絵本 『プレゼント』 ~『fichteフィヒテ』より~ 5 中嶌まり 2020年2月14日 14:58 小学5年の尊は、同じドッジボールクラブの美保と気が合う。 『なんだ、尊もカエルが好きなの?私も!モリアオガエルとか』 『俺はヤドクガエル』 美保は力は弱いけど、ボールキャッチがうまいと密かに思ってる。 悔しいから言わないけど。 クラブが終わって帰る時間。 『またなー』と尊は美保へ手を振る。美保も笑顔で手を振り返してくれる。 そうすると尊はウキウキしてしまう。照れ臭くて言わないけど。 2月の夕暮れは息も白くなるほど寒いけど、尊の足取りは軽い。 モリアオガエルのことも調べようと思った。 その夜。 尊はカエル図鑑を読み、モリアオガエルのことも好きになった。 バレンタインが近くなると女子たちがヒソヒソ話をしだすから苦手だ。 どうせかっこいい池田や担任のボリにチョコを渡す相談なんだろうけど。 美保は何を話してるのかな。 誰にチョコをあげるのかな。 『おい!尊!ちょっと一杯やっていこうぜ!』 放課後、祐太朗が声をかけてきた。 『フィヒテへ行こっ』 フィヒテというのは、古い家についてる名前。でっかい木がたくさん生えてる場所にある。 ここは小学生に代々伝わる遊び場所だ。 お絵かき教室をしている所だから、絵を描いてる子もいるけど、ここでは他のこともしていい。宿題や昼寝も。 そして、屋台もある。 『マスター!いつもの!』 祐太朗と尊が屋台に腰掛け言うとアトリエの主がやってきて、ふたりへ炭酸水とポテチを出した。 冷たい炭酸水を飲んだ祐太朗は『っカー!これだね!これ!』と尊を小突く。主も尊も笑った。 よその大人からしたら変な子ども食堂みたいだけど、好きだらいいと思う。 『バレンタインなんかめんどくせぇよなぁ』祐太朗が尊へ言う。 『うん…』 『なぁ?』 『うん?』 『お前、誰か好きなの?』 尊は炭酸水でむせた。 主は何にも言わず、ふたりを見ている。 尊は何と答えてよいかわからずちょっと怖い表情になってしまった。 祐太朗も、それを察して無言になった。 『ほれ、どうぞ』 主がふたりへシュークリームを出した。それを見て、ふたりはホッとした。 『私も食べるよ。甘いの美味しいよね』 『うん』 シュークリームはソフトボールくらいでっかくて甘い。 『おいしい』 ふたりでカスタードクリームをほおばる。 『マスターありがとう』 『おいしかった』 『うん、とってもうまかった!』 ふたりのことばに主が顔をくしゃくしゃにして笑う。 『うれしいなぁ。ありがとう』 『プレゼントってね。もらってくれることもプレゼントなんだよ』 マスターのことばにふたりがきょとんとする。 『うんとね。ありがとうと言える相手がいることもプレゼント。ありがとうそのものも。 だからここのお代は0円なんだけど、ありがとうって言ってもらえたら、それでいいってこと』 『でも、もらってばっかりはヤダ。なんかヤダ』 尊のことばにマスターが頷く。 『じゃあさー、絵を描いてみない?絵を誰かにあげてもいいよ。そうじゃなくてもいいし』 祐太朗が『それならお父さんに絵を描いていい?』と言うとマスターは『もちろん』と答えた。 こうしてふたりは描いた。 『わー♪この絵は楽しくなるねぇ♪これはいい!』 マスターが尊へ満面の笑みを見せる。 ヤドクガエルとモリアオガエルがドッジボールをしてる絵。 2匹のカエルも笑ってる。 『お父さん、絵を喜んでくれるよ!』祐太朗も褒められて照れてた。 『ありがとう』 尊と祐太朗は絵を持ち帰った。 おしまい♪ いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #絵 #絵本 #フィヒテ #明日のためのファンタジー #Fichte #まり画廊 #唐檜 5