新・サンショウウオ戦争

第二章 文明の衝突

10(補3)公開往復書簡 往2
キングサラマンダー十三世より カイリースマイリー氏へ
 ご主張、読ませていただきました。はっきり申し上げて、その狭隘なお心根に失望しました。また、その論拠の薄弱さには失禁、いや失笑を禁じえません。「ヒトの尊厳の根拠」としてあなたが挙げられたどの宗教も、すべて純血種のヒトにより前時代の価値観をもって創作されたものであり、あなたがたに都合がよいものを羅列しただけではありませんか。
 既存の宗教をわたしは否定します。ヒトはその聖地とやらを巡って血で血を洗う争いを繰り広げ、宗教の名のもとに異教徒の人権を踏み躙りかつ殺戮を繰り返してきました。つねに他者を敵として扱うそれらの宗教は、ヒト、なかでも男性がたまたま手にした既得権を死守するために作り上げたたわごととわたしの目には映ります。よってわたしは、個人的にですが、タマリア信仰のみを唯一価値のある宗教と見なしています。
 歴史をひも解いても、ヒトはつい数世紀前まで同類であるヒトを家畜として売買し使役してきましたし、公に奴隷制度が禁じられた後も、ヒトの女性は長らく男性の所有物と見なされ公民権を剥奪されたままでした。そうした女性たちがヒトの男を捨て、大サンショウウオを伴侶に選びはじめたのは当然の帰結ではないでしょうか。彼らの間には、あなたが“合いの子”と呼ぶヒュマンダが誕生し、そのヒュマンダはヒュマンダ同士または再びヒトの女性と結婚して子をなし、現在では見た目オオサンショウウオまんまの者から純血種のヒトと見分けのつかない者まで、さまざまなバリエーションの姿かたちのヒュマンダが地球上で生活を営んでいます。その一方で、同類の純血種のメスが奪われる焦りが人間国軍の形成を促し、同軍兵士の無駄に高まった性的エネルギーのはけ口を暴力というかたちでわたしたちに向けている。迷惑というしかありません。
 とはいえ、昨今では人間のオスの中にサンショウウオ女性との家庭を求める人びとが現れはじめたという事実もあります。いまだ科学の力で、ヒトのオスとオオサンショウウオのメスの結びつきは実現していませんが、近い将来必ず可能になるでしょう。そのとき、人間国軍の兵士たちが雪崩をうって、サンショウウオ女性もしくはヒュマンダ女性を求める事態に陥ることは必定。次世代または次々世代にはヒュマンダ女性をめぐる争いがくりひろげられるのではないかと憂慮しております。申し上げても無駄かとは思いますが、人間国軍を名乗る兵士たちにその「尊厳」にふさわしい存在として、教育していただけたらと願ってやみません。

キングサラマンダー十三世拝

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