たまご

わたしは神様だった。
バイト中、煮卵の仕込みのために80のゆでたまごを剥き、ひとつひとつ、殻が付いていないことを確認しながら、あたらしい箱へ移動させていた。わたしは神様なのかもしれない、と思った。ゆでたまごたちにとって。
白く綺麗につるつると剥けた卵もいれば、でこぼこになってしまったりした卵もいて、でもそれまでわたしはそんなことも考えずに、ただなんとなく失敗したなーと思っていたのだけど、ふと、神様もわたしたちを作る時はこんな適当な気持ちなのかもしれないと思って、突然、怖くなった。
神様、人間を作る時はきっと人間がゆでたまごを剥く時と同じで、失敗しても失敗したなーとしか思わないし、上手くいったらちょっと嬉しいくらいなんだと思う。わたしを作った時は多分神様は別に嬉しくなかった。
そう思うと、ゆでたまごたちひとりひとりを大切にするのがわたしの義務なのではないかと考えて、大切に、たいせつに、ゆでたまごを移動させた。剥かれた殻が入った元の箱には、割れてしまったゆでたまごの黄身がどろりと流れ出していた。それらもたいせつに拾って、せめてもの贖罪として、綺麗に剥けたゆでたまごたちのいちばん上にそっと乗せた。
そうして、仕事を終えて店長にそれを渡したら、「割れた卵は入れないでね。」と言われ、わたしが置いたいちばん上のゆでたまごは元の濁った水に戻されてしまった。いちばん上になった綺麗なゆでたまごの上には黄身がこびりついていた。黄身は血だった。わたしたちでいう、血、で、わたしはそっと綺麗に剥けたゆでたまごを持ち上げて、彼らの仲間の血を洗い流したのだった。わたしは神様。

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