第6話 認めない食品偽装。
お米はすり替わっていた。そして昨日のハンバーグは生焼けだった。
ダメな商品の為に
Twitterを始めている。それを見ればポパイ園の酷さを知ることだろう。
10年以上園を運営しているというからお弁当もそれなりの年数製造しているはずだ。だからこその「お弁当、お惣菜製造承ります」というポパイ園からの猛PR。
それを真に受けた、成長しない私。
本当は「お金が欲しいだけなんです」だったことを、その後気が付いても
遅い。。。名誉が欲しいことも十分に伝わっている。
拙いことは決して責めない。でも、悪行を放置してはいけない。ましてや食品製造業。人様の健康や人生のパフォーマンスにも影響してくる仕事だ。
だから、やっぱり悪行は絶対に許さない。
でも、これはゲームだ。騙されていることを知って進めて行くゲームだ。ゲームに勝って売上を取る。このゲームの売上とは障がい者の工賃、つまりお給料だ。
ゲームに勝ったからと言ってウサギを有頂天になんかさせない。裏打ちのない名誉で時の人になんかしない。それより遥かに大きな実績をたたき出して理事長と澤さんのお手柄にする。それは、私が毎日やっている作業だ。まだ、目に見えないけれどもうすぐそこに辿りつくと断言する。
ポパイ園のお弁当の一つの売りが「精米したてのコシヒカリ使用」だった。
しかし、陽陽の店でお弁当の販売が始まった時からご飯の様子は、おかしかった。そのご飯の様子は実は納品開始を取り上げてくれたウェブマガジンでも触れられていた。
「ご飯が美味しくない」と。
ある意味、一つの証拠だ。
しかし、お弁当のご飯は美味しいこともあった。「精米したてのコシヒカリだな」と思う時も確実にあった。けれど、パサパサして割り箸から全部落ちて行くようなご飯の時も半分くらいの確率であった。
パサパサのご飯の時は、米粒がとても小さかった。実は目視で無洗米であることはある程度わかっていた。しかもコシヒカリの無洗米ではなく一番安い混合無洗米の可能性が高かった。
だから私は何度もウサギに聞いた。
「炊飯業者による外部炊飯ですか?」「精米は無洗米モードですか?」「精米モードが違う時があるのではないですか?」「精米作業は一人で行っていませんか?」「浸水作業は一人で行っていませんか?」
ウサギから明確な返答はなかった。無視されたのか?そういうことでもない。一番近い表現としてウサギはずっと「カメさん何言ってるんですか?ウチのご飯はちゃんとしているに決まっているじゃないですか?」という事を短い言葉で伝えてきただけだった。
2022年5月末。私は西部区役所でポパイ園が販売していた「マヨチキン弁当」を二つ買った。ウサギから聞いていた話と全然違う、恐ろしく少ない弁当の販売数に驚きながらの購入だった。
しかも、全部で4個販売されていたお弁当のうち2個はマヨチキン弁当だったが残りの2個は何がしかの魚が揚げてあるおかずがメインのお弁当だった。
仕事で買いに来ているのだから、本来ならマヨチキン弁当と魚のお弁当を一つづつ買う筈の私が、しかも、本来魚好きな私が待ち合わせの時間が迫っているせいもあったのか無意識、つまり本心で魚のお弁当を避けた。そのくらいその揚げ魚のお弁当は美味しくなさそうだった。
神様がくれたご飯ジャッジチャンス。
マヨチキン弁当をいっしょに食べる相手は決まっていた。かつての部下である株式会社上米煎餅に務める麦岡だ。上米煎餅と言えば一部上場企業の有名煎餅メーカーだ。新入社員研修ではお米のことをみっちりと叩き込まれたと麦岡から聞いていた。
麦岡の仕事は商品開発だ。麦岡がいつも働く研究開発室は近くない場所にあるが、新規の商品開発依頼があり近所の営業所に打ち合わせに来る予定を聞いていた。駅で待ち合わせ、麦岡の会社の営業所の一角でマヨチキン弁当を食べることにした。
レンジアップしたマヨチキン弁当の透明なフタをそれぞれ開けた。マヨチキンのいい匂いと共に白いご飯は現れた。米粒が小さい。間違いなく不味い方のご飯だ。
「やっすい無洗米っすね」
ほかほかの白米にご対面した瞬間の麦岡の言葉だった。まだ箸さえ持っていない。
「だよね!パサパサしていてお箸から落ちるんだよね~」と私。
良かった!不味い方のご飯の日で良かった。美味しい方のご飯の日だったら麦岡にジャッジしてもらえないところだった。持ってるなあ、私。
「この小さめの米粒の大きさといい、透明感が違う米が混ざっている感じといい、混合無洗米に間違いないと思いますよ。こんなこと、僕に聞かなくてもカメさんだってわかりますよね」
「うん。わかっていた。でも色々思って断定しなかった」
「少なくともコシヒカリではないですね。完全なる食品偽装。犯罪」
不味い白飯のマヨチキン弁当をさっさとたいらげると、麦岡は食後のコーヒーの準備をしに行ってくれた。麦岡、ご飯が不味いランチをさせてごめん。
マヨチキンが不味くなかったことがせめてもの救いだった。
友人のオタクに鑑定を依頼。
「麦岡の意見」という強い後ろ盾が出来た私は、おいしいご飯と不味いご飯の2種類をポパイ園のお弁当から採取し、オタクにそれを送った。
長い付き合いの友人であるオタクは昔から麦茶を蒸留してみたりする変わり者で化学者になった。今は、とある研究所勤務。DNA鑑定なんて朝飯前の環境にいるオタクに「違う米であることを証明して欲しい」と添えた。
オタクからの電話連絡は早かった。
「目視で違う米だってわかるけど、やる?でも、やったら俺、詳細をカメから聞いて必要機関に通報義務が発生するんだけど大丈夫?食品偽装って話じゃないのこれ」
さすが専門家、頭の回転も話も早い。
オタクの提案ですべては想定だという建前で二つのお米の分析見解を出してもらう。結果は、①はコシヒカリの可能性が極めて高い②は混合無洗米の可能性が極めて高いというものになった。
ただ、①と②のお米は完全に別物である可能性が高いという結論にも至った。
これは大きな問題だ。早速ウサギにそれを伝えた。
反論の材料を必死で持ってきたウサギ。
「コシヒカリです。と言ってそれがコシヒカリでなかった場合、食品偽装になり大きな問題です。逮捕されます」
私は資料付でそれを伝えたが血相を変えて陽陽の店に飛んできたウサギはこうだった。
「カメさん、これを見てください。こんな風に精米して大きなガス釜で炊飯するから炊きムラが出来てパサパサのご飯になる部分もありますが、お米が違うなんていうことは絶対にありません。第一、無洗米を購入したレシートなんていうものも存在しません」
何回も聞いた「炊きムラ」というフレーズ。各種のプロが3人違うと言っているにも関わらず、このウサギの態度はどういうつもりなのだろうか。
「精米したてのコシヒカリと安い混合無洗米を誰かがすり替えてるってことなんだけど、どうしてそれに気が付かないの!!これは大きな食品偽装!逮捕されないとわかんないの!!!」声を荒らげる私に黒陽が目を見開いて驚いてから大笑いした。
だって、私は優しい大人しいキャラだったから。文章は厳しくても対応は温厚なキャラクターだったから。そんな私が声を荒らげたから黒陽は相当驚いたに違いない「カメってこんなに怖いんだ」と。
「そんな考えはありませんでした・・・でも・・・」ウサギは耳を垂れた。
「疑わないのと管理不行き届きは別のものだと思うよ」
黒陽にしかタメ口をきかない私がウサギにもタメ口になった。女性には敬語で喋る。これが私のルールだったけど、その一瞬だけどうしてだかタメ口になった。
「じゃあ、こちらは」とウサギは玉子焼きを取り出した。
実は玉子焼きも食品偽装があって「ポパイ園では手焼きの玉子焼きしか使っていません!既製品の玉子焼きは一切入っていません」ということだったが
確実に既製品が入っていた。しかし、色々と重なって証拠を残せなかった。
しかし、ふとポパイ園のお弁当を撮影した画像を整理していたら、絶対に既製品の玉子焼きであるという証拠画像が出てきたので、その件もウサギに伝えておいたところ、反論の玉子焼きを持ってきたというわけだ。
「これですよね。この玉子焼きをカメさんは既製品と見間違えたんですよね。きっとこう、こんな風に黄色が濃いから・・・」
見間違えた?落ち度はこっち?ウサギ、お前何様?どういう育ち?
「この画像とこの玉子焼き、同じものかな?」
ウサギが私のスマホの拡大画像を覗き込む。
「あ・・・これは・・・。うん!だね!」と軽いテンションのウサギ。
常識人であれば平謝りの場所で「うん!だね!」という態度。何だコイツ。
結果的にお米がすり替わっていることと、既製品の玉子焼きがこっそり使用されていることを渋々ウサギは認めた。
それらの話をしていたら、ウサギと長話になった。
「そろそろ二人の話終わった?」待ちかねたように黒陽が言った。
「は~い!濃ゅぅ~~~~い話終わりました~♪」
はい?食品偽装の話だぞ。
ウサギよ、お前は元ヤンか?それともかなりの低偏差値か?それともいい友達いないの?何それ?別段、低偏差値を下に見るつもりはないが、経験上こういう話し方をする女性は元ヤンか低偏差値か、実は友達がいない人間に多いと想定。
この話し方がビジネスの妨げになるんだが、その件はまた別の機会に綴ろうと思う。
この日以来、不味いご飯がお弁当に入ることはなくなった。それは確実にお米はすり替わっていたという証拠でもある。裏切りのスタッフがいることは間違いない事実だ。
でも、それはウサギが裏切っているからそのフラクタルが起きているだけのことだ。
そうだよねウサギ、あなたカオマンガイと冷やしサラダうどんの件で私を裏切ってたよね。