「山のは」より - 2024/11/18 立冬
拝啓 寒く乾いた風が感じられるこの頃、いかがお過ごしでしょうか。奥久慈には美しい秋がやって来ました。
美しいです。去年もこんなに綺麗だったでしょうか。諸沢の紅葉が、とにかく美しいです。
紅葉が綺麗なことは、この国に住む全ての人が知っていることで、皆それぞれに日本各地でその色鮮やかな光景を写真に映しているのだから何もあらためて撮影することもないのですが、やっぱり撮らずにはおれません。空気の鮮度、空の青さもあいまってのことでしょう。こんな綺麗な秋は見た事がない、とその全てを収めることはできない写真という方法に頼って、少しでも鮮明に記憶に留めたくなってしまうのです。
現在、山のは改修中のため、運よく同じ集落内に借りる事ができた空き家に仮住まいしています。600mほどの登り坂を通勤する日々です。たった600mのこの通勤路が筆舌に尽くしがたい絶景なのですから、これはたまりません。どこへ行かなくとも、秋はずっとここに居たい、と本気で思います。
そんな秋のお知らせ、ひとつめは。
茨城に移住して初めての蒔絵の作品が完成しました。
そしてその作品が、アメリカ・ペンシルベニアで開催されるContemporary Fine Craftの展覧会「CraftForms 2024」に入選、展示される事が決定しました!
作品は小さな香合ですが、移住してからここまで、工房を立ち上げるだけでも何度も挫けそうになり、生活を成り立たせるために日々走り回るなかで僅かな時間を捻出し、ようやく完成した最初の作品なので、私としては大変に感慨深いものとなりました。
タイトルは「秋燈(あきとも)し」。まさに今頃の季節、色づいたドウダンツツジの葉を蒔絵で描いています。ドウダンツツジは漢字で書くと「燈台躑躅」ーー真っ赤に紅葉する姿を、明かりのついた灯台になぞらえて名付けられたとか。花も綺麗ですが、秋の紅葉がとりわけ美しく、わたしはその葉の形が好きです。
黄色い葉と赤い葉をランダムに散らした蓋表(ふたおもて)は冬の始まりを感じる少し静かな印象に。蓋を開けた中には、うぐいす色の箔を貼った夜光貝を使って、まだ青みの残る葉や枝を照らす秋の澄んだ光を表現しています。写真には収めることのできない秋の感動が、蒔絵では表現できるような気がしています。
思い入れの深い本作は、新たなフィールドに挑戦したいと思い、敢えて漆芸の応募がないような海外の公募展に出品することにしました。そこにはおそらく漆も蒔絵も知らない多くの方々がいます。彼らが、私の作品を見てどのように感じるのか、その先にどんな出会いが待っているのか、ワクワクする気持ちを抑えきれず挑戦しているところです。
まずは展示作品として選んでもらえたとのこと、とても嬉しいです。今は生活にも仕事にも余裕がないので現地に見に行くことは叶いませんが、もしご親戚やお知り合いの方でたまたま近くにお住まいの方がいらっしゃいましたら、ご覧いただけたら嬉しいです。
そしてもうひとつのお知らせ。
突然ですが、今日から、山のは開業後はじめての海外出張に行ってきます。行き先はスペインです。
…アメリカやらスペインやらで混乱をさせてしまっていることをお詫びします。
何故スペインなのか。漆と関係あるのか。美味しいパエリアに出会えるのか。気になるスペイン出張の行く末を、可能な限りこのnoteに書き留めていきたいと思います。
今は品川に向かう特急ひたちの車内。色々あって荷造りは困難を極め、パッキングは前日深夜までかかってしまいました。寝不足の身体と重たいスーツケースを引きずりながらなんとか空港に辿り着き、無事離陸できることを祈っています。
2週間ほどのスケジュールは既に予定がパンパンに詰まっているので、どのくらい時間を割けるかわかりませんが、異国の空気を楽しんでいただければ幸いです。
それでは明日からの「山のはより〜スペイン編〜」、お付き合いの程どうぞよろしくお願いいたします。
敬具