新・サンショウウオ戦争

第三章 世界戦争

2  宣戦布告
 日本時間十一月二十日午前一時十七分、インターネットの動画サイトにひとつの映像がアップされた。はじめの一時間ほどは、たまたま「地震」「大サンショウウオ」「ヒュマンダ」の3つのキーワードにヒットした数十人がその動画を閲覧し、ほとんどの人間はとくに何という感想も持たなかったが、中に二人ほど、それを「何だこれは?」もしくは「いいね!」と感じた者がいたらしく、知り合いにそれを伝えた。その結果、情報は加速して世界中に拡散し、二十四時間後には閲覧者数は一〇〇万件を超えた。動画の内容は以下の通り。

 地方放送局のスタジオのような画面に、かなりサンショウウオ寄りの外見をもつ女性アナウンサーが座っている。バストアップの映像でカメラに向かって話しかける。
「ハローハローハロー。ヒュマンダ・ドミニオン・チーフ・スピーキング。人間の皆さん、ご注目ください。ハローハロー、こちらヒュマンダ・ドミニオン、チーフ・ヒュマンダ、スピーキング。」
 画面切り替わって、やはりヒュマンダらしき男性が登場。こちらもサンショウウオ寄りの見た目で、斜めがけにしたたすきに勲章数個が飾られている。背後には世界地図。
「ハロー、人間のみなさん。こちらヒュマンダ・ドミニオン・アーミー。ハワイ、アリューシャン、スプラトリー、アラビアよりこんにちは。」
 があがあとマイクを引っかくような声が流れ、ここで咳払い。
「ケホン。このたびの地震により失われた人命に対し、哀悼の意をささげる。われわれは人間のみなさんに、不必要な犠牲を強いるつもりはない。ただ、みなさんには海岸・湖畔・河川敷ほかすべての水際から立ち退いてもらうほかないとの結論に至ったことを、ここにお伝えする。」
 女性アナウンサーが取り出したフリップボードに描かれた棒グラフをチーフ・ヒュマンダがポインターを使って示した。
「ご存知のように、現在、純粋な人類は四十億人。最盛期の百億からすると半分以下に減少しておる。その一方、」
 ここでチーフ・ヒュマンダは聞くものの注意をひきつけようと一息置いた。
「われわれ、ヒュマンダおよびサンショウウオは五百億に達しようとしているのである。」
 アナウンサーの指が棒グラフのマスキングテープをぺりぺりとめくると、そこには人類の十倍以上の長さをもつコラムが現れた。
「あなたがた人類をはるかにしのぐ数となったわれわれの居住区を広げるためには、陸地を切り崩すしかない。われわれが暮らしていくには現在の場所だけでは過密なのである。われわれには水と浅瀬が必要なのである。あなたがたの陸地を海岸に変え、その土を深海を埋め立てるために使い、居住区を広げる計画を立てておるのである。なんてエコ・フレンドリーな建設計画だろうか。」
 ここでチーフ・ヒュマンダの口が横に裂け、ぎざぎざの歯並びが見えた。カメラに向かってほほえんだようである。
「人類のみなさんは、とりあえず奥地へ、山のあるほうへと移動されたらよい。ヒマラヤ山脈を切り崩す必要はさしあたり三世紀はないと見積もられておる。ほかの掘削計画は追ってお知らせすることになるだろう。」
「以上、チーフ・ヒュマンダのおことばでした。では、ここで音楽をお聞かせいたします。作詞、林柳波。作曲、井上武士。“海”、日本の唱歌でございます。」
 ここでアナウンサーの顔から、海に浮かぶ船とその周囲を飛ぶカモメをとらえたイメージ映像に切り替わる。

 海
 海は広いな 大きいな
 月がのぼるし 日が沈む

 海は大波 青い波
 ゆれてどこまで続くやら

 海にお舟を浮かばして
 行ってみたいな よその国

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