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Day11 整置


はじめに

 「整置」はナビゲーションの実行部分における最も基本的な技術のひとつです。私は「整置」という技術を特に重視していて、コーチングの際にも強調するようにしています。
 今回の記事では「整置」について自分の思うところと練習方法を紹介しようと思います。合宿や練習会などで話したことがある人は聞いたことがある話かもしれません。

「コンパスの北を合わせること」ではない!

 上級生が新入生に整置を教える際、「整置というのは、コンパスの針が示す北と磁北線が合うように地図を持つこと」と説明しているのをしばしば目にします。ですがこれは整置という技術の説明としてあまり本質的でないと私は思います。
 私は「整置」を動作としては「地図を正しい向きに持つこと」、認識としては「自分の考える方向を現実世界に一致させること」と解釈しています。「コンパスの北と地図の北が合うようにする」というのは「正しい向きに持つ」という目的に対する手段のひとつに過ぎないのです。
 ですので最初の説明の例をより適切にするとしたら「整置とは地図を正しい向きに持つこと。そのための方法としてコンパスが示す北と磁北線が合うように地図を持つんだよ」と、このように目的と手段を明確に分けるのがいいと思います。

 ただ、これでもまだ私的には整置の説明としては不十分です。整置の目的に対して「コンパスを使う」というのは手段の一つに過ぎないためです。
 「地図を正しい向きに持つ」にはコンパスは必須ではありません。周囲の特徴物の位置関係と矛盾しないように地図を持つことでも整置はできますす。
 これは現地で何を見ればいいのかをすぐに判断できることが嬉しいです。オリエンテーリングでは地図→現地、現地→地図双方向の地図読みを行いますが、いずれも周囲をよく見て情報を得る必要があります。整置を身につける最初のうちは周囲の特徴物に意識を向けるようにしてほしいなぁと思います。

 ではコンパスは使わないかというと、そんなことはありません。整置をする際は地図もコンパスも両方見ます。自分の場合体感として地図:コンパスを6:4~7:3くらいの割合で注意しているような気がします。地形が複雑なとき、精度を上げたいとき、周囲の視界が悪いとき、スタート直後で周囲の状態を把握しきれていないときなどはコンパスを優位にすることもあります。
 先日の伊勢志摩OLC大会で気づきましたが、自分は意外と整置の際にコンパスを見ているようです。同大会の地図では磁北線が真北を示しており、コンパスで整置すると7度ほどずれるようになっていました。道の分岐などの体の向きが変わるタイミングではほぼ必ず整置するんですが、その際道の向きにけっこう違和感がありました。レース直後は磁北線のずれのことを忘れていたので「寝不足のせいかな」くらいにしか思いませんでしたが、7度のずれが違和感の原因なのかなと思いました。

 余談を挟みつつコンパスも見るよという話をしましたが、初心者の方にいきなり地図もコンパスも見るように指導するのはあまり適当でないように思います。たぶん、地図もコンパスも見るというのはけっこう難しいことです。
 ということで最初の話に戻ると、初心者に整置を教える際には
①整置とは地図を正しい向きに持つこと
②正しい向きであれば特徴物の位置関係が正しく対応させられること
③コンパスは整置を簡単にするためのツールであること
の3点を伝えるのがいいと思います。
 北に合わせるというのは簡単でわかりやすい動作なので初心者の指導において決して悪くはないですが、ちょっと踏み込んで説明してあげてもいいんじゃないでしょうか。

 ちなみに私が中学1年生でオリエンテーリングを始めたての頃、最初のうちはコンパスを持たずにオリエンテーリングをさせられていました。これは当時高2で新入生の技術指導リーダーだった長谷川先輩の方針だったそうで、ここまで私が述べたような理由でその方針にしたらしいです。当時はよく理解していなかったですが、今思うととても納得感があります。そしていつからか祖父江は整置信者となったのでした。

認識としての整置

 前章の序盤に「認識としては〜」と書いていながらここまでの話題は動作に寄っていたので認識の話もします。「動作と認識を分けて考える」というのは最近思いついたものなのでうまくまとめられないかもしれないですが書いてみます。
 私がオリエンテーリングをする際、「次に行くべき方向はあっち」という認識が常にあります。今いる場所から見て次のポスト(or特徴物)はどの方向かということです。比較的精度高く意識を向けられているのかなとレース後の会話やランオブ時に思います。この「次の目的地がどの方向か」を認識することが「認識としての整置」の一面です。
 ポケモン不思議のダンジョンのかしこさに「カンがいい」という、階段のあるおよその方向が矢印でわかるものがあるんですが、だいたいそんなイメージです。

整置できていてえらい

 「"だいたいあっちにポストがあるはずだ"という認識を、地図を参照して補強する」みたいなことが多々あり、これも「整置」のうちに入るなと最近思っています。
 ちょっと何言ってるかよく分からないですね。

「整置」と「正置」

 ちなみに「セイチ」には「整置」と「正置」の2通りの書き方があり、どうやら後者の方が一般的なようです。ですが私は「整置」派です。これは逆張りオタクをしているわけではなく、ちゃんと理由があります。
 「正置」という書き方だと「正しければいい」みたいな印象を受けます。「コンパスと合っていればいいんでしょ」みたいなイメージです。機械的に向きを合わせるのではなく、「自分が進みたい方向を視界の中で意識づける」という部分のニュアンスを表現するのに「整」の文字の方がしっくり来るなと思っています。

整置の練習方法

 私の整置への想いはここまでで伝わったと思いますので、ここからは「どうやって整置を上達させる?」というお話です。
 最終的な目標は「整置を高精度かつ無意識に行えるようになること」です。私自身まだ道半ばですが、昔と比べて着実にものにできている実感はあります。

整置100ポ練

 主にハンドリングの手続きの練習です。ハンドリングというのは、体の向きが変わる際に地図を持ち変えることです。地図の方に身体向けつつ地図を中心に公転するイメージです。月が地球の周りを回るのと同じ要領ですね。

地図の持ち替えのイメージ
オリエンテーリング指導教本ナビゲーション技術編(https://www.orienteering.or.jp/archive/leader/teaching_manual_02_20240618.pdf)より引用

 100ポ練は文字通り100レッグで上記のハンドリングを練習するものです。野球の素振りみたいなものだと思います。野球をやったことがないので知らないですが。


50レッグくらいしかないですが
レッグ線に合わせて体を回しつつ整置された状態をキープするように地図を持ち替えます

 やる際の注意点は「ずっと手元を見続けない」ことです。実際のレース中、整置をしたらルックアップして周囲の様子を確認しますよね。100ポ練でもそれと同じように1レッグごとに顔を上げる動作を意識しましょう。
 アレンジとして、Omap上に100レッグを作って、1レッグごとに目立つ情報を拾いながら整置の動作を練習する、みたいなのもアリかもしれません。これはただの思いつきですが。
 最近はあんまりやっていませんが中高時代はたまにやっていました。家の中でもできるのでおすすめです。

スプリントエクササイズ(クイックO)

こういうやつ

 パイロンなどを置いて行う小規模なオリエンテーリングです。アレンジとして横断禁止の柵を設ける場合もあります。この練習を行う際はルックアップとハンドリングを意識するようにしましょう。タイムを競うのも楽しくていいと思いますが、練習としてやるなら目的意識は明確にしましょう。
 中高時代、ワンゲル部のピロティでの練習の定番でした。ハンドリングはこれで上達した気がします。
 余談ですが「クイックO」という呼称は商標登録がうんたらかんたらなので、仲間内でやる場合を除き使うのは避けた方がいいでしょう。その経緯についてはこちらのOマガジンの記事を参照。

地図を手にしたら必ず整置する

 これはオリエンティアあるあるかもしれませんが、博物館や遊園地などで案内図を手にした時、まず整置しますよね。なんなら持ちやすいように地図を折り変えるので帰る頃にはグシャグシャに…なんてことも。決して悪気は無いんですがね、気づいたらそうなっていまして。思い当たる節が無い人は次回からやってみるといいと思います。なお非オリエンティアには引かれる可能性があるので同行メンバーには気をつけましょう。
 これと似たことで、地図読み練習などでレッグを読む時はレッグ線を身体に正対させることも意識するといいと思います。自分がレッグ読みを流すときはなるべく次のポストが上になるようにしています。

オリエンテーリングをする

 実践的な練習です。常に整置をキープして回ることを目標にやってみます。スプリントでもフォレストでもいいです。
 あとコンパスなしでフォレストを走るのも結構いい練習になると思います。意外とできます。

おわりに

 整置を無意識レベルに落とすことができれば、脳のリソースを整置に割く必要がなくなります。浮いたリソースはプランニングやリロケといった他のナビゲーション要素に使えるようになります。ナビの安定感が上がるので整置に自信のない人は練習しましょう!整置ができるようになるとオリエンテーリングがもっと楽しくなると思います。

明日の記事は「好きなテレイン」です。お楽しみに。

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