【絵本】かまくらかくれんぼ
「おかあさん!いっぱいつもってる!」
元気よくカーテンを開けたぎんちゃんは、嬉しくてぴょんぴょん飛び跳ねました。
お庭も、道路の木も、おとなりの屋根もまっしろ。
昨日の夜から雪がたくさん降ったのです。
急いで朝食のサンドイッチにかぶりつき、牛乳も一気に飲み干して、
いつもなら 10 分かかるお着替えもあっという間に済ませました。
手袋をつけて、マフラーも巻いて、ぽんぽんついた帽子もかぶって、
ぎんちゃんは勢いよくお庭へ飛び出しました。
お庭には雪のお山ができていました。
お父さんがおうちの前の道路の雪かきをしたからです。
「そうだ、かまくらつくろう」
かまくらは雪のおうち。中でおもちを食べたり、ココアを飲んだりしているのを、絵本で見たことがあります。
ぎんちゃんは雪のお山に穴を堀り始めました。
砂山のトンネルをつくるのは大得意ですからね。
でも分厚い手袋ではスコップを持つのが難しい。
「てぶくろとっちゃえ」
首から垂れ下がったマフラーは何度も踏んづけちゃいます。
「マフラーじゃまっけ」
一生懸命動いたら、お顔がぽっかぽか。
「おぼうしあっつい」
お母さんが用意してくれた雪の日セットは全部ぽいぽい。
身軽になったぎんちゃんは、ますます元気に掘り進めました。
だんだんとかまくらの形ができてきました。
中はぎんちゃんがやっと一人入れるくらい。
「おかあさんもはいるし、おとうさんもはいるから、
もっとひろくなくちゃ」
かまくらの中にもぐって壁を削っていると、
「てぶくろだれの?」
かまくらの外から子供の声がしました。
おともだちがきたのかな? そう思って外を覗いてみましたが、誰もいません。
「おかしいなぁ」
また掘り進めていると、
「マフラーだれの?」
またおんなじ声がしました。
ぎんちゃんは穴から出てきて、かまくらの周りをぐるぐるっと二周してみました。
やっぱり誰もいません。なんだかかくれんぼしているみたい。
またまた掘り進めていると
「ぽんぽんぼうしだれの?」
またまた声がしました。
「だーれ?」
ぎんちゃんは聞いてみましたが、
「ぽんぽんぼうしだれの?」
不思議な声はおんなじことを聞いてきます。
「ぎんちゃんのだよ」
ぎんちゃんはかまくらの中から答えました。
「ぎんちゃん、おぼうしいらないの?」
「いらない」
「マフラーもいらないの?」
「いらない」
「てぶくろもいらないの?」
「いらないっていってるでしょ」
だって今はかまくらを作るのに邪魔なんですからね。
「じゃあちょうだい」
不思議な声にそう言われてぎんちゃんはびっくり。
「だめだよ!ぎんちゃんのだよ!」
ぎんちゃんは急いでかまくらから出ましたが、やっぱりそこには誰もいません。
見ると、雪の上に置いておいたはずの手袋もマフラーも帽子も、みんな失くなっています。
だれかに持っていかれちゃった!
ぎんちゃんは悲しくなってぽろぽろと涙をこぼしました。
そういえばさっきから手がじんじん冷たかったのを思い出しました。
なのに手袋はどこにもありません。
お日様が雲に隠れて、背中がぶるぶるっと震えました。
なのに帽子もマフラーもありません。
ぎんちゃんはぽろぽろこぼれる涙をぬぐいながら、お母さんにわけを話しました。
「明日になったら、また探してみよう」
そう言って、お母さんはぎんちゃんの頭を優しくなでてくれました。
次の日、雪はほとんど解けていましたが、ぎんちゃんのかまくらはまだ残っていました。
ぎんちゃんは、最初にかまくらの周りを、次にかまくらの中を、もう一度よく探してみました。
かまくらの中には、なぜか葉っぱやどんぐりや小石が散らばっていました。
でも、肝心の手袋やマフラーや帽子はありませんでした。
また涙がでてきそうなのをぎゅっと我慢していると、
「てぶくろどうも」
あの声が聞こえました。ぎんちゃんはびっくり!
「マフラーどうも」
でもきっとまた、かまくらを出ても誰もいないのでしょう。
不思議な声はかくれんぼがとっても上手なのですから。それなら......
「ぽんぽんぼうしどうも」
ぎんちゃんはかまくらのてっぺんに穴をあけて...... ぽこんっと頭を出しました。
「わあっ!」
すぐ近くで声がして、一匹の動物があわてて逃げていくのが見えました。
黒い手足をぴょこぴょこ動かして、茶色いしっぽをふさふささせて。
「みーつけた!」
ぎんちゃんはにっこり笑いました。
見るとかまくらの横に、手袋とマフラーとぽんぽん帽子がきちんと畳んで置いてありました。
あんまり雪が凄かったので、一晩だけあの子が借りていったのでしょう。
そして、ぎんちゃんのかまくらの中で、楽しく過ごしたに違いありません。
ぎんちゃんは手袋をつけて、マフラーも巻いて、ぽんぽん帽子もかぶって、おうちの中へ駆け込みました。
「おかあさん!たぬきがかえしにきてくれた!」
(完)