新・サンショウウオ戦争
第三章 世界戦争
16 エピローグ
やがて人類はまた陸地に満ちはじめる。
人類は高地から徐々に陸地の名残りの海岸線へと戻ってくる。だが、海にはまだ長いこと、ヒュマンダの死体の腐臭がただよっている。陸地は川上から運ばれてくる沖積土で、少しずつ広がっていき、海は少しずつ遠ざかる。やがて、すべては元の姿にかえる。人類は「神」を作り、新しい創世神話を語り始めるだろう。
――むかし、むかし、神様は地球上に、ご自分のお姿に似せて、ひとつの命を生み出されました。
神さまが、罪深い人類の上にくだしたもうた、ノアの洪水の新しい伝説が、生まれる。人類文化の揺籃地であるといわれながら、海底に沈んだ謎の国ぐにについても、かずかずの伝説ができるだろう。英国とかフランスとか、ドイツとかいわれた国の伝説も、語りつがれるようになるかもしれないーーとはいえ、それが人類であってサンショウウオとのアイノコではないと誰に言い切れるだろう。
「それから?」
――それからのことは、僕にもわからないよ。
われは海の子
われは海の子 しらなみの
さわぐ いそべの松原に
けむり たなびく とまやこそ
わが なつかしき すみかなれ
うまれて 潮に 浴して
なみを 子守りの歌と聞き
千里寄せくる 海の気を
吸いて わらべと なりにけり
高く 鼻つく 磯の香に
不断の花の 香りあり
なぎさの松に 吹く風を
いみじき楽と われは聞く
丈余の櫓かい あやつりて
行く手 定めぬ 波まくら
百尋千尋 海の底
遊び慣れたる 庭広し
幾年 ここに鍛えたる
鉄より硬き 腕あり
吹く潮風に 黒みたる
肌は 赤銅さながらに
波に漂う氷山も
来らば来れ 恐れんや
海 巻き上ぐる 竜巻も
起こらば起これ 驚かじ
いで 大船を乗り出して
我は拾わん 海の富
いで 軍艦に 乗り組みて
我は護らん 海の国