第13話 コロナ後遺症で味覚が正常化?
2022年8月6日。コロナ感染で製造がストップしていたポパイ園が納品再開。
ビジネスの先生が今年の3月頃にこう言っていた。
「世界のビジネスのトップ達の話だと、コロナは約6か月後に爆発的に感染者が増えるということです」
私のビジネスの先生達もそれぞれ更なる上の先生にビジネスを習っているのが通常だ。更なる上というのはビルゲイツとか、そういうレベル。
コロナの件はビルゲイツも参加しているチームから出た情報だというが2022年8月現在、実際に感染爆発中だ。
先生達から来る情報はいつも筋道立っていた。
コロナの感染爆発だって「規制全解除だから感染爆発は当然」と世の中の大半がそう見るかもしれないが、私が先生から聞いた情報は全く違う頷けるものだった。
しっかり仕組まれているから筋道立つ。世界は怖いね。
でも、それよりもっと怖いのはウサギかもしれない。筋道立たない支離滅裂は、真面目な私にノイズを入れまくる。
ウサギから来た「製造ストップの連絡メール」を以下に貼る。
カメ 様
お世話になっております。
厨房のスタッフでコロナ陽性者が発生してしまい、
8/4頃まで製造が一部ストップする形になりました。
陽さんもお休みと聞いておりましたので、
取り急ぎのご連絡です。
どうぞよろしくお願いします。
ウサギ
このメールの内容が実に絶妙だ。さすがウサギ。
再開された納品から数時間たって黒陽が報告してくれた内容がこうだ。
「草原君も、あとなんだっけ名前忘れたけど草原君の代わりに配送に来る人も、その他数人もコロナだったんだって。ウサギもコロナで舌が微妙で味のチェックが難しいってさ」
私はその報告に耳を疑った。
「え?ウサギさんもコロナ?ウサギさんって厨房には入らないって言ってたよね?」
カメさん!私は厨房に入らずチェックだけなんです!って、いつだったかウサギは必死で主張していたからだ。どうなってんの?ウサギ。しかも自身も感染って聞いてないし。
まあいいや、これくらい対ウサギだと日常茶飯事だ。っていうか、ポパイ園、クラスターじゃん。
「それをクラスターと呼びませんか陽さん?」
という私の突っ込みに、黒陽がしばし爆笑してから言った。
「認めたくないんじゃない」
うん、そこは明白だ。でも、そうじゃないだろウサギさん。
「いえいえ、認めたくなくてもクラスターでしょ」と、二人でもう1回笑った。
感染爆発中のコロナだからクラスターなんて珍しくはない。でもそれをあの内容のメールで伝えてくるのがウサギっぽいね。
「カメさん申し訳ありません。ほぼクラスター状態で製造ストップです」
でいいんじゃないのかな?いつも邪な思考と不正確を混ぜる。
でもこの日は、クラスターなんか吹き飛ばすことが起きたんだ。
ウサギ、不味いソースの件を認める。
クラスターの件にあまり食いつかなかった黒陽が「それよりね、」と若干の怒りモードで口を動かし始めた。
「あの不味いおろしソースがまたかかってきたから、ウサギに文句言ってやったんだ。あれは食べられないから駄目だって。そしたら『コロナに感染して口がバカになっている私でも、あのソースはしょっぱくて食べられませんでした』だってさ」
でしょうね。私がキレたソースだからね。黒陽も何回も不味いって伝えてきたよね。
「で、ウサギが言ってたんだけど、あの不味いおろしソースやっぱり市販品だって。でも、もう封印するってさ」
はい?
「え?あれだけ手作りって引かなかったのに今さら?何?コロナで味覚が正常化?コロナで脳も正常化?何それ?」
私のこの発言の間、黒陽は終始ニタニタしていた。
やっぱり市販品じゃないか。どう考えても手作りであるわけがない。コナン的に推理すると仕事が面倒くさかった厨房スタッフがお米や玉子焼きのように手を抜いて、市販品のおろしソースを隠れて使用し、ウサギには「手作りです」と報告していたのだろう。
だとしたら、納品開始から約三か月もたった今頃、ウサギは市販品であることを何故認めたのだろう?あれだけ「絶対に手作りです!」と主張してきたのに。
そこに「申し訳ありませんでした。あの美味しくないソースは市販品でした」という言葉が無い所を見ると、もう変化の原因はコロナしかない。
コロナ恐るべし。
筋道立たないウサギはやはり恐怖だ。いや?逆に正解なのか?ビルゲイツ達が言うコロナの理論の一つはこういうことだったのか?
武漢という地域から起こる色々が怖い・・・とは思うがレベルが違い過ぎてお門違いなので身の丈に合う思考に戻そう。
カメよ、コロナチャンスを生かすんだ!
何がどうであれ、ウサギに微々たる変化が起きたことは確かだ。ダメ元でそこに切り込んでみようと思う。
さあ、ゲームだゲーム。事はどう動くかな?
私のメモというのは手書きもあるが、プリントアウトも多い。字があまりきれいじゃないと思っているし、実際、手書きよりもキーボードを叩いた方が圧倒的にスピーディーなのでプリントアウトの方が多いかもしれない。
偶然の静寂中、私は随分前に録画したドラマ「グランメゾン東京」をずっと見ていた。
それを見ていて「だめだ、ウサギに引きずられている」と気が付く。ありがとう静寂の時、そしてグランメゾン東京。
ポパイ園のどの職員が手を抜くというよりも、ウサギ自身が雑な仕事をすることは色々と把握していた。
仕入れもそうだ。とにかく業務スーパーの食材を使いたがる。だから、その希望に沿う為に業務スーパーの商品をどう美味しく仕上げるかの指導に、私自身も必死になった。
安くて手を抜きたいという希望に沿う為に探した商品を提供すると、ウサギはその商品をさらにかさ増ししたがる。その度に、かさ増しの方法を教えたりもした。
でも、それは間違っていた。勿論、正しい仕入れ、そして、正しい料理の指示も同時にやってきたが、どう考えてもウサギに引きずられて「お客様の為のお食事」から逸れ始めていた。
軌道修正完了。
ありがとう、ライオンズゲート。私はこうじゃないといけない。
よって「無添加焼肉弁当」の構成を大きく変更。ポパイ園の製造中断があってよかった。じゃなきゃ、ウサギに引きずられた手抜き弁当の完成になっていた。
無添加焼肉弁当の副菜には、ポパイ園が作れそうな「海苔パスタ」と既製品の無添加おから煮の使用を予定したのだが、それは完全にポパイ園の製造に合わせたメニューでありお客様の為のものではなかった。
だから、新構成ではポパイ園の製造でも問題なく安定して作れて、とんでもなく美味しく、そしてまた「そんなものお弁当に入れますか!?」という意外性のあるメニューを副菜の一つに加える。
もう一つの副菜には有名な地場産品で人気度も高く、かつ、好き嫌いが少ないであろうと想定されるメニューをチョイス。さらにご飯のトッピングに最高級のとある食材を使う。この地域ならそれが格安で入るからだ。
メモに書いた「宣伝をかける」は黒陽の為だ。遅れに遅れた宣伝に黒陽は文句の一つも言わなかったが、売上的にはそろそろ限界だ。
最悪、無添加焼肉弁当だけが売れる形になって「ポパイ園の日替わり弁当やお惣菜ってイマイチね」とお客様に思われても仕方ない。ゲームとしては捨て駒扱い。
お弁当やお惣菜のクオリティは多少上がってきてはいるが、先日はまだこんな商品が納品された。
空気を包んで揚げた商品の背景。
完全なる「空気包み揚げ」だ。
チーズを餃子の皮で包んで揚げたよくある人気商品だが、ポパイ園の製造レベル、そして黒陽とウサギのビジネスになっていない泥沼化した会話がこの商品を生んでいる。
実はこれに似た商品は納品開始時からそれなりの頻度で納品されていたが、黒陽がいちいち文句をつけて、ウサギがそれに応じるという形が続いていた。二人で商品を泥船に乗せ続けてきたので、今回沈んだ形になった。
流れはこうだ。
黒陽「だめよ、とろけるチーズじゃないと美味しくないわよ」
ウサギ「はい、わかりました」
黒陽「チーズだけじゃだめよ。何かで巻きなさいよ」
ウサギ「では大葉で」
黒陽「だめ、大葉の色が飛んでいるから返品」
ウサギ(じゃ、チーズだけにしよう・・・)
ポパイ園の製造(揚げすぎ)
「空気包み揚げ」の完成。
おそらく使用したチーズは、とろけるチーズのシュレッドタイプか、スライスチーズを細くしたもの。昔は結構あったけど、今は棒状のとろけるチーズは手に入りそうで入りにくいから間違いなくこの2択だ。
黒陽が「とろけるチーズ」とさえ言わなければ、通常のチーズ揚げで留まったのに泥沼化した会話により悪循環。こうなるから嫌なんだよな「自称料理上手」同志のこういうの。
とろけるチーズじゃなくていいし、色飛びが防止出来ないんなら海苔でいいじゃん。知識と経験がないのに主張するなよ。付き合いきれないし。
だからメモではあらかじめ、そのあたりを想定して既存のお弁当とお惣菜に私は関わらないことにしたんだ。
先程と同じ私のメモ。
そこには「お惣菜とお弁当は二人で好き勝手やってくれ」とした。そうじゃないと売上になる商品に手がかけられない。
策を駆使してゲームに勝つ。得体の知れないウサギと輩である黒陽が含まれるゲームでは、通常の手法では無理だ。
2022年8月10日。ささやかなる好材料。
黒陽は午後4時頃になると決まって私のところにやってくる。とても来て欲しくないけれど、やはり毎日やって来る。用事があれば私が行くのにな。
そして、何だかんだ面倒くさいことを一方的にしゃべり続け、こう締めくくる。
「じゃあ、私、4時半で上がりますんで」
どうぞどうぞ、いちいち挨拶に来るなよな。責任感でやっているだけで、あなたのことは決して好きじゃないんだからさ。
そもそも陽陽の店の閉店時間は午後5時なんだから、営業時間の表示を書き換えるか午後5時までいるかどちらかにすれば?輩に多いよね時間守らないことがかっこいいって思っているその感じ。
と、毎日思うわけじゃないが結構な確率でそう思っている日々。
しかし、その日は少し違う風が吹いた。
「さっき、ウサギから電話があってね、」と黒陽が続けた内容がこうだ。
長きに渡りポパイ園からお弁当を購入してきたお客様が「最近、ポパイ園のお弁当が急に随分と美味しくなったけど、作る人変わったの?」とウサギに伝えてきたらしい。
これに気を良くしたウサギは
「そんなこと今まで言われたことがなかったので、絶対に陽さんとカメさんのお陰だと思いまして。。。カメさんにもその旨をお伝えください」と伝えてきたということだった。
「頑張って電話で喋った陽さんの功績だね」と、そこは素直に言った。63%くらいはそう思っていた。
でも、私はその事をゲームに勝つささやかな好材料だとしか思ってはいなかった。
すり替わっていたお米を完全なる精米したてのコシヒカリにして、玉子焼きの既製品使用を防ぎ、付け合わせの製造指導をし、ポパイ園がそのルールのたった二つ程を守り、副菜やメインに黒陽が毎日ヤイヤイ文句を言ったことでクオリティが多少上がり、お弁当が美味しく感じたことは確かだと思う。
でもそれは「たいして美味しくなかったお弁当」が多少まともになっただけの話で浮かれる話ではない。煮魚の下に煮汁に漬かったマカロニが入っていた約3ヶ月前のお弁当を知っている人間にとっては、そう考えるのが妥当だ。
「習う」というスタンスの、学校なんかであればお客様のご意見をプラス材料のみにすることは問題ないと思う。ポパイ園でも製造スタッフなら同様でいいと思う。
でも、管理者としてビジネス視点、そして成長要素とするならば「今までどんな不味いお弁当を食べさせてきたんだろう」と背筋が寒くなる思いは必須だ。
お弁当が美味しくなったと、たった一人のお客様が言ってくださったとしても陽陽の店に納品されるお弁当の合格率は1週間で3個あるかないかだ。確率にすると25%程度。そんな弁当屋あるか?
福祉だから美味しくなくても定期的に500円のお弁当を買ってくれるということは、500円もする美味しくない弁当を売りつけているということと等しい。別の言い方をする、それを輩と言う。
第一、近日において「空気包み揚げ」を納品していること自体で、まだまだお先真っ暗だ。
でも・・・・・・・このネタ使える。
喜んで浮き上がっているウサギと、足をつけるべき地の隙間にさらに切り込むチャンスだ。コロナマジックと合わせるとまさにダブルチャンス。
うまくやれよ私。滅多にこないチャンスタイムだぞ。さあ、このダブルチャンスタイムにどう切り込もう。