カタカナに弱い人
夫はカタカナが苦手である。
のくせに、カタカナのお店や食べ物が好きである。
イタリアンやらフレンチビストロ、オーガニックだ、フルーツのスムージー、このあたりのものを好んでいるけど、カタカナの吸収力が極端に低いために自分が食べたいものに自力でたどりつけない。
「あのお店行こうよ、なんだっけ?ほらほら、、あそこだよ。えーと…」
「カクタス?」
「違う」
「スカーレット?」
「うーん」
「ソルト?」
「あー、そうそう!」
と言う具合に、こちらの誘導がないと、お気に入りのお店の名前が出てこない。とくに聞き慣れないような言葉ではなく、覚えやすい名前だと私は思うんですけどね。
コロナの影響で、デリバリーする機会が増えたけれど、よく通っているお店のよく注文するメニューですらこんな調子になる。
「なんだっけ?なんだっけ?あれ、ほらほら、あれ、頼もうよ、いつもの。ほら、えーと」
自分のリクエストを自力で思い出せない。私は、夫が言わんとしているメニューのあたりはついている。
「じゃあさ、ヒント出すよ?」と私。
私:「る」
夫:「るぅ?」
私:「る!」
夫:「るぅ?」
私:「ルッ」
ここまで言っても出てこない。
「ルッコラとブラータチーズのサラダでしょ?」
「そうそう。よくわかったねー」
夫はルッコラとブラータチーズ、アンチョビのサラダが好きである。好物なのに、どうして覚えられないのかしら。
覚えなきゃ、と言いながら「これがルッコラで、これが、えーとえーとブラータチーズ。あと、これはー、あー、アンチョビ !」というように何度となくリピートして、頭に叩き込んできたはずなのだ。
夫の名誉のために、言っておくと、彼は基本的にもの覚えが悪いというわけではない。不器用全開な私に比べて、うらやましいくらい器用なの人なのだ。
スポーツや機械の使い方などコツの飲み込みもはやいし、地図の読める男であり、旅行先でも地理がすーっと頭に入るので、大変助かっている。
が、カタカナを前にすると途端に、ポンコツになってしまうのだ。
ここ最近、チアシードがお気に入りの夫。ホテルの朝食で食べて以来、ヨーグルトにフルーツやはちみつと一緒にトッピングするのを気に入っている。
なぜか夫って、女性誌に載っていそうな食べ物を好む傾向にあり。なんの影響かしら。
「キウイ、はちみつ、えーとえーと...チアシード」
とボソボソと言いながら、連日食べつづけ、ようやく、言葉が自分の中に定着してきた様子。
「覚えたねー!」なんてほめて喜んでいたら、「あー、やばい!あれ、忘れちゃった」ときた。
「なになに?ルッコラ?」
「違う違う」
「アンチョビ ?」
「違う違う、なんだっけ、せっかく覚えた果物...」
「パッションフルーツか!」
「そう!」
チアシードと引き換えに、以前やっと覚えたパッションフルーツを頭から追い出してしまったようである。
なかなか覚えられないうえに、記憶できる分量が限られているときたもんだ。新しい言葉を迎えると、先に覚えていた言葉を、手放すという、どこかで聞いた片付け術のよう。
夫の「なんだっけ?なんだっけ?」は、これからも続くに違いない。
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