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漆芸家、スペインをゆく: Otro día
昨年、私が仲間たちと立ち上げたnakanokumoというプロジェクトがある。漆をはじめとする日本の優れた素材に心惹かれた人達が、集い、学び、新たな魅力を生み出していく、これまでに培ってきた経験を生かしつつも、色々なジャンルの魅力的な人達を繋ぎながら新しいものづくりの可能性を模索したい、そんな思いで東京中野を拠点に活動をしている。
そのnakanokumoプロジェクトから最初のプロダクトとして「toh」と「sai」という2つのアクセサリーが生まれた。
tohは蒔絵の一技法である梨子地がキラキラと光り、夜明けの光を浴びた木々や波が煌めく姿をイメージしている。一日の始まりに力をもらえるような、新たな挑戦への希望の光として自分を後押ししてくれるような存在になればとの想いを込めている。
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saiは夜光貝を使った微塵貝のデザイン。貝の美しい青と漆の輝きからは、吸い込まれるような独特の立体感を感じる。名前は彩雲から。ある一定の気候条件が揃った時に見られる虹色の雲「彩雲」は吉祥の雲とも言われている。大切な日のお守りとして、特別な日に自分を輝かせるーーsaiにはそんな力があると思う。
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バルセロナで予定していた講演会などを全て終えた翌日、私は空港でnakanokumoの仲間と合流していた。
漆をはじめとした日本の優れた素材や技術は世界から高い評価をうけている。その中でもスペインは親日的で、サブカルチャーを足掛かりに日本文化が深く理解されてきているように思う。
そんなスペインで、nakanokumoのプロダクトが彼らの目にどのように映るのか、市場調査を兼ねた営業活動である。
評価は様々だった。商品の取り扱いというのはハードルが高く一筋縄ではいかない。しかし目にした人誰もが、私たちの持つ素材の美しさに高い興味を示し、評価し、中にはすぐに購入してくれる人もいた。
いくつかのジュエリー展や漆作家さんなど色々な人の感想を聞いて回っていたところ、とあるアパレル店に辿り着いた。ひときわ個性の際立つ店内にはボクシンググローブとファッションを組み合わせたハイセンスな展示が並び、強いこだわりが感じられる。昼食の休憩をとっていた店員さんが私達の来訪に気づき、近寄ってきてくれた。この店はボクシング好きのオーナーが経営する、挑戦的なブランドだと説明してくれる。
少し世間話をしてから自分たちもものづくりの仕事をしているんだというと、すぐに興味を示してくれた。ぜひ商品を見せてほしいと言われ、tohとsaiを取り出すと、彼の目の色が変わった。急に子供のようにはしゃぎ、手に取ってみても良いかと尋ね、食い入るように顔を近づけた。もしよかったら身につけてみませんか?と提案すると喜びいさんでコートを羽織った方がいいかな、写真を撮るかい?とその場で撮影会が始まった。
嬉しさと驚きが同時に押し寄せて不思議な心持ちだった。作品を生み出すときはいつも抱えている葛藤がある。作品は常に最高なものを創りたいと思って手掛けている。でも作っていけばいくほど、予算だったり時間だったり実力不足だったりで思い通りにはいかない。その中でもなんとか着地点を見つけ世に出すときは自信よりも不安の方が大きい。
tohやsaiも自分達はもちろん魅力的だと思って作ってきた。だが心のどこかで、他人には理解されない自己満足に陥ってはいないかという不安も抱えていたりする。そんな不安を吹き飛ばしてくれるように、スペインで出会った彼は心の底から私たちのプロダクトを喜び、称賛してくれた。
蒔絵、螺鈿といった技術は世界に誇る卓越したものであることは間違いない。しかし手間がかかりすぎるが故に、量産はできず今の世界の経済の流れの中で生き抜くのは極めて難しい。一点ものの作家という職業はなんとかその存在場所を確保しつつあるが、一方でそれだけでは道具や材料の循環は心許なく、一次産業の現場から担い手は消え、大河につながる源泉が枯れてゆく。
スペインでの出会いは、大きな課題の前を手探りで進んでいた私たちの見つけた一筋の光だった。
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![室瀬祐 | 工房 山のは](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170428423/profile_0be850a2a0c2fd4abd37c5edd82a5059.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)