【声劇】Coating
【登場人物】
A 転落事故により記憶障害となった女。
B Aのバイト先の先輩。Aに告白されたという。
A 階段から落ちて頭をしこたま打ち、昏睡状態から目覚めた私はここ1年の記憶をすっかり失くしていた。
病室のドアが開く。
B A!
A あ、の、誰… ?
B 俺だよ、俺!
A 詐欺!?
B Bだよ、忘れたのか!?
A ごめんなさい、私、記憶が曖昧で… 。
B 記憶喪失って本当だったんだ… 。
A あの、どういう関係だったか聞いてもいい?
B バイト先が一緒で、俺が先輩。一個上。この前のバレンタインにAがチョコをくれてさ。
A え、私が!? B、さんに… ?
B そうだよ、顔を真っ赤にしながら告白してくれて。
A 私がぁ??
B その姿がめちゃくちゃ可愛くてさ! 俺もずっとAのこといいなって思ってたからテンパっちゃって、「返事はあとで」なんてカッコつけちゃったんだよね。だから今日は告白の返事を伝えに来たんだ。
A えー待って待って。
B A! 俺もお前のことが好きだ! 付き合おう!
A ごめんなさい。
B なんで!?
A だってよく知らない人と付き合えないし、顔がタイプじゃない… 。
B いやいやいや俺のこと好きだって言ったよね!?
A 言った? それ本当に私だった?
B Aだよ。ほら、もらったチョコ!「好きです」ってこれAの字でしょ!
A いやバレンタイン先々週だぞ。はやく食べろよ。
B なんだかもったいなくて。あ、一緒に食べようか? あーんとかしちゃったりして。
A しません! あのね、本当に申し訳ないんですけど、告白、なかったことにしてくれない?
B え。
A 今の私は本当にBさんのことがわからないの。知らない人から迫られるのって怖いでしょ。わかる?
B ごめん、Aの気持ちも考えないで。そりゃあ混乱してるよな。
A わかってくれてありがとう。
B 俺待つよ。Aが俺のこと、思い出してくれるまで。
A え!? そうじゃなくて…
B 大丈夫大丈夫。まずは、毎日お見舞いにくるから。俺のこともっと知れば、何かの拍子に思い出すかも。
A え~、一生思い出さないかもしれないよ?
B それでも、俺は待つよ。
時が流れて十年後。
B そんなこともあったなー。
A 結局あなたの押しの強さに負けたのよね。
B 俺の魅力に惚れ直したんだろ?
A はいはいソウデスネー。
B 照れるな照れるな。
A まぁそういうまっすぐなところに救われたのかな。あなたが本当に毎日お見舞いにくるから、不安に思う時間もなかった。ありがとうね。
B こちらこそ。俺のことまた好きになってくれて、奥さんにまでなってくれて、ありがとう。もう一生離さないよ。
A 待って。まだやり残したことがあるの。
B え、なに?
A 確か、ここの階段だったよね。
B そのはずだよ。
A この高さから落ちたのか。よく助かったなぁ。
B そろそろ教えてよ。なんでまたこの場所に?
A 十年も経っちゃったけどやり直したかったの。あの時の告白。
B マジ?
A マジだよ。
B はは、あの時とおんなじ。顔真っ赤。
A うるさいな。改まって言うのはやっぱり照れるんだってば。
B そういうとこがめっちゃ可愛い。はやく言ってよ。
A えっと、あの時、私なんて言ってた?
B 教えない。Aの言葉で聞きたい。
A 違ったら恥ずかしい。
B 違っても許す。
A …… 「ずっと好きでした。付き合ってください」
B 俺も、Aのことずっと好きだった!
フラッシュバック。記憶が戻る。
A 違う… 。
B え?
A 違うよ… そんなこと言わなかった… ごめんって言われた… 。
B A?どうした?
A 私、振られて、泣いてた… 。サークルの先輩だ… 。告白したけど駄目で… 、チョコ捨てたのに… なんであなたが持ってたの… ?
B …… まったくひどいよなぁ。俺にあげるはずのチョコ、他の奴に渡しちゃうんだもん。Aのことずっと見てたのは俺の方なのにさ。だからちょっとお仕置きしたんだよ。
A じゃあ、私の背中を押したのは…
B よかった、思い出してくれたんだね。
〈完〉