堀田善衛の「霧のむこうのふしぎな町」
大人のためのファンタジー、堀田善衛の「霧のむこうのふしぎな町」
私の心を掻き乱し、現実から引き離させた本、それが堀田善衛の「霧のむこうのふしぎな町」です。この作品は、まるで別世界から来たような幻想的な物語が広がっていて、日常の喧騒に疲れた心に染み渡ります。
あらすじ
物語は、小さな町に暮らす主人公の青年、剛が突然立ち上った霧の中に迷い込み、訪れた「ふしぎな町」の出来事から始まります。彼は周囲を見渡し、「ここはどこだ」と呟きますが、返事は誰からもありません。その風景はどこか懐かしさを感じさせるもので、剛はその景色に心奪われる。
ふしぎな町には、様々な奇妙な住人たちがいて、彼らは剛に対し親しげに接してきます。ひとりの女性、ナオミが彼に微笑みながら言います。「あなた、私たちと一緒に遊びませんか?」その言葉に導かれるように剛は、彼らと共に日々を過ごすことになります。
しかし、この町には暗い影も潜んでいました。彼は、ナオミたちと遊ぶうちに、彼女たちが抱える過去や、町に秘められた「無くしてしまったもの」に気づいていきます。「この町は、忘れ去られた記憶が詰まっているのよ」となりきりながら語る都会の喧騒とは異なる子供たちの笑い声を思い出し、彼はその感情に浸ります。
剛は次第にこの町に魅了され、自分が何を求めているのかを見つけ出そうとします。ある日、彼はナオミに「この町から出て行ったら、二度と戻れないの?」と尋ねます。ナオミは、少しだけ寂しそうな顔をして「戻れないかもしれないわ。しかし、あなたが求めているものが見つかるまで、ここにいるのもいいでしょう」と答えます。その瞬間、剛は心の底から感じるものがあり、自分の人生の選択について悩むようになります。
いくつかの出来事が展開する中で、美しい思い出や愛情も描かれます。一方で、剛が持ち帰るべき真実が隠されていることに気づく場面では、緊迫感が漂いました。「君が元気でいるうちは、ここにいればいいよ」と語るナオミの笑顔が裏腹に、彼の心には疑問が湧き起こります。果たして、彼はこの町に留まるべきなのか、それとも現実の世界に戻らなければならないのか。
この迷いと葛藤は非常にリアルで、まるで剛とともに私もその選択を迫られているかのようでした。彼の心の声が耳の奥に響き、「選択は自由だけれど、自由には責任が伴う」と意識させられます。
最終的に、剛が「自分の本当の気持ちを大切にしなければならない」と決意する瞬間がありました。全てを振り返り、無邪気な心がどうにもならずに存在することの美しさと切なさを抱えたまま、彼は現実へと戻ることを選びます。それでも、ナオミとの思い出は決して消えない。
心が動いた箇所
物語の終盤で、剛がナオミに告げる言葉、「君との思い出は永遠だ、でも自分を見失わないようにしなきゃ」と言った瞬間、彼の苦悩が一気に伝わってきました。この言葉は、決して他者を忘れることはないが、自分自身をしっかり持っていなければならないという教訓だと深く感じました。過去の遺物を探し出そうとする私自身にも当てはまるので、心に刺さるものでした。
この作品を読み終えた後、私は果たして自分の選択が正しかったのか悩むこともあったけれど、同時に自分の感情、他人との絆をどう大切にするか、新たな学びを得ることができました。きっとこのストーリーは、私の人生の一部として心に刻まれることでしょう。#文学 #霧のむこうのふしぎな町
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