っているので、PMと言う立場は自分の強みを活かせると思っています。」
―現在も社内で一番大きな部署でPMをされていますが、昔と今と変わったことはありますか?
「PMに求められることは昔も今も基本的には同じで、そのプロジェクト全体を俯瞰して『広く深く』知っておくことです。実際はどうしても『広く浅く』にはなってしまうのですが、その『浅く』の部分が経験を積むごとに『少し深く』することができているかなと思っています。
あとは、USE Inc.に限らずだと思いますが、若い世代とのコミュニケーションは課題だと思っています。昭和の育成・教育は、『まず先輩のいう事は絶対。言われたことをやっているうちに信頼関係ができてくる』という『先輩後輩関係の後から信頼関係がついてくる』パターンです。けれど、Z世代・令和の育成・教育は『まず信頼関係を築いた上に先輩後輩関係が成り立つ』という『信頼関係ありき』です。
前者のやり方で信頼関係を築いてきた世代としては、最初の信頼関係の作り方が難しいなと思っています。昭和的な『飲み会』などのコミュニケーションは、今の仕事とプライベートを分ける考えの中では歓迎されないこともありますしね。やはり業務内でのコミュニケーションを増やして、信頼関係を築いていくのが良いかなと思っていますが、『自分が育ててもらってきたやり方が通用しない』というのが、一番難しさを感じているところです。本を読んだり、TikTokなどに投稿された動画を見たりして新しい考えを吸収しながらやっています。」
―自分の経験と違うというのが、一番難しいところですよね。
「私の場合は、入社2年目から客先との窓口を行い成長の機会を与えてもらっていました。それができたのは、当時のマイコンはまだ容量が小さくて、小規模(1~2人)でソフトウェア開発から客先対応までできるプロジェクトがたくさんあったからです。今は容量が当時の4~10倍などと大きく、当然プログラムも大規模になるので少人数ではとても対応できません。ソフトウェアの規模が大きくなるとどうしても分業制になってしまい、ソフトウェアやプロジェクト全体を見る目が育ちにくくなりますし、客先との窓口業務を経験できる人自体も減ってしまうのですよね。
今PL(プロジェクトリーダー)業務をやっているメンバーにはもっとPM寄りのことをやらせてあげたいと思っています。そのためには、PL業務ができるメンバーをもっと増やす必要がありますし、全体的な底上げが必要になるんですよね。現在のPLとそこに続くメンバーは良い社員が揃っているのでもっともっと活躍できるようになってほしいと思っています。」
現場経験も積み、USE Inc.の品質管理の基礎を作った
―PMには開発の進捗管理、客先との窓口、メンバーの育成と様々な視点が必要になりますね。小野里さんは、USE Inc.のA-SPICE(※2)やCMMI(※3)取得など、品質管理のベースを作ったと聞いていますが、どんな経緯があったのでしょうか?
※2 車載ソフトウェア開発プロセスのフレームワークを定めた業界標準のプロセスモデル。Automotive Software Process Improvement and Capability Determinationの略。
※3 企業におけるプロジェクトマネジメント能力を一定の基準で評価するための指標。プロセス成熟度をレベル1~5の5段階で評価する。Capability Maturity Model Integrationの略。
「A-SPICEは、車載系の業務受託条件として必須で取得することになりました。現在は車載系の仕事は減っていますが、これを発注条件としている国内カーメーカーは多く、信頼性の高いものだと思います。
CMMIは継続的にお付き合いのある国内オーディオメーカーさんが社内プロセスを整備するという流れもあり、取得することになりましたね。初取得の際、私は開発から離れて専任となり、社外セミナーなど行けるものは全て行って勉強をしながら社内のプロセス整備を行いました。コンサルさんはやはり理想論を言うので、それをすべて導入すると現場は回らなくなってしまいます。ある程度PLやPM経験も積んで現場のこともわかっていたので、その両方の落としどころを見極めるのは非常に難しかったですね。品質やプロセス関連の書類の中には、当時私が作って今もまだ使われているものもあると思います。
現在は担当から離れていますが、2年に一度のアプレイザル(更新)に会社として継続的に取り組んでいますよね。CMMIは日本国内よりも中国での信頼性が高いので、その後の海外展開にも必要なものだったと思いますし、今でも『CMMI LV3取得企業』として依頼があるのも事実ですね。」
今後在りたい姿とは
―小野里さんは、とても勉強熱心なんですね、随所に『勉強する』というワードが出てきています。今後は目指しているものはありますでしょうか?
「そうですね、今の20~30名規模のPMが自分の力を発揮できるなと感じているので、円滑にプロジェクトを回せるようになりたいですし、なにより若手にチャンスを与えて活躍の場を作ってあげられるPMで在りたいと思っています。窓口なので客先から怒られたり苦情を受けたりということもありますが、『自分(小野里)に頼んで良かった、USE Inc.に仕事を任せて良かった。』という声を直接聞くことができるというPMならではの特権もあります。
あとは、生粋のエンジニアにはかなわないと言いましたが、やっぱりプログラムを書くのは楽しいです。小さなプロジェクトを掛け持ちしながらまたプログラムを書く仕事をしたいなと思うこともあります。」
―小野里さん、ありがとうございました。
編集後記
最近とてもスリムになった小野里さん。健康管理の話をきくと、アプリを使用した食事の見直しや、週末にウォーキングを取り入れた話をしてくれました。そのおかげで、体も思考も軽くなり、朝時間を効率的に使った仕事をして業務効率もあがるようになったとか。最近使うようになったTikTokのサジェストは、「部下とのコミュニケーション」「健康管理」「癒しの動物」ばかりだそうです。
「文系」「理系」の話が何度か話題に上がりましたが、小野里さんは「文系の強み」とこの勉強熱心さを活かし、「理系ソフトウェア業界」の第一線で活躍されているのだと思いました。
インタビュー実施:2024年3月
常駐先の窓の大きなオフィスにて
Interview & Text 渡部美里
USE Inc. お問合せ先
https://www.use-inc.co.jp/contact/
USE Inc. 採用情報
\文系出身でもエンジニアを目指したい人 チャンスあります/https://www.use-inc.co.jp/recruit/
vol.1 歴37年のエンジニアが若手に求める3つのスキル
vol.2 子どもの頃からの夢を叶えた生粋のエンジニアが薦める”興味を広げる”勉強法
vol.3 日本のモノづくりを支えてきたエンジニアが語る35年のエンジニア人生
vol.4 技術が代名詞になるほど専門性の高いエンジニアになる方法とは?
Vol.5 エンジニアとしての『プロフェッショナル』を極める
vol.6 エンジニアとして覚悟を決めた時
vol.7 技術もマネジメントも「伝える」「伝わる」エンジニア
vol.8 技術力はお墨付き 今も開発を楽しむエンジニアの原動力となるもの