新・サンショウウオ戦争

第三章 世界戦争

4  日本海海戦
 各国政府は悩んだ。タチの悪いいたずらだと主張する者もいたが、この数ヶ月各地で起こった大地震との符合を考えると、あながち冗談とも思われない。だが、これが宣戦布告だったとして、画面の中の本人が「これから首都を設置する」と言っているように、現在その主体はどこにあるのか不明であり、否も諾も答を返しようがない。そこでアメリカ、中国およびヨーロッパ・アフリカ大陸に位置する各国は無難な策を採り、日韓朝露の成り行きを見まもることとした。
 一方、名指しで退避勧告を受けた日本をはじめとする四カ国は有史以来の緊急事態となった。とはいえ、ロシアは所詮国土の数パーセントにしか過ぎない極東の一部であったため、利権の絡みはあるにせよ、あまり動揺はなく、今回の件は他国同様静観の姿勢をとることとした。HD(ヒュマンダ・ドミニオン)のその後の出方次第によって対策を立てようというのである。
 だが、日本・韓国は国土のほぼすべてを失う可能性があったため、ロシアほど暢気に構えているわけにはいかなかった。両国民の間では海外行きの航空券を手にいれるためにパニックが起こり、電話もインターネットもほとんど使えない状態に陥った。これは実のところ、不用意に情報が拡散するのを防ぐため、両政府が故意に通信回線を遮断したのである。北朝鮮では事態を把握していた政府関係者が専用機で国外へ脱出したほかは、ほとんどの国民は何も知らされず、普段どおりの一日を送っていた。
 政府関係者がいなくなった北朝鮮を除き、日本と韓国の二国は互いに連携して日本海周辺で不審な動きをする船舶等を拿捕するか、よほど危険を察知すれば撃沈もやむなしとする協議をはじめた。しかし、問題となる海域の作戦上での呼称を「日本海」にするか「東海」にするかで話がこじれはじめ、話し合いはストップしたまま四十八時間が過ぎた。
 北海道西岸・奥尻島沖へ不審な船舶が姿を現したと日本の防衛省に連絡が入ったのが先の放送から六十時間が経った頃だった。船舶は画像解析の結果、大量の爆破物を積載した国籍不明の運搬船と判断され、自衛隊はこの船舶との通信を試みたが応答はなく、ついに日本のサイトウ首相は撃沈指示を出した。不審船は青森県・大湊基地を出航した護衛艦やまぎり(DD-515 4500t)の砲撃によって搭載していた爆発物が発火、火柱を上げて日本海/東海に沈んだ。こうして、日本は世界中でまず最初にHDとの戦闘状態に陥った。

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