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のらロボ

いつから ボクは ここに すわって いるんだろう。
このどてが ていいちに なってから、20ねんくらいになる。

こどもたちや おとなからは、のらロボと よばれている。
ときどき はなしかけて くれる ひとも いるけれど、
かえす ことばを おもいつかないので、
いつも 『うんうん』と うなずいていた。

あるひ、ひとりの おとこのこが はなしかけてきた。
がっこうで おともだちが できなくて さびしいんだって。
ボクは やっぱり ことばが でてこなくて、
いつもみたいに 『うんうん』と うなずいた。

そのこは まいにち、がっこうがえりに たちよってくれた。
なにか してあげられないかなぁ、そう おもっていると……
『タケトンボ ノ ツクリカタ ハ……』
とつぜん、だれかの こえがした。

おどろいた、それは ボクの こえだった。
おとこのこも めを まるくして おどろいている。

どうして きゅうに こえが でたのかな?
ふしぎに おもって いたんだけど、
「いいね、いっしょに つくろうよ!」
おとこのこは よろこんで くれたみたいだ。

いっしょに たけとんぼを つくっていると、
なにかを おもいだしそうになる。
ボクは、だれに つくりかたを おしえて もらったんだっけ?

おとこのこは とっても きようで、
りっぱな たけとんぼが かんせいした。
「とばして いいかい?」
ぼくは いつもどおり、『うんうん』と うなずいた。

たけとんぼは、そらに たかく たかく あがった。

それを みてると、ふいに おもいだしたんだ。
たけとんぼの つくりかたを おしえてくれた ひとのこと。
ぼくは おうちの おてつだいをする ロボットで、
おじいさんと くらしていた。

いつのひからか、おじいさんは ベッドから でなくなって、
「まごに おしえて やりたいから、おまえが おぼえて おいてくれよ」
たけとんぼの つくりかたを ボクに ふきこむと、
それっきり うごかなくなった。

そのあと、ボクは おまごさんを さがしてたら、
カミナリに うたれて こわれちゃった。
もう、20ねんも まえのこと。

つぎのひ おとこのこは、たけとんぼを がっこうに もっていったんだって。
そしたら、おともだちが できたらしい。
おじいさんの おまごさんじゃ ないけど…、
おしえて、あげられて、よかったな。

「ありがとう、のらロボ」
なんだっけ……
こんなとき、『うんうん』の かわりに…、
いって あげたい、ことば……。

『オ……メデ…

#育児 #童話

〜あとがき〜
長く大切にしたいものを「記憶」と捉えて、おはなしをつくりました。
こわれかけののらロボが覚えていた、おじいさんとの日々。おじいさんが孫に伝えたかった、竹とんぼの作り方。男の子がきっと忘れることがないであろう、のらロボと過ごした時間。
私たちはモノやヒトにまつわる優しい記憶を胸に生きていくことができる、そんな想いを込めています。

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