第4話 いくつもの裏切りを確認
2022年7月5日真夏日。
西部区役所は、マイナンバーカード申請希望者で大混雑していた。マイナポイント大繁盛にしても、まだこんなに未申請者がいるんだなと驚いた。案内表示には「待ち時間は2時間となっております」とあった。
「ちょうどいい感じ」と私の心の声。
区役所に到着したのは午前11時30分の少し前。入口付近では、NPO法人が野菜を販売していて、その隣では『ポパイ園』がお惣菜やお弁当、その他の商品を販売していた。『ポパイ園』こそ、ウサギが率いるB型の障がい者就労支援施設だ。
野菜を売っているのは障がい者系のNPO法人らしい。その販売部隊が鬼すぎて大笑いしてしまった。おそらく多少の知的障害があるんだろうけれど、だからこそのアピールがストレートで汚れてなくて、つられてお客様がどんどん野菜を買って行く。
真っすぐな瞳で「血液サラサラになる紫玉ねぎが1袋100円ですよぉ!血液がサラサラになるんですよぉぉぉ!」と大声でやられたら、のぞいちゃうし買っちゃうよね。
もう一人は「ほうら、野菜!ほうら、野菜!」と両手を使って大きなアクションで野菜に向かって風を起こすように言うもんだから、見えない力が働くらしくお客様は野菜の箱にどんどん吸い込まれて行く。
でも、笑っていられたのはここまでだった。
ポパイ園の販売員さんはどうしてだか不在だった。私がポパイ園の商品に近づくと野菜を売っていた男性が「ポパイさん、割りばしを持ってくるのを忘れて買いに行ったか、取りに帰ったかなんだって」と内輪で話しているのが聞こえた。
ポパイ園が持ってきていたお弁当の数はわずか4つ。後は、冷やしサラダうどん1個、カオマンガイ1個。小パックの惣菜6個程。その他はクッキーなんかの常温商品を大量に持ってきていた。
こないだと同じだ。お弁当はたった4個。
カオマンガイ、冷やしサラダうどん。。。やっぱりね。
ウサギは、やっぱり裏切っていた。昨夜の判断は間違っていなかった。
確認出来て良かった、良かった。
そう思った時にポパイ園のユニフォームが見えた。知らない顔だ。良かったこれでじっくり事実を見ることが出来る。
ごった返す中、偶然空いた椅子はポパイ園の販売の声が聞こえる程の至近距離だった。よしよし、予定していた2時間の長丁場を座って過ごすことが出来そうだ。
12時半。ようやくお弁当が一つ売れた。
その日のお弁当は「イベント弁当」とかいう特別仕様で税込600円。毎日の日替弁当税込500円がイベント仕様になると600円になる。このイベント弁当は月に2回。イベント弁当の日は500円の日替弁当は無し。
儲けたければ、500円のまま「日頃のご愛顧に感謝して特別仕様弁当をお値段据え置き!」にすべきだ。じゃなきゃ、イベント弁当なんてやらなければいい。
イベント弁当の中身はと言うと、ちらし寿司、天ぷら盛、サラダ、ゴーヤーチャンプルー、デザート。
中途半端なメニューだ。炎天下の天ぷらは見ただけで食欲を無くす。どうしてもつけたければ冷やしめんとセットすべき。ちらし寿司とゴーヤチャンプルーをいっしょに食べたい人間がこの世に何パーセント存在するだろう。
しかし、このイベント弁当の私にとってのメインイベントはデザートがインであるかアウトであるかだ。そのせいで、デザートが何かまではっきり確認しなかったのでデザートの詳細はわからない。
結果はイン。
これも改善指示を出したがウサギは無視。きっとウサギは言うんだろうな「私は言ったんです。でもスタッフが」いつもいつもそうだ。ウサギは色々なものを裏切る。
「生のパイナップルを弁当に入れたら、レンジかけるときどうすんの~!!え?何?お客さんにパック開けてもらってパイナップル出してもらうの?生のパイナップルもあっためんの~~~~?ちゃんと考えろ~~~!」
黒陽のこの叫びに何一つ間違いはない筈だ。以前のイベント弁当はそうなっていたので私はこう指示を出した。
『内容が少々劣っても、デザートを別付けする心遣いが福祉製造品の良さでは?お客様にその心が伝わります。改善をお願いします』
しかし、結果は何も変わってはいない。しかもウサギは黒陽にこう言ったということだった。
「生パイナップルはいただいたので、たまたま入れただけなんです」
はあ?そうじゃないだろう!けれど、ウサギはそんな日本語の遣い方をすることが多い。何故だろう。
12時45分。少し前にNPO法人の野菜は完売。
高齢の男性がお弁当を1個購入。お弁当は残り2個。カオマンガイ1個と冷やしサラダうどん1個はまだ残っている。
13時12分。
高齢の女性が「留守番に食べさせるから三つ要るんだ」とお弁当に近づいてきた。「あら弁当二つしかないの?これ、なんだ?」カオマンガイを指さす。「鶏を炊き込んだご飯です」と販売員は答える。どうやら販売員は健常者ではなさそうだ。
「あー、そうかそうか。鶏の炊き込みご飯ね。じゃ、これにすっかな」
違うと思うなぁ、説明足りていないと思うなあ。。。行って説明しようかなあ。。。「具は鶏だけですよ。ごはんの味薄いですよ。それは正解なんだけど何より、そのタレが恐ろしく不味いですよ」と言うか言わないか迷っていたら高齢の女性は去って行った。ごめん。
でも、販売員さんには罪はないんだ。罪があるのは裏切りのカオマンガイ。
13時20分。
当初の予定より10分早いが立ち上がった。ラーメンでも食べに行こうかな?たくさん汗をかいて悪いもの出したくなった。
お惣菜の小パックが2個と冷やしサラダうどんは、まだ売れ残っていた。いつもは仕事としてお弁当を買うんだけど、先ほどまであった「イベント弁当」は買う気がしなかった。でも、実はクッキーは買ったんだ。
裏切のカオマンガイ、裏切りの冷やしサラダうどんの詳細は追って説明しようと思う。
色々な裏切りが散らばっていた西部区役所の販売。キレた昨日に納得した。
双子園の理事長には、すべてを伝える。伝えなきゃだめだ。