きいた話
「恐怖は無知故に起きる感情だ」
ときどき彼はそう言った。それに付け加えて必ず「だから、幽霊の正体についてよく知っている俺は、幽霊を信じていない」と言った。
私が幽霊の正体って?と聞くと、彼は胸を張ってこう答えてくれた。
「幽霊の正体?そんなのいろいろあるさ。まぁ大体が見間違いとか、聞き間違いとかだけどね」
幽霊の存在を信じて疑っていない私は少し反感を覚えた。でも、まぁ、そんな人がいることなんて百も承知だ。考え方なんて人それぞれ。
そう言えばお前は幽霊信じてるんだってな、嘲るような彼の言葉に私は肩をすくめて笑った。
彼が心霊スポットに行くといったのは、知り合って半年ほどしたときだった。
それほど有名ではないところで、地元のオカルト好きが行くか行かないかくらいの知名度しかない場所だった。有名なところだと、『ウェディングドレスの霊が出る』とか『上半身だけの男が出る』とか決まった目撃情報があると思う。しかし、そこは噂と言えば『出る』とだけ言われてるくらいの、ある意味廃れたところだった。
詳細は知らない。
彼はそこに行ってから、俺は何も知らない、が口癖になった。何を体験したのか聞いても、俺は何も知らない、しか答えない。何度聞いても毎回微笑みを浮かべて、俺は何も知らない、しか答えない。
この話は私のとっておきの一つとして、オカルトの類が好きな人に時々話す。
ある人はこの話を聞いてこんなことを言ってくれた。
「何も知らないってどういうことだろうね。知らないことが恐怖なら、○○君は全部のものに怖がるようになったのかもね。……ほんと、何を見たんだろうね」
高校の時の知り合いであるが、私はもう彼の行方を知らない。今、彼は元気だろうか。
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