生まれて初めて人を憎んだ話し
携帯電話の話し相手
一日で情報量が入り込み過ぎて頭がキャパオーバーだったが、確実なことは父の会社の同僚に憎しみが向かっていたことだ。
なぜかガンの治療に詳しくてサメの肝油のサプリを善意で分け与えてくれる父の会社の同僚。
母の前では絶対治るよ!平気だよ!と平然を装って、陰ではガンについて調べ続けた。胆嚢なんて膵臓の裏っ側とか、隠れた臓器でそこにガンができたら、素人目線でも発見が遅れやすい臓器なのではと思ってしまう。
ガン治療を悪用したビジネスも横行しており、おそらくそういったビジネスが昔も今も出ては消えてを繰り返すのは、それほど藁をもすがる状況に陥るのがガンなのだということが痛いほどわかった。
ガン治療を悪用する奴は許さない、ましてや大好きな母親がそんなものに引っかかってしまうなんて。夫婦揃って馬鹿だ。
馬鹿だけども、それほど必死だったのだ。
私の父と母は寧ろそういった怪しいビジネスや人物事については、初めから懐疑的な見方をするタイプの人間だったはずなのに、自身が病気になるといとも簡単に騙されてしまうのか。
早くに私が知らなかったことが本当に悔やまれる思いでいっぱいだ。
私たちが母の病気を知ったことで、携帯電話の話し相手と隠さず通話をするようになった。
電話での服用指示
ある時聞いた電話で、母はいつにも増して具合が悪そうだった。思い詰めた様子で「あの」携帯電話で父の会社の同僚に「病院の薬を飲んでも全然ダメで、すごく辛いんです!」と話していたが、電話の主の回答は「服用する錠剤の数を増やすように」とアドバイスされたそうだ。
医者でもないのに信用するのはどうかと父に言っても聞く耳を持ってくれない。
どうにかして母からあの携帯電話を取り上げてしまいたい。
母は言うとおり増やして飲んだが、サプリメントの錠剤の外側部分なんて堅めのゼリー状なわけで、数を増やしたところ消化不良で母はお腹を痛くしてしまった。
急激に怒りが込み上げてきて、私はどうにか携帯電話の相手に直接電話して、母や父への連絡をやめさせるようにしようと決意した。
復讐の方法
母が寝ている隙を狙って携帯電話の発信履歴から、父の会社の同僚の携帯番号を入手した。
ここにかけてもう連絡するのはやめるように言いたい。いや、そんなことだけではなく、サメの肝油のサプリを売りつけて、医者でもないのに病状から服用をアドバイスするなんて、とんでもないし薬事法とかに違反してるんじゃないか。
こういうときに真面目に大学受験をするくらいまで勉強をしてくれば良かった。私は世間を知らな過ぎた。(ちなみに姉はどうしようと言うばかりで全く頼りにならなかった)
弱者を食い物にするビジネスが世の中にあること、その弱者に病気にかかった当人や家族が巻き込まれてしまうこと、何も知識がない人に対して親切心を装って平気で騙す人間がいること、二十歳を過ぎて初めて知った。
逆に今までがそういった人間と関わることがなく幸せだったのかもしれない。
本当に許せない。
とにかくこの父の会社の同僚を痛めつけたい。
母の苦しみ以上のことを味あわせてやりたい。
そんなことを思いながら、考えられる限りいろんな方法を探った。
まずは消費生活センターに問い合わせたように記憶している。
購入者はおそらく父で、当の本人は買っていない譲ってもらったと言っている。そこがネックだった。
何も進展はできなかった。
確かなことはガンの治療でこういったサプリメントの被害は多いとのこと。それだけが唯一わかった。
また、サメの肝油サプリの仕入れ値、単価なんて一粒だか1円以下なんてネットの記事も見かけた。販売元はさぞかし儲かっていることだろう。
次にサメの肝油サプリのパッケージに記載されている販売会社に電話をしたが、当然繋がらなかった。インターネットで調べたが該当するような会社のHPも見つけることができなかった。
どうしていいかわからず、Yahoo!知恵袋か教えて gooといった質問掲示板に、今回の状況を投稿して質問を募った。
何件か回答が寄せられたようだが、批判をされていたら私の心がもう立ち直れないと思い、怖くて回答をすべて読むことができなかった。回答の一つ目の冒頭だけうっすらと目に入った。想像通りの「私たち姉妹を心配する文章、どこかに相談した方がいい」といった内容だったが、後はもう読めなかった。どうしても読むことができなかった。
もうどこの誰に相談をしたらいいのか、相談をしてもいいものなのかどうか、何もわからなくなってきてしまっていた。
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