新・サンショウウオ戦争

第二章 文明の衝突

10 公開往復書簡・注(補0)
 二十**世紀、人類は再度オオサンショウウオを使役動物として家畜化した。千九百年代初頭にも同様の試みが行なわれ、ある程度の成功を収めたものの、突然疫病が流行り出して87%ものオオサンショウウオが死に至り、結局はヒトの支配する世界に逆戻りしたのがこの二世紀だった。今回も水陸両用の労働力として重宝されたオオサンショウウオだったが、同世紀中葉には知的労働に携わる者も現れた。これはヒトの手による遺伝子操作の結果という説と、もとより高い知能のサンショウウオが存在したという説の両方が存在している。やがてサンショウウオはヒトの生活領域に根深く入り込み、人間の幼なじみ・同級生・同僚・隣人として日常生活に居て当たり前の存在となった。
 そうこうするうち、人間との間に特殊な感情の交換を行なう者、つまりはヒトと恋愛関係に陥る者まで現れたのである。サンショウウオ特有のおだやかな性格とたまさかの攻撃性が魅力的に映る人間が少なからずいたということだろう。恋人たちは当然、結婚し自分たちの子孫を残したいと望み、科学のサポートを最大限に利用して出産を行なった。ただし技術的な問題から次世代を残せるのはヒトのメスとオオサンショウウオのオスの組み合わせに限られた。こうしてヒト・オオサンショウウオの混血化が始まり、その数は見る間に増加して、各国政府も無視できない事態となった。国連でも緊急会合がもたれ、宗教界・医学界等さまざまな分野での討論が行なわれたが、何ら建設的な解決策を見ず、結局理由の不明確な「混血禁止」を打ち出したのみであった。そして数世紀後には絶滅危惧種として指定されるであろう純血種のヒトたちは「人間国軍」の旗印のもと、テロによる反撃に出た。それに対して立ち上がったのがヒトと大サンショウウオの混血児ヒュマンダの頭目、キングサラマンダー十三世こと金子じょんである。セカンドマジョリティである自分たちの権利がなぜ認められず迫害まで受けねばならないのかと世に訴え、論戦に出たのだった。

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