第7話 裏切りのカオマンガイと冷やしサラダうどん
カオマンガイ
2022年4月下旬。黒陽は自宅近くにある中林コミュニティセンターに寄ってから、私のところにやってきた。
「ポパイ園の販売に行ってきたけど、お弁当1種類が4個程とこれが2個、あとはお菓子。早く行きすぎて準備を見てたんだけど、あれっぽっちしか売ってないんだもの買うものなかったわ。お弁当は私が試食するけど、これはカメが食べてみて」
そう言って渡されたのが、カオマンガイと表示された丸いパックに入った商品だった。見た目は一応、カオマンガイだった。タレも別な容器でついていた。
「あれっぽっちの販売なら、やめればいいのに」そうボヤキながら黒陽は去って行った。ボヤキの続きをどこかにしに行ったのだろう。私は邪険にはしないけれど忙しいので塩対応だから。けれど、そんな塩対応でも関係性は何故か出会った時から良好だった。
14時、少し遅いランチタイムにカオマンガイをレンジで温める。
カオマンガイの鶏肉とご飯をいっしょに口に放り込む。う~ん。。。なんか違う、薄味の方向性が和風だ。方向性は違うがまあ、良しとしよう。
続いてタレをかける。少しタレを舐めてみる。
わぁ~お!あろうことか味噌味寄り。しかも、とても不味い。これはカオマンガイではない。でも、カオマンガイを知らなければ「そういうものかな?」となんとか食べられるかも。
ウサギにメール連絡。
『カオマンガイをいただきましたが、こう、なんと言うか「鶏のみそだれがけ」という方向性で食品として食べられなくはないんですが「カオマンガイかもしれない」とか「カオマンガイを目指しています」という商品名じゃないといけないかもしれませんね。特にあのタレは難しいと思います。私であってもカオマンガイを自信を持って商品には出来ません』
ウサギからは軽~い感じで返信が来た。
『そうですか。。。ううっ。。。封印しま~す!』
と、ごくごく普通に自分で封印と言っていたのに、こそっと販売していたのだ。でも、この「こそっと販売」大きな問題があるんだ。
冷やしサラダうどん
仕事だから、お金もないのに毎日毎日ポパイ園の弁当を買って食べている。そらあ、西部区役所の後には中華そばを食べに行ったよ。でも、外食なんてそれだけだ。ポパイ弁当ストレスで、まともな仕事が出来そうにないからあえて行っただけのこと。日々、ポパイ園の商品との格闘だ。
そう、仕事なんだけれども、どうしてだか冷やしサラダうどんは買いたくなかったんだ。ずっとずっと買いたくなかったんだ。きっと「カメ!不味いよ!私、問題商品だよ!お金もったいないよ!」と冷やしサラダうどんが訴えてくれたんだと思う。
でもある時、意を決して購入。価格は税込500円。ポパイ園恒例のぼったくり価格だ。コンビニよりも遥かに高い。
ロジックは明確だった。500円で売りたいから大皿にうどんを広げる。テイクアウトには不向きな程の大皿だ。二人家庭でしゃぶしゃぶをやる時に使うようなサイズ。
うどんの上に、ツナをまばらにまき散らす。そして、細切りのレタスもまき散らす。この時点でうどんはと~っても見えている。丸裸同様と言っていい。そこに半分に切ったゆで玉子。めんつゆの小袋、同じく小袋のマヨネーズをのせる。私が食べた時にはトマトもなかった。
ほうら豪華~!500円妥当!と思っている人間は、ウサギと食に関して余程何かが足りない人間だけだ。
蓋を開けて食べ始めると、ちょっとしたエンターテイメントの始まりだった。
めんつゆを全体に回しかける。割りばしでうどんをほぐそうとすると全然ほぐれない。すごい絆だ。見習え!人間達よ。
しかも、深さのある器ではなく平たい大皿なので、余計に混ざらない。覆水盆に返らず・・・盆じゃなく深さがあればきっとこぼれにくかった筈だ。
そして、力がいるからツナが大脱走!ツナよ、君たちは何から逃げたいんだ!何故、脱走するんだ!違うか。。。混ぜ飛ばしているのは私だ。
テーブルには、かなりのツナが飛ぶ。ちなみに自宅で同じようになった黒陽は「手で混ぜないとほぐれなかった」と言っていた。令和な現代において、店舗で買ってきた冷やしうどんを手で混ぜて食べるなんてことあるか?
この状態で実食。
うどんの絆がめんつゆを拒む。そもそも、ほぐれにくい状態のうどんが、そんなに早くつゆと馴染む筈がない。うどんとつゆが、しばし別に咀嚼され、その後ようやく馴染む感じだ。そこにレタスとツナが入り込む。一家離散という四文字が頭に浮かぶ。
もうどうにもなりそうもない冷やしサラダうどんに、念のためマヨネーズもかけてみた。
さ・い・あ・く。
悪循環の循環が良くなった。ダメじゃん!
元々少な目で、そして散らばっていたレタスにだけマヨネーズが届くならいいが、マヨネーズはめんつゆに混ざってしまうので、めんつゆにマヨネーズを入れたつけ汁でうどんを食べているのと同じ状態だった。レタスとツナは完全に薬味状態。
世のテイクアウトのすべてのサラダうどんが、別サラダになっているわけだ。それならマヨネーズも美味しく食べることが出来る。
これもウサギに報告。特にコメントなし。しかし、陽陽の店の仕事の流れ上、私がノーを突き付けた商品は販売してはいけないという暗黙の了解が出来ていたので、その後、陽陽の店に冷やしサラダうどんが納品されることはなかった。
でも実は、このnoteの作業をしている2022年7月15日。ウサギから冷やしサラダうどんに関する面白い言い訳のメールが来たので、その実物を差し障りのあるフレーズを変えていつか晒そうと思う。期待してね。
何故「こそっと販売」がいけないのか?
私はウェブマガジンの会社の社長さんとチームを組んで仕事をしている。だから、無償でそのウェブマガジンで大々的に宣伝が出来る。
勿論、ウサギもそのことを知っていて、その宣伝に大きな期待をしていることも私はわかっている。元々、陽陽の店に関しては宣伝計画が立ててあったが、ポパイ園の商品があまりに酷いため見合わせている状態だった。黒陽は完全にそのとばっちりを受けている。
だから私は宣伝の準備の為に、ウサギにこう伝えてあった。
『うるさく言われる陽陽の店だけに、NG商品を納品していないという状態だと、宣伝をかけた時にポパイ園は足元すくわれますよ』
当然だ。インターネットだから宣伝をすればポパイ園のホームページにも多くの注目が集まる。西部区役所や中林コミュニティセンター他の販売予定もすべてポパイ園のホームページで公開されている。
陽陽の店以外で改良前のNG商品が販売されていたら、どういうことになるか・・・多くを語らなくてもわかる筈だ。
ウサギからの連絡の内容は『私はちゃんとやっています』というものだった。
うん、ちゃんとこそっと販売してるよね。嘘つきウサギさん。
実は、NG商品はカオマンガイと冷やしサラダうどんだけではない。他にもいくつかある。それらを何とか販売させてあげたくて私は懸命に製造指示を出す。でも、ウサギはそれを実行しないで販売を続け、嘘を重ねる。
2022年6月下旬。
シルバー音楽ホールのポパイ園の販売の偵察では、ついにお弁当が販売されておらず、冷凍食品のたこ焼を揚げた「揚げたこ焼」が2パックとテキヤのように高くて具のない焼きそば2パック、そしてお菓子だけが販売開始時間に並んでいた。
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