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売れない商品を置くなと言うコンサルが何故クビになるか


経営コンサル×経済学

今回は、あまりコンサル業務と関係が無さそうな「経済学」について触れてみたいと思います。

日頃の業務の中で、主にマネジメントやマーケティングについて支援させて頂くのが私達コンサルタントの仕事ですが、その中で日頃から思っているのは「経済学の知識も必要だよね?」ということです。

例えば、下がコンサルを行う時に使用するフレームワークの例ですが、上に行けば行くほど内容が抽象的になり、具体的な数字が見えにくくなる傾向があります。また、逆に、下に行けば行くほど、内容が個別具体的になり事業全体を俯瞰しにくくなる傾向があります。

階層別フレームワーク使用例

上記の階層別フレームワークについての詳細は、拙著【中小企業のための「ビジネスモデル」の作り方】をご参照下さい。(宣伝)

例えば、消費者行動モデル

例えば、消費者がどのような行動をするのか分析するためのモデルですが、いわゆるマーケティング領域ではAIDAモデル等を使用します。(他にもい色々な種類がありますが)

AIDAモデル

これは伝統的な消費者行動モデルの一つで、現在のオンライン上の行動分析にマッチしないなどの問題点はありますが、コンサルタント目線では顧客へのアドバイスに使用するための例として問題がないように感じます。

しかし、実際にこれを顧客に伝えても「具体的どういうこと?」と言う話になるもの現実です。

もちろん、実際にこのようなAIDAモデルとセットで、様々な具体をご紹介することになるのですが、数字で見えないとわかりにくいと思いませんか?

ミクロ経済学の合理的な分析

そこで、次にご紹介したいのがミクロ経済学における消費者行動理論です。

ミクロ経済学では「人間は合理的な選択をする」と言う前提で、様々な計算がされていますので、ものすごーく乱暴に消費者行動理論を要約すると、「人間は安い方が嬉しいのでたくさん買う」と言う結果になります。

需要の価格弾力性の例(つまり、価格と売れる量の関係を計算)
$${E_d=\frac{{\Delta} Q}{{\Delta} P}}$$
$${E_d}$$=価格弾力性
$${\Delta Q}$$=需要量の変化=$${\frac{Q2-Q_1}{Q_1}}$$
$${\Delta P}$$=価格の変化=$${\frac{P_2-P_1}{P_1}}$$
つまり$${E_d=\frac{\frac{Q2-Q_1}{Q_1}}{\frac{P_2-P_1}{P_1}}}$$となるため、
価格弾力性を用いて、価格変更後の需要量を次の式で予測する式は
$${Q_2 = Q_1 \times \left( 1 + E_d \times \frac{P_2-P_1}{P_1} \right)}$$となります。

需要の価格弾力性

あまりマニアックにすると誰も読んでくれなくなりそうですので、途中を省略させて頂きますが、事業計画書を作成する際やプレゼンを行う際などに、このような算式があれば非常に納得感が出てきます。

しかし、現実には「人間は必ず安い方を選ぶわけではない」し、そもそも「常に合理的な判断ができるわけではない」のです。

行動経済学

行動経済学とミクロ経済学は、どちらも人間の行動(と言うか意思決定)を予想するためのモデルです。

ただ、行動経済学はより「心理学」的な側面を有しており、むしろ経営心理学やマーケティング論、脳科学にも近いポジションにあります。

つまり、人間は合理的な判断をするという前提で計算されたミクロ経済学に、心理的なバイアスを加えたものが行動経済学と言えます。

ですので、ミクロ経済学の計算に心理的なバイアスを与えれば、よりリアルな消費者行動計算ができるということになります。(それでも、人間の心理的な動きが全て計算できるわけではありませんが)

行動経済学で有名な考え方にプロスペクト理論と呼ばれるものがあります。

行動経済学のプロスペクト理論

この、プロスペクト理論も乱暴に説明してしまえば、「人間は得した時よりも損した時の方が受ける影響が大きい」と言うものです。(単純に言えば、1万円を落とした時の悲しみは、1万円をもらった時の喜びの2倍ダメージ)


プロスペクト理論の価値関数

上が、プロスペクト理論の価値関数をExcelで書いたグラフです。

プロスペクト理論の価値関数は、次の通りになります。

$${\upsilon(x)=\left(\begin{array}{rr}x^\alpha & (x \geq 0) & \text{利得領域} \\-\lambda(-x)^\beta & (x<0) & \text{損失領域} \\\end{array}\right)}$$

$${\upsilon(x)}$$=価値(心理的な価値)
α=利得パラメータ
β=損失パラメータ
λ=損失回避パラメータ
で、α=β(どっちも一万円)のとき、λ(どれぐらい悲しいか)を計算しています。

パッと見では分かりにくいですが、Excelで書く分には簡単です。

α=0.5
β=0.5
λ=2

//利得領域
=(x)^0.5
//損失領域
=-2*(-1*x)^0.5
//IF分で損得判定
=IF(x>=0,(x)^0.5,-2*(-1*x)^0.5)

この算式をX値(例えば-100~100まで)を入力したセルの横にずらーっと並べてあげれば、上記のような表ができます。

価値関数が何を意味するか

さて、ここでようやくタイトルの「売れない商品を置くなと言うコンサルが何故クビになるか」と言う話題に入るのですが、先程の価値関数は無駄にお見せしたわけではありません。

実際に「人間が損失を回避したくなる理屈を可視化した」ものが、あの価値関数です。

つまり、ミクロ経済学の項でお示したしたような
$${Q_2 = Q_1 \times \left( 1 + E_d \times \frac{P_2-P_1}{P_1} \right)}$$
と言う数式には、現実的にこういった価値関数的なバイアスが加わる、もしくはプレイヤー側で加えることができる、という事です。

例えば、ポップコーンを1カップ750円で販売したいとします。
しかし、実際に消費者の視点からすると「えっ!ポップコーンが1つ750円!?高い!」となってしまいます。

そこで、行動経済学おけるデコイ効果を狙い、

  • 500円のかなり少ないポップコーン

  • 700円の少ないポップコーン

  • 750円の普通盛りポップコーン

を用意します。すると、消費者は「700円と750円を比べると、50円しか違わないのに大盛りになるなら750円のポップコーンの方がお得だ!」と考えるようになります。また、「選択した」と言う満足感を得られるようになります。

つまり、500円や700円のポップコーンが売れないからと言って商品一覧から削除すると、逆に750円のポップコーンの売上が減少する可能性があるということです。

この選択を増やすことで売りたい商品を誘導する効果を「デコイ効果」と言い、また、消費者に選択の権利を与え満足感を得てもらう効果は「自己決定理論」で説明されています。

よく家電量販店などで使われる手法ですね。高い冷蔵庫の横に、割引セールが実施された冷蔵庫があれば「安い!今買わなきゃ!」って思ってしまうアレです。(割引って言っても元値は業者側が決めてるんですけど)

この、「今買わないと損をするかも」と思わせる心理を「損失回避」と呼びます。

まとめ

さて、話が大分冗長かつマニアックになってしまいましたが、書籍に書いても売れそうにないマニアックな話は、今後こちらのブログに書いていきたいと思います。(まとまったら書籍にするかもしれませんが)

もしよろしければ、もう少しマニアックではない事業計画書の書き方を書籍にしておりますので、ご興味のある方は是非ご一読下さい。




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