技術を公開してしまおう 〜突然特許を取られて困らないために〜
特許をうっかり他人に取られないようにしよう! という話です
おはようございます。前回(かれこれ3ヶ月以上も前)、意見を述べておきたい話題があったので頑張って当noteアカウントなどを開設してみたのですが、そのあたりから仕事が急に怒涛のように忙しくなりSNSに精を出してもいられなくなった結果、最初の記事だけを掲載したまま後が続かないという醜態を晒してしまいました。ありがたいことに忙しい状態は今も続いているんですが、それを押しても記事にしておいた方がいいかな、と思う事案が少し前にあったので書いておきます。
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事案というのは他でもない、例の「ソフビ磁石特許」のことです。といっても、その事案自体は決着がついたようなので、今さらこれについて詳しく解説だの分析だの、ましてや誰かの批判だのをしようという気はありません。ただこの件、出願人の方にしてみれば、せっかく取った特許を放棄することになったり、その他の皆さんからすれば「今後は特許なんて面倒くさいものを気にしないといけないのか」と不安になったりと、関係者の多くにとってあまり愉快な出来事ではなかったと思います。そこで、こういった事態を今後、適切に避けていくにはどうしたらいいか、ということをひとつ解説してみよう、というのが本記事の趣旨です。簡単に言えば、「突然特許を取られたりして慌てないよう、技術的なアイディアはサクッと公開して、特許の可能性を先に潰しておきましょう」といった話です。ひょっとすると弊山田特許事務所や同業者の仕事の機会(すなわち特許出願)を減らしかねないような記事でもあるかもしれませんが、まあ特許制度自体の意義を否定するわけではないし、長い目で見れば我々知財業界全体の利益にも繋がるだろうと思って鼻息荒く投稿します。
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ソフビ磁石特許の事案を簡単におさらい
まずは本記事のきっかけになった事案について、簡単に説明しておきます。事が起きたのは、ソフビ人形の製作などをされている界隈でした。昭和の昔からある、怪獣とかキャラクターをかたどった、ちょっと柔らかくて中が空洞のあの人形ですね。それをオリジナルキャラで作って販売したり、既製品をカスタマイズしてみたり、といったことを楽しまれている界隈で、今年8月、「人形の中の空洞に磁石(もしくは磁石にくっつく鉄など)を放り込んでおき、それに磁力で吸い着ける形で、別のパーツ(例えば人形の装飾になるリボンとかツノとか)を人形の外側から磁力でくっつける」という技法について、特許を取得した方が現れました。ここで、中の空洞に放り込む磁石あるいは鉄などの磁性体は、空洞内で自由に動き回れる状態になっている、というところがミソです。こうすると、例えば表面に磁力でくっつけたパーツをそのまま表面に沿って滑らせるように動かせば、中の磁性体もそれに追従してくっついてくるので、パーツを人形表面の好きな箇所に取り付けることができるわけです。
ところが、この特許に対し、界隈のほうぼうから多くの反発があり、いわゆる炎上状態となってしまいました。炎上の要因はいくつかあったようですが、主には「こういう技法は前からみんな使っていたのに、特許という形で法的に独占する人が現れたので、今後は自由に使えなくなってしまう、これでは困る」というものでした。
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無効審判? 異議申立?
こういう場合、特許権者を相手に、特許を取られてしまった周りの人がどう対抗すればよいかというと、ひとつには異議申立または無効審判です。一旦審査を通って成立した特許に対し、実は審査官の知らなかった無効理由(対象の特許の出願前に似たような技術が既に世の中にあったという証拠)がありますよ、と特許庁に提出して、審査のようなことをもう一度やってもらうわけです。十分に強力な証拠が用意できれば、特許を最初からなかったことにすることができます。これは特許業界的・特許法的には最もオーソドックスな方法の一つで、SNS等にも「無効理由があるなら異議申立をすればいいのでは」といった主張をされている方が弁理士をはじめ何人もいらっしゃいました。同じく弁理士である筆者も例に漏れず、Twitterで「こういう方法がありますよ」と紹介したりしました。
でもこれ、例えば企業の知財部の方々のように、普段から特許制度に接している人からすれば当たり前だとしても、それまで特許のことなんてほとんど気にしたことも考えたこともないところへ、寝耳に水みたいに特許を取られてしまったソフビ界隈の方々にとっては酷な話です。異議申立も無効審判も、何十万という費用がかかります。まあ、特許は取得する方もお金をかけて取るわけですし、そうして取得した権利を他人が取り消そうとするなら同じぐらいの費用がかかるのも当然だろう、といった理屈も成り立ちはしますし、法的手続きというのはだいたいそんなものとも言えますが、それにしても、普通に趣味や創作を楽しんでいたところに突然そんな費用が発生すると言われたら、いくら法的に正当な手続きだからと言われても理不尽に思ってしまいますよね。それがある程度の規模の企業であればともかく、個人や零細企業には、はいそうですかとホイホイ負担できるものではありません。その上、費用をかけてそれをしたとしても、狙った通りに特許が取り消しになるとは限りません。
結局、このソフビ磁石の件は、取得した特許権を特許権者自身が放棄することで決着したようです(実際、9月付で抹消登録申請書が提出されていました)。これについて、「特許を取り消したければ異議申立や無効審判という法的に正式な手続きがあるにもかかわらず、それを経ずにネットでの炎上によって放棄に追い込むのは私刑に等しいのでは」という意見も、「そもそも前から皆が使っていたような技術で特許なんて取るのがおかしい、ゆっくり茶番劇の商標の事件みたいなものだ」という意見もありました。どちらの言い分も理解できます。
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先手を打って公開してしまおう
一旦成立した特許について、どうすれば一番よかったのか、異議申立や無効審判をするのと、今回そうなったように特許権者本人による放棄で終わるのと、どちらが正しかったのか、をここで論じることはしません(本件については、結果的にちょうどよいところに落ち着いたのでは、とは思っていますが)。本記事でお伝えしたいのは、「今回みたいにうっかり特許を取られて慌てないためにはどうすればいいか」であり、具体的には「(自分で特許を取ったりする予定などがないのであれば)先手を打ってドンドン公開してしまいませんか」ということです。
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公知の技術は特許にならない!
特許というのは、法律上、その出願より前に公知になっていた技術とか、それに基づいて簡単に発明できたようなものについては取得できない、ということになっています。そういった技術が出願前に公知になっていたという証拠(特許関係の公報や、科学論文や学会発表、告知チラシや製品カタログ、ネット上の記述など)を、審査の段階で審査官が把握していれば、その特許は拒絶され、特許権は付与されません。そういった証拠自体は世の中に実際にあるにもかかわらず、審査の際の調査や審査そのものの内容が不十分で特許になってしまう(いわば何かの間違いで特許になってしまう)場合も実務上ありますが、たとえそうなっても、後からその証拠を使って異議申立や無効審判をして特許を取り消すことはできますし、そこまでしなくても、例えば特許権者から特許権の侵害を訴えられた人が、その証拠をもって「その特許は無効ですよ」と主張することで侵害を免れることもできます(無効理由の抗弁といいます)。ということは、つまり「今まで普通にやってたことが、特許を取られてできなくなった!」みたいなことにならないためには、その「普通にやってたこと」を、誰かが特許出願する前に公開してしまうことが有効なわけです。
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※ところで余談ですが、特許になる前の段階で「この発明は特許にならないですね」というのを拒絶理由と言い、特許になってから「そもそもこれは特許にしてはいけなかったんでは?」というのを無効理由と言います。ですから、同じ証拠物件による同じ内容の意見が、タイミングによって拒絶理由と呼ばれたり、無効理由と呼ばれたり、ということもあり得ます。
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特許というのは、その技術が他人にパクられることを防止するための法的な防御策ですが、護身具が武器でもあるように、他人が取った特許で攻撃を受けてしまうこともあります。筆者はよく、特許出願を検討されている方に「特許は自分が取得することも大事ですけど、もっと大事なのはうっかり他人に取得されてしまわないことですよ」と言ったりします。そのためには、先に自分が特許出願をしてしまうことが実は最も確実な方法なんですが、そこまでお金をかけなくても、別の形で単に公開するだけでもそれなりに有効です。
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「公知」とは?
で、じゃあ公開って具体的にどうしたらいいか、ということになりますね。これが例えばメーカーで技術開発をやっている技術者の方であれば、技報という仕組みがあって、新しく開発したけど特許出願をするほどでもないな、と判断した技術をそこで公開したりします。でも一般の方はだいたい技報なんて聞いたこともないでしょうし、例えば発明推進協会の出している公開技報などを利用しようとすれば、それこそ特許出願と同じぐらいの手間がかかってしまいます。そこでもっと簡単な方法はないのかというと、今はインターネット・SNS時代ですから、例えば「SNSや投稿サイトに投稿してしまう」というやり方があります。
特許でいうところの「公知」とは、「不特定の者に知られ得る状態に置かれること」を指します。ここでいう「不特定」とは「不特定多数」ではないので、ごく少数でも構いません。たとえ一人であっても、誰か(特定の人だけがその情報にアクセスできるといったような特別な権限を持たない誰か)がふらりとその情報を知ることができれば、「不特定の者に知られ得た」ということになります。さらに、「知られること」ではなく「知られ得る状態に置かれること」となってますから、誰かが現にその情報を知ったことすら必要ではなく、それが可能な状態にさえなっていれば、特許でいう「公知」に該当します。極端な話、例えば田舎の公道の脇にほとんど誰も見ないような立看板があるとして、そこに貼り紙で何らかの技術が書いてあったとしたら、現にそれを見た人が誰もいなくても、理論上は「公知になった」と言えます。その立看板が然るべき時期にそこに確かに出ていたという証拠さえ出せれば、特許が審査で拒絶されたり、成立後に無効にしたり、といった根拠になり得るんです。とすると、インターネット上に公開設定で投稿された記事などであれば、たとえ実際のアクセス数がゼロであっても「公知」の要件を十分に満たしますね。
拒絶理由や無効理由の証拠として使うには、公開の日付がわかることが必須です。ここで、普通のブログ等ですと、投稿された日付は残りますが、過去の記事を編集して新しい情報を追加できる機能があったり、過去の日付で投稿を公開できてしまうようなブログでは、投稿の日付を証拠にはできませんね。しかし、例えばTwitterであれば、少なくとも現行の仕様では一旦投稿した内容やその日付は変更できませんから、「その日付に確かにその内容が投稿されていた」という証明にはなるでしょう。他には、動画の形(物が作動する様子や物の構造を写したもの、あるいはテキストを読み上げたり、そのまま画像にしたもの)でYouTubeに投稿してしまうといった方法も使えるかもしれません。実際に以前、ある特許の異議申立をした際、出願前に投稿されていたYouTubeの動画を無効理由の根拠として使ったこともありますが、日付については「これでは証明できないので証拠にならない」といったことは言われませんでした。
勿論、日付の証明だけでなく、内容がしっかりしていることも重要です。しっかりしているというのはつまり、投稿された内容から、その技術が原理や仕組みまで含めて確かに読み取れるということです。技術を文章で表現しきるのは結構難度が高いですし(だからこそ我々弁理士のような職業人がいるわけです)、逆に動画などもそれだけでは文字通り言葉足らずになりがちなので、動画や画像を文章と組み合わせて説明したりするとよいかもしれません。
また、仮にそうやって公開された内容が、異議申立や無効審判で証拠として使うには日付や内容の面から不十分だとしても、これから特許出願をしようという人に対しては、ある程度の抑止力にはなるかもしれません。「出願の時点で既に公知になっている技術では特許が取れない」と知っている人なら、出願をする前にネットで検索をかけてみたりすることはあるでしょう。そこで似たような技術が見つかれば、出願を諦めたりもするはずです。特許を取得するには安くない費用もかかるので、どうせ特許が取れないなら普通は出願なんてしたくないですし。こうして、特許の取得によって発生するトラブルが未然に防がれます。
といったように、技術を実施可能な状態を確保する、そのために他人による特許の取得を防ぐ、という観点から、技術を公開してしまうメリットは大きいと言えます。
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この技術、あまり広く公表したくはないんだけど……
とはいっても、自分のところでやっていることをあまり積極的に公表したくはない、という場合もあると思います。例えば、手芸などの教室や講座を開かれている方は、そこで教えている内容をネットに公開なんてしたら商売あがったりだよ、なんて思われることでしょう。それもよくわかるんですが、だからといって何もしないままでいれば、いつ誰に特許を取られてしまって面倒なことにならないとも限りません。
一応の基準となるかもしれない考え方をひとつ説明しておきます。最終的に仕上がって展示なり販売なりされている物を一目見て、そこに使われている技術の内容がわかってしまうようなら、それはもう物を発表すれば公開されてしまう技術ですから、公開なり特許出願なりを考えてみても良いと思います。反対に、物を見てもそれをどう作っているのかわからない、といった場合は、作り手独自のノウハウとして、あえて公開せずにおいてもリスクは比較的少ないでしょう(たまたま同じ技術を自力で開発した人が特許出願してしまう可能性はどうしても残りますが……)。教室で人に教えるような場合は、「秘伝なので教室外の人には教えないでくださいね」みたいに念押しするのもありかもしれません。
いや、でもわざわざ文章やら動画を作ってネットに公開するのも面倒だし、教室でも教えたことを口外するななんて生徒さんらに言うのも変だし……という気持ちはわかりますし、そんなことをやらずに済むならそれが一番いいと筆者も思います。ただ昨今の知財関係のドタバタを見るに、もはやそうも言っていられない状況になりつつある気がします。創作とか趣味とか特許とか、様々な分野で誰もが多数を相手に知識を発信し、誰もがそれにアクセスできる世の中になりました。今まで目に触れなかった分野の情報に接する機会が増えた結果、マイナーだった分野に注目し、ここなら特許の取得もまだあまりされていないみたいだ、商機あり、なんて考えて、特許ビジネスのようなことを始める人が現れる可能性が、各分野で高まっていると言えるでしょう。
繰り返しますが、他所の人に突然特許を取られて、それまでやってきたことができなくなったり、数十万の費用をかけて無効審判をするか、大人しく特許権者に実施料を支払うか、それともいっそ廃業するか、の選択を迫られる……といった事態が、いつ何どき起こるかわからないんです。自衛のために、「自分の技術を真似されたくないなら特許出願」「特許を取ることまではしないが、技術の実施は確保したい(他人に特許を取られたくない)なら公開」という選択肢を、一旦は検討してみることをお勧めしたいです。
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くれぐれも、特許は正しく取って正しく使いましょう
Twitterで既に何度か言ってますが、特許制度というものがそもそも馴染まない業界もあると筆者は思っています。もちろん、特許は国が作った法的に全く正しい制度なんですが、世の中には法律以外にも正しいことはいくらでもあるわけで、それらがかち合うこともあるでしょう。
例えば、多くの手芸ですとか、昆虫やエキゾチックアニマルの飼育方法や飼育用具、珍しい植物の栽培、ちょっとマイナーな競技に使う道具、などなど。そういった些かマニアックな分野では、熱心な人が独自に工夫をして道具や方法を改良し、それを互いに教え合うという風土がしばしば醸成されます。狭い業界の全体が、マニアの同好会みたいなものですね。
そういう界隈では、ちょっとした用具ひとつ取ってみても何かの工夫が詰まっていることが多い一方、得てして界隈全体、特許という制度に馴染みが薄く、過去に遡ってもあまり特許出願などはされていなかったりします。これはつまり、特許のネタがその分野にたくさん眠っていて、それらについて特許を取ろうとすれば取りやすい、ということを意味します。
特許出願がその分野で少ないということは、特許庁側がその分野の技術にどういうものがあるのかを、データベースとして十分に把握していない、検索してもわからない、ということです。したがって、審査の際に適切な拒絶理由を見つけることが難しいケースもそれだけ多く、何かちょっとした工夫があった時にそれを発明として特許出願してみると、本当は既に似た技術が公知になっているにもかかわらず、あっさり審査を通ってしまうということもあり得るんです。
そんな分野で特許を取ったりそれを活用したり、というのは、それ自体が悪いことでは勿論ありません。ただ、異文化同士の衝突みたいなもので軋轢が生じやすく、やり方を誤ればトラブルに発展しやすい、とは言えると思います。工夫を共有する文化がある場所に、一部の発明者による独占を旨とする仕組みを持ち込もうというわけですから。
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例えばそんな界隈で、「これからは知財の活用だ!」と勢いづいて、既存の技術と似たような発明について特許を取ってしまった人がいたとします。ただ特許権者自身に悪気はなく、既存の技術のことは知らず、あくまで自分が発明したものだと思っています。当然、特許権者は喜んで「こういう特許を取りました、これからはうちの発明を使いたければライセンス契約をしてくださいね」と宣言します。
一方、それまで特許のことなんて考えもせず、和やかにやってきた界隈はざわつきます。「今まで普通に使ってきた技術なのに、急にライセンス料を払えなんて言われても……」「皆が知ってる技術を何でいきなり特許なんて言って独占するんだ」「今までは技法を独占なんてせず、教え合って楽しんできたのに」。狭い界隈ですから、特許権者に関して悪評が立ったりもします。特許権者は別に悪いことをしたわけではなく、法的に正当な手続きに則って権利を取得しただけなんですけどね。
で、せっかく取った特許ですが、その特許には無効理由があるということになり、無効審判をやって、特許が取り消されたとします。特許権者が頑張って取った特許は最初からなかったことになり、法的には特許出願の前と変わらない状態になりました。結局何が起こったかというと、(元)特許権者や無効審判の請求人は特許庁や特許事務所に何十万という費用と時間と労力を吸われ、界隈には「なんか嫌な事件だったね」と疲労が残っただけ。
誰が悪かったのかといえば、特に誰が悪いわけでもないのかもしれないですが、少なくとも界隈の人たちにしてみれば、結果的にひたすら特許に振り回されただけであり、特許業界や特許制度の全体が特許ゴロみたいにも思えてしまうでしょう。世の中には特許嫌いの技術者や発明家といった方も結構いらっしゃいますけど、たぶん同じような体験でもされてるんじゃないでしょうか。そうなるのも仕方がないと思います。
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何のための特許制度?
そもそも特許制度が何のためにあるのかというと、これは特許法の第一条にはっきり書いてあって、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」ためです。それまで特許と無関係にやってきた界隈で、特許を活用しようとしたことが仇になって上述のようなトラブルに見舞われたり、あるいは他人の特許を気にするあまり活動が萎縮してしまったり、さらには活動自体の継続を諦めてしまう人が現れるようでは、特許制度など産業を発達どころか衰退させる一方です。我々弁理士にしても「産業の発達に寄与する」ために特許法の使者みたいなことをやっているつもりなのに、これでは自らの存在意義を問い直したくなってしまいます。
ですからくれぐれも、特許出願を検討される方は、それがご自分の独占してよいものかどうか、また特許権を取得した結果どんな影響が予想されるか、よ〜く考えてから出願するようにしてください。既に同じような技術が公知になっていないか調べるのは勿論ですし(まあ、それにも限界はありますけど)、果たしてその特許を数十万かけて取得したとして、いろいろな意味で採算が合うのか(費用そのものが回収できるかどうかだけでなく、界隈の方々への影響とか、自身への評価などの観点から、費用をかけただけのものが得られる見込みがあるかどうか)というのも重要です。そもそも小規模な事業界隈で特許があまり取られないのは、単に費用に見合わないから、ということも多いでしょうし。そして、うっかりそういう特許出願をしてしまって出願人が無駄に損をしないためにも、その技術がネットで調べれば出てくるぐらいの状態で公知になっていると都合がよいわけです。ご自分で実施をしていきたい技術をお持ちの方は、ご自分やその他の方々(同じ技術で特許出願をしようとする方や、その特許に影響を受けてしまう方々)が無駄に傷つくことがないよう、その技術を公開することを是非検討してみてください。
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(※注意)あくまで特許限定の話です
ここでひとつ補足させていただきますと、「公開して先に潰してしまおう」という上記の対策はあくまで特許の話で、商標では通用しないので一応ご注意ください(この点が、「ソフビ磁石特許」と、よく比較される「ゆっくり商標」との大きな違いです)。というのも、特許は「新しい技術」に独占権を付与する趣旨のものですから、その対象である発明が公知になっていないことが重要な要件とされる一方、商標にはそういう考え方はなく、単に出願人が使用すると決めた名前やロゴ等を保護するものだからです。ある商標について他者による商標登録を防ぎたい場合には、単に公知にするだけでは駄目で、自身で商標登録出願などをする必要があります。
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以上、今回は「特許から身を守るにはどうすればいいか」「特許出願はよく考えて、変な特許は出さない方がいいですよ」というお話でした。「弁理士や特許事務所はあくまで依頼人の代理、特許出願を依頼されればその依頼を淡々とこなせばいいだけ」みたいな方も中にはいましょうが、せっかく取った特許のせいで依頼人が不幸になったりするのを見るのは、やっぱり代理人としても気分の良いものではありません。特許は使い方や使う場面を見極めて、正しく取得・活用したいものです。