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救急車に乗った話

先日、救急車に乗ることになった。救急車に乗るのはこれで2回目。いずれも、付き添いとして乗ったのだった。


仕事から帰ってきた夫が、目の調子が悪いという。視野が曇って見えると。
コンタクトが汚れているのかな、と言いながら外したが、見え方は変わらないようだった。しばらくすると、左目から痛みが出始め、開けられないという。目を開こうとすると、涙が止まらなくなる。

次第に、じっとしていられない痛みになり、部屋の中をウロウロと歩き回る夫。

これは、明日まで待てそうにもないと、夜間救急外来を受け付けている病院を調べて連絡してみたが、混んでいて受け入れられないという。

#7119に連絡をして、病院を紹介してもらう。1回の通話につき3件ずつ病院を紹介してくれ、ダメだったらまた連絡をして次の3件を紹介してもらえるというルールのようである。

紹介してもらった先に電話をしてみた。
3件とも断られた。
紹介状がないとダメ、眼科は受付終了、眼科の先生がいないなど。

再度、#7119に連絡をして紹介してもらうも、またダメだった。
せめて応急処置のアドバイスをもらおうと、#7119の救急相談窓口の方に連絡をすると、あれこれ症状をヒアリングをした結果、「救急車で向かいます」という判断だった。

救急隊員が玄関まで来たときに、これで大丈夫だ!と思った。なんだかすごくほっとしたのだった。

救急隊員は、運転する方も含めて、3人。みな親切だった。
結局、最初に電話して断られた病院に運ばれた。
病院に着くと、「旦那さんはこちらへ、奥さんはこちらへ...」と手際よく案内された。

受付で名前や電話番号などを書いて、保険証を渡して…と手続きを済ませ、待合室の席に座ってから、
「あ、救急隊員の方にお礼を言わないまま来てしまった」と思った。

考えてみれば、救急隊員の彼らがお礼の言葉を聞く機会なんてほとんどないのではないか。本人が意識がないこともあるだろうし、付き添いも気が動転してそれどころでないことも多いだろう。
「ありがとう」を聞けないまま、彼らはどんな思いで仕事をしているのだろうか。


待合室にいる間、1回目に救急車に乗ったときのことを思い出していた。

1回目のときは、姉が交通事故に逢って、救急で運ばれた病院から入院する病院に移動するときに付き添いで乗った。

姉が交通事故に逢った瞬間、私は職場の同僚たちと食事をしていた。トイレに行くついでに携帯電話を見たら留守番電話にメッセージが入っていて「ご兄弟の方が事故に逢いまして…」と女性の声が言っていた。

酔ってもいた私は、「これってなんていってます?」と先輩に留守電のメッセージを聞いてもらう。
「うさみみちゃん、大変!病院にダッシュダッシュ。会社には私から報告しておくから、明日のことは心配しないで」と言われて、留守電のメッセージが事実であることを知った。それと同時に、我々、双子には、テレパシーの能力はないんだということも知った。

姉の携帯に電話をかけると救急隊員の方が出た。電話口で言われた病院にタクシーで向かう。
病院に着いたらストレッチャーで移動中の姉の姿があった。顔が血だらけだ!泣きわめいている。意識はあるんだ。

あとでわかったことだが、姉は唇を切っていて、だから顔中血だらけになっていたけれども、骨折もなく、全身打撲という状態で、死亡事故多発スポットで車にはねられたわりには、だいぶ軽傷で済んだという強運をつかんでいたのだった。

医師には、「帰宅していただいても構わないのですが、だいぶ興奮されているようですので、別の病院で入院していただこうかと思います」と言われた。
確かに、姉はだいぶ興奮していた。
帰宅しても構わないって本当に?交通事故に逢ったばかりの人が?

私は姉の興奮した状態よりも、車にはねられた人間がそのまま帰っても大丈夫な状態だというのが信じられなくて、入院というアイデアには同意だった。
姉と一緒に病院に移動するとき、私は生まれて初めて救急車に乗ったのだった。そういえば、あのときの私も、お礼を言わなかった気がする。

あとで姉に聞いたことなのだが、どうしてあれほどまでに興奮していたかというと、そのとき診てくれた医師のことが「気に入らなく」そして、それを察しないうさみみが、その気に入らない先生の話におとなしく従っているのに腹が立って、それを伝えたかったのだそうだ。

やはり、我々にはテレパシーの能力はなさそうだ。
というより、意識がある状態だったんだし、ストレートに言ってくれよ。

でもまあ、「気に入らない」と「察してくれないと腹立つ」というのは、ある意味いつもの姉であり、変な安心も覚えたのだった。

軽傷で済んだとはいえ、やはり、全身打撲というのはそれなりのダメージで、起き上がったり、トイレに行ったりするときにはかなりの痛みが走ったようだ。入院先で看護士さんのサポートを受けられたことは、本当に助かった。


診察室から夫が出てきた。
表情が険しい。来た時と同じレベルで痛みがあるという。
目の中を洗浄したときは、麻酔が効いていたので痛みが消えたが、すぐにまた痛みが戻ってきたそうだ。

眼科の医師が不在で、検査機器もなく、応急処置として洗浄はしたものの、原因もわからないということだった。痛み止めを処方するので翌日、眼科にかかってくれとのこと。

原因がわからないって…。
しかし、これ以上やれることがないというのだから仕方なし、か。

とはいえ、じっとしていられない痛みは続いているようで、会計を待つ間、目をおさえながら待合室をウロウロする夫。
看護士さんにお願いして、もう一度麻酔を点眼してもらった。

が、思ったよりも効いていない。
痛み止めも受け取ってすぐ飲んだが、たいして痛みは変わらないようだ。
看護士さんに相談してみたが、麻酔薬は処方するわけにはいかず、痛み止めの目薬なら処方できるかもということだったが、在庫切れだった。
とにかく帰って、朝を待つしかない。

タクシーで帰って自宅に着いたときには、深夜2時をまわっていた。

「遅くまで付き合わせて悪かったね」と夫。
そして、ふと思い出したようにこう言った。
「そういえば、昨日、洗面台周りとかコンタクトケースがヌルヌルしている気がしたんだよね」

え?!

私は、焦った。

思い当たるふしがありまくりだったからだ。
前日、洗濯前の下準備として、いつもの通りシャツの襟まわりに洗剤をつけようとしたのだが、容器のキャップがよく閉まっていなくて、洗剤をたっぷりと洗面台にぶちまけてしまったのだった。

洗い流したと思っていたのだが…。
大雑把な私のことだ、洗い流しが足りていなく、そのとき洗剤がコンタクトのケースにも入り込んでしまったのかもしれない。

夫も私も、2週間の使い捨てコンタクトを使っている。
朝、コンタクトを装着したら、洗ったコンタクトケースは洗面台の隅に置いておくのが習慣だった。

そもそも手洗いや洗濯物も扱う洗面台に、コンタクトケースを置いていること自体が無防備だったか。いや、今回、もっと危機感を持って丁寧に洗剤を洗い流さなかった私のミスだ。

一連の出来事を夫に説明すると、普段穏やかな夫から「コノヤロー!」という念が伝わってきた。

「まだ、洗剤が原因だとわかったわけじゃないからさ」と、本来は、自分が犯した過ちに落ち込む私に向かって、夫がかけてくれるであろう言葉を私は自ら言った。

次の日、眼科の診察を受けた結果は、角膜が薬剤に反応しているとのことだった。痛みが出なかった右眼にも症状は出ているという。

はい、犯人は私です。

結果的に、救急で応急処置として目の洗浄してもらったことで、症状の悪化を食いとめることにつながったようである。

翌朝も病院に付き添うと言っていたはずの私は、朝起きられず(我ながらヒドイ)、結局夫は右眼を頼りに一人で病院に行った。そして、帰りに朝ごはんを買ってきてくれた。

私は夫に、自分のミスを謝り、そして、朝ごはんのお礼を言った。
夫は、「俺もヌルヌルに気づいていたんだから、もっとちゃんと洗い流してから使えばよかったよ」と、私の罪を3分の2くらいにしてくれた。

普段、オチも教訓もない話をしている私ですが、今回の話には、教訓があるのであります。

コンタクトは、1DAYタイプが1番のリスク回避
コンタクトケースは、洗剤を使う場所に置かない
洗剤をこぼしたら、入念に除去するべし

ですね。

それから、
緊急性の判断がつかない症状が出たら、#7119に相談を。
意識があり心に余裕があれば、救急隊員の方にぜひお礼の言葉を。

そして、何より
自分が悪いと思ったら、素直に謝りましょう。


追伸:テレパシーが使えない双子もいます。


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