エンジニアとして覚悟を決めた時
組み込み設計から完成品開発までこなすモノづくり企業ユー・エス・イー(USE Inc.)。ベテランエンジニアにインタビューし、エンジニアの魅力や、エンジニアとしての仕事の流儀、今の若手エンジニアへのメッセージをお届けします。
6回目は、現在役員を務めているエンジニアのインタビューをお届けします。
プロフィール:山岡勇
エンジニア歴:40年
USE歴:30年
入社後半年で客先常駐。エンジニアとしての覚悟を決めた瞬間
山岡さん、お忙しい中お時間ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。まず、エンジニア歴、USE歴からお伺いできますでしょうか?
「よろしくお願いいたします。エンジニア歴は丸40年、USE歴は30年ですね。大卒でエンジニアになり、3月で62才になります。」
―40年ですか! 人生まるごとエンジニアですね。昨年創業30年を迎えたUSE Inc.でもかなりの初期メンバーということですね。
「そうですね。USE Inc.入社前は、会長や市川現社長と同じ半導体商社に勤務していました。半導体の拡販部隊に配属されて営業と技術系の研修を半年ほど受けてから、その後すぐに取引先の国内オーディオメーカーに入って開発業務を行いました。」
―え? 入社半年で、客先常駐ですか? 早すぎるような気がするのですが……。
「早いですよね。実際、知識も十分でなかったと思いますが、仕事なので与えられたらやるのみでした。昔は、仕事は教わるものではなくて手を動かしながら覚えていくものという考えでしたしね。週に1回は所属会社に戻ってきて報告や開発に関する相談をしていましたが、基本的には客先に一人で常駐していました。十分な知識がないとはいえ、客先の他部署の方が集まる会議にも参加し、マイコンマニュアルを隅から隅まで読んだり必死に知識をつけていましたよ。
客先のプロジェクトマネージャーからも『(開発している)ソフトがダメだったら御社との関係もなくなる、マイコンも使わなくなる』と言われていましたし、言い訳をしている暇なんてありませんでした。エンジニアならばできない言い訳をするよりも、『やれることを1つ1つやっていく』『やれることを1つ1つ増やしていくしかない』と思ったのを今でも覚えています。」
―エンジニアとしての覚悟を決めた時なのですね。その時は何を開発されていたのですか?
「10枚のCDが収納できるカーオーディオ用のCDオートチェンジャーです。10枚のCDを入れるBOXと操作部が別々になっていて、BOXはトランクやダッシュボードに積み、車内からリモコンで好きなCDを選んで聴くというものですね。BOXの中では、選んだCDを読み込み機能部分に移動させて再生するという動きをします。
カーオーディオで、CDオートチェンジャー機能がついたものは世界初だったので、1986年の発売時には新聞記事にもなりましたよ。自分が開発に関わったものが記事になったので、とても感慨深かったですね。この製品は、タクシーや観光バスの需要が多かったと聞いています。
CD再生の音声信号をFMラジオ信号に変換し、カーオーディオのFMラジオで受信する形で音楽を聴くCDオートチェンジャーも開発しました。今では考えられませんが、当時はラジオしかない車もあったので、このシステムはかなり人気になりましたね。」
―新聞に載ったなんてすごいですね。他にどんなものを開発されていましたか?
「MDやDVDといった歴代オーディオ関係の開発が多かったですね。光学系の部分を主にやっていたので、曲名のデジタル表示の文字をディスプレイに表示させるとか、リピートやシャッフル、イントロスキャンとか。」
―鳥井さんと同じようにオーディオ関係の開発が多かったのですね。苦労された開発などはありますか?
「開発自体というよりも、環境面での苦労は多々ありましたよ。メーカーさんの工場の片隅にある小部屋で作業していて、窓から差し込む光が強すぎて、確認中のメカが誤動作したり、作ったプログラムが実際に正しく動作するかチェックするといった今だったらすぐにできるような作業も、昔はアセンブラに数時間もかかる環境下でやっていたりとか……。この40年で開発環境も相当変化しましたよね。
でも、良かった点もあって不自由もある環境だったからこそ笑いが生まれて、担当作業の垣根なく話ができたり、マイコン周辺の電気関係の知識もついたりと無駄なことはなかったと感じています。現在の方が開発環境としては便利ですが、昔は不便な分を創意工夫で乗り切ってきたと思っています。」
人生まるごとエンジニアにとって『開発』とは
―ベテランの方にお話を伺うと、皆さん昔の開発は楽しかったとおっしゃいますね。山岡さんにとって、開発とはどんなものでしょうか?
「むずかしいことを聞きますね、40年もやっていると、改めて考えることは少ないですが……。
やっぱり『言われて作る事だけが開発ではない』ということでしょうか。メーカーさんの仕様が完璧なわけでもないですし、世にないものを作るときには正解がわからないこともあります。だからこそ、我々作る側の人間が見えないところまで想像して、ユーザー目線、エンジニア目線の両方を交えながら開発することが大事だと思ってきました。時にはメーカーさんの仕様に変更提案することも大切だと思いますし。ちょっとかっこいい言い方をすると、『製品に命を吹き込むのが開発』なのかなあ。」
―命を吹き込む……確かにそうですね。家電などもマイコンがあるからこそ、便利に使えるわけですしね。ところで、山岡さんはマラソンが趣味と聞いております。
「そうです。40代になってから誘われて始めた趣味ですが、もともとスポーツは好きだったので当時は年間20レースくらい参加していましたよ。
『サロマ湖100kmウルトラマラソン』(※1)にも13回挑戦して、10回完走しました。100kmを10回完走すると「サロマンブルー」という称号をもらえて、フィニッシュ地点に記念の足形が飾られるんですよ。」
※1 毎年6月(2020~2022は開催中止)に北海道のサロマ湖周辺で開催されているウルトラマラソン大会。ウルトラマラソンとは42.195キロ以上を走るマラソンのこと。
―40代から始めてというのもすごいし、足形が飾ってあるのもすごいですね。100kmも走るなんて、想像がつきません……。
「すごく疲れますけど、きれいな景色を見ながら走っていると、無心になれるんですよね。このマラソンには、体力的にはもちろん、精神的にもかなり鍛えられました。やるべき時に踏ん張りがきくというのは、マラソンで鍛えられたおかげだと思っています。」
製品に命を吹き込む開発をするには?
―エンジニア業務は時には体力勝負になることもありますよね。今山岡さんはR&Dを通じて若手エンジニアに接することも多いと思います。なにかメッセージをいただけますか?
「わかりました。今までの他のエンジニアインタビューでも出てきているので、ちょっと違うことを考えてきましたよ。『自分の気づきをとことん追求してほしい』ということです。
設計上の確認や、製品の機能確認(デバッグ、評価)の際に何かおかしい、何か変だなとおもった時は必ずどこかに問題があるものです。それは、ソフトの問題だけではないかもしれません。電気、メカなどの問題でソフトに影響が出ている場合もあります。ですので、その感覚を無視することなく、些細な気づきもチームやプロジェクト内で共有して、一緒に追求してほしいと思っています。原因をとことん追求すること、そしてどう改善できるのかをとことん考えることが、製品に吹き込む命を磨くことになると思っています。
また困っているプロジェクトに気づいたら、自分から手伝ってあげてほしいですね。エンジニア業務はどうしても波があって煮詰まったり人手が必要になる時もありますから。ちょっと周囲に気を配る意識とか、自分から声をかけてみる意識とか、こういった細かい事の積み重ねが、お客様からの信頼、自身の成長に繋がっていくと思います。」
―山岡さん、ありがとうございました。
編集後記
昔の開発の話や、100キロマラソンの話をとても楽しそうに語るのが印象的でした。大変なことを『大変』だけで終わらせずに、その中に楽しさを見つけたり、自分の糧にしてきて今の姿があるんですね。
サロマ湖100キロマラソンの称号、10回完走のサロマンブルーの次は、20回完走でグランドブルーがあるそうです。ぜひグランドブルーを目指してチャレンジしてほしいです。
USE Inc. 問合せ先
https://www.use-inc.co.jp/contact/
USE Inc. 採用情報 \個性あるエンジニア募集中/
https://www.use-inc.co.jp/recruit/
インタビュー実施:2023年10月本社にて
Interview & Text 渡部美里
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