偏見まみれのUIデザイナーのタイプ分類
ひとえにUIデザインといっても、プラットフォームや分野によって考えることも作る内容も変わってくるので、彼らをすべて「UIデザイナー」と一括りに呼ぶことにはいささか無理があるように感じることがあります。エンジニア職でいう「Webフロントエンジニア」と「iOSデベロッパー」の区別がされていないような状況に近いかと思います。かといって職能や肩書きを細分化することを提案しても、それが適切に社会に支持され、お金を稼ぐことができるひとつの職業として認められなければあまり意味がないので、理想だけを語っても仕方がありません。その代わりに、大きくUIデザイナーと呼ばれる職種には具体的にどのようなタイプが存在しているのかについては、なんとなく言葉にできるような気がしました。この発想でスキルマップを作ったりして当てはめてみることで、さまざまな個性の存在や捉え方といった発想が見えてくるのではないかと考えました。
ということで、偏見まみれのUIデザイナーのタイプ分類というものをちょっと書き起こしてみました。あくまでベーススキルはUIデザインにあり、その加点として各々のタイプがある(タイプ被りOK)と読み取っていただければ幸いです。
ヴィジュアル表現志向タイプ
グラフィック表現の制作に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。アーティスト気質な方が多い印象があります。象徴的なアイコンやティザーイメージを必要とする場面では彼らの存在が不可欠です。一方で情報アーキテクチャなどはあまり得意ではないという方も一定数おり、後述する情報アーキテクチャタイプのデザイナーとペアを組むことで強力な成果を残しやすくなります。
インタラクティブ表現志向タイプ
インタラクティブなUIの制作に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。ヴィジュアル表現志向タイプと近接するところもありますが、インタラクティブ表現志向タイプの方が「理数系」に寄っています。UIアニメーションやサウンド、触覚フィードバックを使った制作も彼らが得意とする分野です。自分でコードを書ける方が多く、かつてはFlash、最近ではインタラクティブに動くWebサイトや、なめらかなアニメーションが施されたモバイルappを制作している方が多い印象です。
エフェクト表現志向タイプ
エフェクトなどを使ったUI演出に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。Webやモバイルの分野よりもビデオゲームの分野に多いタイプです(業界によっては**アーティストと呼ばれたりすることもあるそうです)。インタラクティブ表現志向タイプと被っているとよりレベルが高くなります。今後、空間コンピューティング、XR分野が伸びてくると、これらの分野でもエフェクト表現志向タイプのデザイナーが重宝される可能性があります。
情報アーキテクチャ志向タイプ
UI構造の礎を設計することに長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。彼らはアーキテクトとも呼ばれます。UIの構造そのものの設計を担うので、発想や言動はエンジニアに近くなりやすいです。情報アーキテクチャはデザインの基礎となるものなので、情報アーキテクチャ志向タイプはどの分野であれ不可欠ですが、業界によってはあまり価値が認知されにくいことも課題としてあります。
アクセシビリティ志向タイプ
UIのアクセシビリティの設計や分析に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。情報アーキテクチャ志向タイプとも被っている人が多い印象があります。特にWebアクセシビリティの機運が高まっているため、Webデザイン分野を中心にこのタイプの需要が高い傾向にあります。しかしWebに限らずアクセシビリティの考えは普遍的に大切であるので、他のプラットフォームでも同様にアクセシビリティ志向タイプが増えていくのが理想だと思います。
UX志向タイプ
ユーザリサーチや分析に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。ユーザビリティ評価なども得意とします。情報アーキテクチャ志向タイプ、アクセシビリティ志向タイプとも近いところがあります。UIデザイナーを軸足とする場合はいわゆるUXデザイナーの補完役・代役として活躍できる可能性が高く、その領域のパフォーマンスを上げたい場合は重宝されやすいです。
ブランディング志向タイプ
製品などのブランディング設計に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。コピーライティングも得意とします。ヴィジュアル表現志向タイプともかなり近接するため、タイプ別に職を細分化・分業するよりもヴィジュアル設計兼務という形にした方がパフォーマンスが上がりやすくなります。
特定プラットフォーム志向タイプ
特定のプラットフォームのUI設計に長けている、またはその分野に強く意識が向いているタイプのUIデザイナーです。UIデザイナーでありながらエンジニアと同等の知識・技術を有している方も見かけられます。条件がはまれば最強ですが、スキルとしては一点突破型なので扱いづらいという欠点も併せ持つため、本人にはT型人材を目指すような生存戦略が必要です。
ジェネラリストタイプ
これまで挙げたようなどのタイプとも言い切れないが、任されれば割と満遍なくそれなりにできちゃうようなタイプのUIデザイナーです。本人は尖ったスキルを持たないので自信がないと言いがちなのですが、大抵どの分野のデザインでもそつなくこなす姿は、裏を返せばできないことがないとも言えるので、周囲からは評価されやすいように思います。上級職に「フルスタックタイプ」があります。
フルスタックタイプ
これまで挙げたどのタイプにおいても深い知識と技術を有している、いわばスーパーUIデザイナーです。かなりの希少種です。
デザイナーはビジネスの観点を持つべきだという言説について思うこと
この記事を書いている当初は、「ビジネス志向タイプ」というものも考えていました。しかし最終的にはそれは削ることにしました。温度感や細かい事柄を書き起こすことが難しかったというのもあるのですが、もう一つの理由は、昨今話題になりやすい「デザイナーはビジネスの観点を持つべき」といったような言説に対する違和感もありました。
確かにデザイナーであれ何であれ、資本主義の社会で暮らしていくにはビジネスの知識やスキルを持っておくに越したことはないのですけれども、私はあえてそのことを「デザイナー」の枠に包括する必要性はないと考えています。デザインとは別に存在するビジネスの観点、知識、スキルと区別すれば良いことであって、わざわざデザイナーのスキル要件を拡張してハードルを上げるような線引きはしなくても良いと思っています。これを認めてしまうと、「デザイナーは物理学ができなければならない」「デザイナーはコードを書かなければならない」「デザイナーは英語を…」といった具合にさまざまなポジショントークが繰り広げられ、際限がなくなってしまう気がしています。それに、ビジネス観点の専門職は他に存在しているはずなので、スーパーマンを求めるのではなく多彩な人々が集まったチームで挑む方がコスパは良いと思います。
私はシンプルに、(UI)デザイナーのタイプとビジネスを志向することは同じ軸上ではなく、別の軸で扱えば良いと考えています。