新・サンショウウオ戦争

第二章 文明の衝突

 10(補1)キングサラマンダー十三世

 二一二〇年、国連でヒュマンダ権利宣言が採択された後にかえって激化した純血ヒト対ヒュマンダの紛争だが、話し合いによる歩み寄りが試みられた時期もあるにはあった。その証拠として、当時ヒュマンダ人口の多くが帰依していたタマリア教の教主、キングサラマンダー十三世と純血ヒトの代表を標榜する人間国軍の最高指導者カイリースマイリーとの間の公開往復書簡が残っている。キングサラマンダー十三世は金子たま(すなわち半崎アンドレアス)直系の子孫との記録があるが、一方のカイリースマイリーは人間であった(自称だが)こと以外は今となっては不明である。

 公開往復書簡 往1
 毎朝日新聞木曜日朝刊に4週間にわたって掲載されたキングサラマンダー十三世と人間国軍指令官カイリースマイリーの公開往復書簡は以下のとおりである。

キングサラマンダー十三世より カイリースマイリー氏へ
 はじめまして、カイリースマイリーさん。こうしてあなたと直接、対話する機会を設けてくださった毎朝日新聞と私の申し出を受けてくださった当のあなたに感謝いたします。
 さて、ご存知の通り、ヒトとオオサンショウウオの間に生まれたわたしたちヒュマンダは現在、世界第二の人口を擁しており、いわばセカンドマジョリティの立場にあるにも関わらず、基本的人権のいくつかが認められていません。法の下の平等はなく、職業選択の自由や教育を受ける権利も一部侵され、選挙権および被選挙権は完全に否定されています。しかし、そのような不自由の中でも、わたしたちは純血のヒトと同じように労働し、家庭を持ち、子どもたちを教育してきました。そしてこの成果があなたたちヒトによる努力の成果とともに、地球という星の繁栄をささえていると自負しております。
 わたしたちがいなければ、この星は生物多様性の乏しい脆弱な場所となり、やがては滅びる運命にあるでしょう。そうした事情も省みず、あなたがた人間国軍は、わたしたちに対してテロ攻撃を行い、大量殺戮をもくろみ、ひいてはヒュマンダの殲滅を企てていると聞きます。歴史をひもとくと、ヒトは自分たち以外の生物を敵視し、絶滅させてばかりいます。他の生物と共存できない純血種のヒトのほうが滅びるべきではないでしょうか。
 強い言い方になりましたが、私たちは決して純血種の人間が憎いわけではありません。私たち自身にもヒトの血が一部流れていますから、親類のような気持ちを抱いているのです。仲良くしたい、共に栄えていきたい、それが本音です。なぜ、そこまでヒュマンダを憎むのか、理由をお聞かせ願えればと思います。

                        キングサラマンダー十三世拝

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