【NASDAQ】人口皮膚、オーガノの財務転換点
傷口に貼り付けて治癒を早める皮膚代替膜などを開発するオーガノジェネシス・ホールディングス【NASDAQ:ORGO】の財務が転換点に来ています。2020年7月~9月には1株当たり利益(EPS)が黒字に転換。2020年10月~12月にはフリーキャッシュフロー(FCF)の黒字転換の可能性も高まっています。スポーツ医療品も手掛けていて、コロナワクチン普及後のスポーツ再開というポジティブストーリーに期待が持てます。※執筆は2021年2月14日、株価12.74ドル時点
傷口に貼る皮膚代替膜
擦り傷や、やけどといった怪我は、誰もが経験する身近な事故です。オーガノは傷口に貼り付ける膜を製造しています。人口の皮膚のような医療品で、感染症を防ぎ、傷の治りを早めるそうです。
擦り傷は感染症に陥っても初期は症状が出にくいことから、医療介入が見逃されがちです。あまりにも身近な事故であるため、見過ごしてしまうという事情もあるかもしれません。結果として創傷が悪化し慢性化することが珍しくないと言います。
初期症状が出にくい要因とされるのが細菌が形成するバイオフィルムです。傷口に細菌がフィルム(膜)を作り、その下で虎視眈々と増殖するのだそうです。バイオフィルムは顕微鏡で見なければ特定できず、知らぬ間に感染症に陥り、いつまでたっても傷が治らない状態に陥ります。このバイオフィルムの形成を抑制し、傷口が治るのに最適な状態を保つのがオーガノの主力製品である皮膚代替膜「PuraPly」です。
さらに「PuraPly」の次に使う「Affinity」という製品は、生きた細胞を含んだ液体に浸した皮膚代替膜で、傷口の再生を助けるそうです。※このあたりのことは専門家ではないので、正直、よく分かりませんでした。
とにかく潜在市場は大きい
こうした新しい創傷の治療を「Advansed Wound Care(先進的創傷ケア)」と言います。オーガノはこの分野で活躍する企業です。
オーガノのIR資料にある国際決済銀行(BIS)のデータによれば「Advansed Wound Care」の市場はおよそ89億ドル(9000億円)あります。これがオーガノの獲得可能潜在市場(TAM)になります。
先進的創傷ケア9000億円市場のうち、再生医療の占める割合は1500億円(17%)にとどまり、皮膚代替膜はさらにその中の一部、1000億円程度に過ぎないのが現状です。しかし、皮膚代替膜市場は年間15%のペースで拡大しているとのことです。
オーガノの売上高は、皮膚代替膜以外の製品を含めても3億ドル(約300億円、直近12カ月)ほど。TAMに対して売上高は十分に小さく、まだまだ開拓余地があると言えそうです。
たとえば、火傷向けの皮膚代替膜。2021年~22年にローンチするとオーガノは公表しています。
医療的な注意が必要な火傷は米国で年50万件発生し、うち病院に行く必要がある火傷は4万件に達します。火傷向けの新製品でこうした市場にアクセスできるようになれば、年間2億ドルの機会があると述べています。
パイプライン豊富
オーガノは外科・スポーツ医療の分野にも進出しています。たとえばスポーツや加齢による膝の関節痛の注射薬(動画参照)は、治験段階にありフェーズ3を開始しています。
https://videos-organogenesis-com-prod.s3.amazonaws.com/renu-animation_1024.mp4
皮膚代替膜も早期の治癒が求められるスポーツ分野での普及が早そうに思います。外科・スポーツ医療の市場は年60億ドル(6000億円)あり、Advansed Wound Care市場の9000億円と合わせて1.5兆円もの巨大市場にオーガノはいることになります。
今後2年間で7つの製品をローンチすることを計画していて、巨大なTAM獲得へ向けパイプラインは豊富と言えそうです。
ここまでで僕が言いたかったのは、とにかく「市場はでかい」ということです。専門家ではないため、オーガノの製品が他社に比べてどうなのかは、イマイチよく分かりませんでした。
僕がこの会社に興味を持ったのは、財務的な観点からです。
EPSは黒字化、次はFCFも黒字に?
年間の売上高は2020年12月期に3.3億ドルと、前期比27%増の見込み。これまで年間20%台の成長をしており、十分に成長企業と言えます。
2020年7~9月までの直近5四半期分の四半期売上高を見ると、2020年前半は若干、コロナの影響を受けているものの、すでに成長軌道に戻っているように見えます。※Seeking alpha参照。単位は百万ドル
コロナで病院は創傷の相手はしていられない状況だったろうし、そもそもロックダウンで外出もスポーツもしなければ創傷も減りそう。にもかかわらず、これだけ売上高が堅調なのは、構造的に皮膚代替膜のニーズが高まっているのではないかと連想してしまいます。
また、この会社の粗利は直近四半期ベース(2020年7~9月期)で77%に達しています。直近12カ月で73%。粗利が製品の競争力の代理変数だと仮定すると、この会社の皮膚代替膜の競争力は高いと判断できそうです。
そして、売上高が1億ドルを超えた直近四半期には、EPSが0.2ドルの黒字に転換しています。フリーキャッシュフロー(FCF)はまだ赤字ですが、これは買収による現金支払いがあったため。こうした特殊事情がなくなる次の四半期には、FCFも黒字に転換するかもしれません。
一般に、このように転換点を迎えた企業はバリュエーションが高まりやすくなります。
PSR4倍台、機関投資家が参入
しかし、オーガノのPSRは2020年12月期予想ベースでも、直近12カ月ベースでも4倍台前半にとどまります(株価12.7ドルの前提)。いくらなんでも、これは割安な印象があります。
そのためか、今年に入ってから機関投資家が猛烈な勢いで買っています。Market beat によると、機関投資家の買いは4100万ドルと、過去3年間に比べ飛び抜けています。
特に2月に入ってから機関投資家の買いの勢いが強まり、2月13日には保険のAIGも購入しました。
この機関投資家の一斉の増加からは、何かが読み取れそうな気がします。
・損益が黒字転換になった
・時価総額が10億ドルを大きく上回った
・3月の決算発表前のサイレント期間入り前に何らかのIRがあった?
こうしたトリガーが、機関投資家を招き入れる結果となったのかもしれません。
オーガノの株価は、2月10日に14.8ドルと上場来高値を付け、その後は利益確定に押されています。上昇が急ピッチだっただけに、短期の投資家が利益確定をしているのでしょうか。腰の軽い投資家が退出するのを待ちたいと思います。僕は昨年末に7ドル台前半でポジションを持ちました。
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