【声劇】肝試しでおばけに恋をした
【登場人物】
A 吹奏楽部二年生。
B 吹奏楽部一年生。
C 半年前に落下事故で亡くなった生徒。Aの親友。
A 「あのね、ずっと前から、好き、だったんだ」…生まれて初めて、好きな人に好きだと言えた次の日、その人はこの世界からいなくなった……。
SE廊下を歩く足音
A 最初に理科室行って、3階奥のトイレまわって、最後に音楽室か。
B 無理無理無理。なんで合宿で肝試し!? 吹奏楽関係ないじゃないですかぁ。
A 大丈夫だよ。夜の校舎を歩くだけでしょ。脅かし役もいないし。
B いたら心臓が口から出ます。
A そっちの方が怖い。
B A先輩は幽霊見たことあります? 私、うっすら声だけ聞こえたことあるんですよ~。
A へぇ。なんて?
B 家に一人でいるときに、耳元で女の人の声で「すみません」って!!
A それって謝ってんの? それともエクスキューズミー?
B 論点そこじゃなくないですか!?
A じゃあまた声が聞こえたら教えてよ。
B 先輩は何か聞こえても絶対私に教えないでくださいよ!
A 不公平だなぁ。
B 私知ってるんですよ、去年ここの生徒が事故で死んじゃったんでしょう?
A あぁ、あれはね、事故じゃないよ。私が殺したの。
B またまた…。冗談ばっかり言わないでくだs…
SE不正解音
B ……先輩、私、聞こえちゃいました…。きっとこれは問題を間違えたまま死んでしまったクイズ研究会の霊の怨念が…
A ごめん、私のスマホだ。
B なんちゅう通知音ですか。
A (メッセージを読んで)あ。
B (画面を覗き見て)「音楽室で待ってる」no name…誰ですかこれ?
A C…?
B え?
A 行こう。
B えっ、理科室はいいんですか~先輩~?
SE廊下を足早に歩く。
SE音楽室の扉をあける。
B なんだぁ、誰もいないじゃないですか。ピアノの上に名札を置いて…っと。ちょっとずるだけど、大丈夫ですよね。先輩、はやく帰りましょう!
A 待って。なにか聞こえない?
B そういうのいいですって。
A いや、本当に。
B やだ、教えないでって言ったのに。
A C? Cでしょ? どこにいるの?
B Cって…。え、去年死んじゃった…?
SE窓が開く音
B 窓が勝手に…
A C!
C …A。Aじゃん、何してんの!?
A え、肝試し。合宿の。
C えーもうそんな時期なんだ。じゃあ私が死んでからもう半年以上たってんの? マジか、おばけって時間の感覚なくてさ。
A すっごい喋るじゃん。
C 死んだって性格変わんないよ。
A 本当におばけなの?
C おばけじゃなきゃこんなとこに浮かべないでしょ。
A どうして死んだの? 私のせい? 私が好きとか言ったから? 気持ち悪かった? でもそれなら拒否してくれれば私もう話しかけたりしなかったよ。ただ伝えたくて。でもそれでCが死んじゃうなんて。
C 待って待って。なに、そんな風に思ってたの?
A 違うの?
C 当たり前でしょ。告白されたくらいでなんで私が死ななきゃいけないのよ。あれは、うーん、多分事故。きっと私が足滑らせたんだよ。
A ほんと?
C 本当。ていうか私の方こそ返事も言わずに死んじゃってごめんね。それがいつまでも心残りでさ。Aがせっかく勇気出してくれたのに。
A 返事、聞いていいの?
C うん…でもやめとこうか。私おばけだし。不毛じゃん。
A じゃあ私もおばけになる。連れてって。
C 駄目に決まってんでしょ。
A 私のこと嫌いだから?
C 好きだからだよ。
SE手を掴む
B 先輩、危ないです。落ちちゃいますよ。
A Bちゃん、放して。
B 嫌です。先輩がなに話してるのか全然わかんないけど、でも、絶対だめです。行かせません。
A ごめんね。好きな人といたいの。
B 私だって好きだもん!
A え。
B 大好きで大切な先輩です! だから、C…先輩駄目ですよ! A先輩にはこれからも人生があるんです! 私と楽しい吹奏楽ライフを満喫するんです!
C いい子じゃん、後輩。
A すっごい怖がりなのにね。
C その子の手放したら怒るよ。
A そうだね。好きな人がいなくなったら悲しいもんね。
B 私があとでお経あげますから一人で成仏してくださいぃぃ!
C あはは、大丈夫、連れてかないですよ。すみません。
B え!……先輩、聞こえました…。女の人の声で、すみませんって。
A それって謝ってんの? それともエクスキューズミー?
B 私には、「ありがとう」に聞こえました。
とてもいい雰囲気のエンディングっぽいBGM
C さて、未練もなくなったし、そろそろ成仏しなきゃなぁ。
A あんなメッセージ送れるなら、もっとはやくくれればよかったのに。
C メッセージ? なにそれ。
A え。
SE手を掴む音
SE質量のある物が落ちた音
B あれ、先輩? A先輩? 先行っちゃったんですか~先輩?
SE音楽室を出ていく音
SEカーテンがばさばさとなびく
C 思い出した。私もあの時。手を掴まれたんだった。
〈完〉