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大山 0617


 気づけば、仕事を辞めてから大山の山頂に登るのも、三回目となっていた。
 仕事をしているときにはあれほど来る機会がなかったのに、どういうことだろう。フルタイムで働くということは、世間では当たり前となっているが、やはり、想像以上に体にも気持ちにも負担がかかっているのかもしれない。もしくは、とりわけ私にとっては、自分が思っていた以上にそういう働き方が合っていなかったのかもしれない。
 とある占いのサイトを見ていたら、私はいわゆる九時~五時の仕事には向いていないらしい。占いにもいろいろな種類があり、すべての占いにそのように書かれているわけでもないのだが、薄々感づいていたことでもあった。しかし、ほかに生きる術がない気がしていて、九時~五時の仕事を辞められないままでいた。
 そうこうしているうちに、なんだかすんなり辞められる状況になり、自由にものを考えられる時間が得られてみると、やはりそこまでする必要があったのだろうかという気がしてくる。そもそも、勤め人の給料は、何人か扶養家族がいる人のことを考慮して決まっているのだろうから、自分のことだけを考えればいい場合は、そこまであくせく働かなくてもよかったのではないかという気がしてくる。まったく働かないわけにはいかないが、しばらくフルタイムで働いたら少し休むとか、勤務を週三くらいにしてほかに収入の手段を考えてみるなど、世間に流されず、より自分に合った働き方をもっときちんと試していけばよかった(日本ではそれはなかなか難しいけれども……)。  
 会社にとっては一人の社員にできるだけ長い時間働いてもらったほうがいいのだろうし(もちろん例外もあるにせよ)、働くほうにしても、正社員になって一つの会社に何年も勤めるほうが、年功序列で給料は上がるし、仕事に慣れて苦も無く業務をこなせるようになったり、社内に顔見知りが増えて仕事をしやすくなったり(単にさぼりやすくなるだけの人もいるにせよ)、一つの会社に長く勤めることによるメリットは大きいが、大多数の人に向いているからといって、自分にも向いているとは限らなかった。何年か経ってお金がなくなって後悔する日が来るのかもしれないが、あのままでいて、自覚のないまま目に見えぬ疲労が蓄積され、ある日突然体が動かなくなり、お金はあるものの体が動かない状況になる、という未来もあったのかもしれない。そう思うと、けっきょくどんな方向に進んでも、自分で「これを選んでよかった」と言えるように工夫しながら生きていくしかないのだった。

 今回は、久々に知り合いの方と一緒に登った。
 二回登って、もういいかと思っていたところを、声をかけていただいたので三回目が実現した、ともいえる。
 一人で歩いていたときと違って、いつも見過ごしてしまったような花が目に入ったり、立ち止まらないようなところで立ち止まったり、気にならないようなことを一緒に気にしたりと、何度か歩いた場所でもまた新たな視点で見ることができ、いつもとはまた違う楽しみかたができた。
 また、四月、五月、六月と、三か月間毎月来たことになり、植物の開花状況や葉の開き具合などが毎月違っていて、同じ場所でも季節が違うとこうも状況が違うということが、実感できた。四月は満開だったマメザクラも、今では若葉が生い茂っていて、どれが桜だったのかよく見ないことにはわからない。以前はなんだか明るい中を歩いた記憶があった場所も、葉が生い茂ってすっかり涼し気になっている。毎日来て、毎日季節の変化を追ってみたい気もするけれども、残念なことにそれ以外に興味があることが多すぎてなかなかそういうことをしようという気にもならない。月に一度では変化を追うのは大まか過ぎるとわかっていながらも、こうなったらもう今年は、毎月大山に登ってやろうかという気もしてくる。
 大きな木と写真を撮ったり、前回入ろうとしつつも高くて(値段が)あきらめた神社のカフェに入ったりした。
 カフェで頼んだマスティラミスはこってりしていてとてもおいしく、コーヒーとよく合った。こんなに景色のよいカフェが身近にあったことなんて、全然知らなかった。休日に来たら、混んでいて並ぼうという気にもならなかったのかもしれないが……。
 今日もヒルはいなくて平和だったなと思ったら、カフェを出たとたんに靴の先端に血を吸ってまるまるとしたヒルがいてひやっと思ったが、特に血を吸われた形跡はなかったので、誰かが落としたヒルが偶然くっついたものだと思われた。
 前回は男坂を下ってかなりの筋肉痛になったこともあり、今回はケーブルカーで帰った。平日なので、がらがらである。できればこれからも、平日のがらがらした中で遊んで、休日は家で仕事をするかゆっくりしているような、そんな生活を続けたいものである。
 帰り道、バス停から少し歩いて良辨でまんじゅうを買った。

(もうあれから一月……冒頭の写真の花は、バイカウツギといいます)。

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