新・サンショウウオ戦争
第二章 文明の衝突
17 SNA vs LTM
以来、ビキは水中労働現場に潜り込んでは労働者を扇動する手法を繰り返した。すると、実際にビキ本人が率いた暴動だけでなく、ヒュマンダ反乱のニュースを伝え聞いた別の労働現場でも暴力による抵抗がさざなみのように広がっていった。ビキとその一派はSNA(サラマンダーネイションアーミー)を名乗り、南太平洋に端を発したその波は次第に勢力を強め、西はアラフラ海を経てインド洋へ至り、紅海を北上した後、地中海を席巻して大西洋へ、東は南北アメリカ大陸太平洋岸へと届こうとしていた。
そこに立ち塞がったのが、もうひとつのヒュマンダ組織LTM(リベラルタマリアムーブメント:自由タマリア運動)である。LTMはタマリア信仰に端を発する集団だが、SNAに先立つ約二〇年前、こちらも水中工事現場での労働運動から構成員を広げていき、一時は新国家建設を目論みるほどの巨大組織になった。ビキたちの運動とは異なり、人類との融和を掲げつつヒュマンダの基本的人権を獲得することを目標に掲げていたこともあり、アメリカ合衆国の後ろ盾を得て、奴隷ヒュマンダ帰郷運動すなわち新国家建設に向かうまでになった。こうして南太平洋にサラマンダー自治領を設立するところまでこぎつけたものの、アメリカで第七十八代大統領選が行われた際、同国内のキリスト教保守派勢力によってタマリア信仰が槍玉にあげられ、各候補者ともLTMとの連帯に尻込みをした結果、ヒュマンダ国樹立は頓挫したのだった。だが、LTM本体はそのまま存続し、先に挙げた「人類との融和」「基本的人権の獲得」を目標に掲げて活動を続けていた。
このLTMの手法をぬるいと感じる層が、新たに台頭してSNAを支持した。SNAは人類にテロをしかけるばかりか、人類寄りの理想を掲げるLTMも敵視した。
「人類が地球上から消えてくれたら、ヒュマンダの権利なんてどうでもいい。サンショウウオに地位を明け渡すさ。」
そうビキは語っていたと伝えられている。