漆芸家、スペインをゆく: día 2
ハモン・イベリコ
13時間強という長いフライトを経て、ようやく経由地のミュンヘンに到着した。
ドイツは何度か来たことがあり、好きな国の一つである。ゆっくりビールとソーセージを楽しみたいところだが、今回はワインと生ハムのスペインが待っているので、足早に通過して飛行機に乗り込む。いよいよスペイン、マドリッドへ。
さて、なぜ私はスペインに向かっているのか。これを端的に説明することはなかなかに難しい。一度書いてみたが、話がまとまらず迷子になってしまった。
ひとまず、私とスペインの最初の縁は、大学の学部時代にスペイン語を第一外国語として学んでいたということである。詳細は割愛するが、この選択が私の人生を大きく左右した。語学が苦手だった自分にとって、スペイン語は思いのほか体に馴染み、その習得過程で出会った仲間とも大変に馬が合った。
スペインに初めて足を踏み入れたのは、サラマンカ大学での短期留学プログラムに参加した時だった。私はそこで20歳になった。大学街としても知られるサラマンカ旧市街地の一画にあるレストランで、大切な仲間達が誕生日を祝ってくれた。週末の夜は他国から来ている学生達と飲み明かし、それぞれ違う母国語を持つ若者達がスペイン語という共通言語を通して心を通わせることに革命的な楽しさを感じた。英語が苦手だった自分にとって、外国の人とコミュニケーションできないという劣等感が初めて解けた瞬間だった。
その後も友人と二人で放浪の旅をしたり、新婚旅行で訪れたりと縁を繋ぎ、かくして、私にとってスペインは心の故郷とも思えるほど愛着の深い国になっていったのである。
考えてみれば今から20年近くも前の話。そんなことを思い出していると、飛行機はマドリッド、バラハス空港へと降り立った。久しぶりの光景である。
父と二人、空港を出てタクシーでホテルへ向かう。街の中心であるアトーチャ駅から程近く。有名なプラド美術館も近い。マドリッドは思いの外暖かい。
ホテルにチェックイン後、ふらりと街を歩き、軽く昼食をとった。スペインに着いたら、何はともあれまずはこれ。ハモン・イベリコ。うまい。近年日本でも食べられるようになったが、スペインで食すこれは、別物である。
スペインに来た実感が湧いてきた。
明日は今回の出張での仕事初日。スペインに来たひとつめの目的は、各地での講演会である。明日は国際交流基金マドリード日本文化センター主催の企画、マドリッド自治大学(Universidad Autónoma de Madrid: UAM)の東洋美術科で日本の漆について話をする予定になっている。
国際交流は文化醸成の要。日本という国が世界でどのような魅力をもち、使命を担っているのか、世界は日本をどうみているのか。こうした場に集う人たちは皆、他国の人たちへ最大限の敬意を持ちつつも、自国の文化を大切にしている。双方の熱のふれあいによって、他に替え難い「何か」を担っているんだという力が生まれてくるような気がする。
色々と手助けをしてくれる国際交流基金の方々と食事をしながら明日以降の仕事の打ち合わせをする。いよいよ、スペインの漆旅が始まった。