#18 薔薇抄
筆者が毎日のように通勤で使う相模大野駅東口の出口近くに、空き家のような民家があり、その庭先に立派な黄色の薔薇が咲いていた。春と秋の秘かな楽しみだったのだが、最近よくよく見ると細い切株になっていて、伐採されてしまっていたのに気が付いた。たしかに空き家でもあり、管理しきれないという事情があったのだろうが、なかなかに見事な薔薇だっただけに、残念でならない。
薔薇は、西洋では花の女王と呼ばれるように、数百種の園芸種が知られている。近代以前の中国においても園芸種が開発されており、西洋にも輸出されている。実は近世の我が国でも支那由来の木香薔薇(モッコウバラ)や庚申薔薇(コウシンバラ)が庭木の一種として輸入・栽培された。
ところが、我が国には古来より野生種のバラが自生していたにも関わらず、あくまで野バラとして楽しまれていただけで園芸種としては扱われなかったのである。棘が多いため、庭木としては避けられたのだろうか。近代以降、欧米のプラントハンターにより盛んに持ち出され、様々な品種を生み出している。
主な品種にノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスなどがあるが、古代は「うまら・うばら」、以降は「いばら」と呼ばれた。茨(いばら)というと棘のある植物のイメージばかりが先行するが、薔薇は中国で使われていた用語を輸入した近代以降の当て字に過ぎない。日本語においては、濁音の接頭語としての「い」は省略される傾向にあり、抱く(いだく)、出る(いでる)、伊達(いだて)と同じである。
野生種であるため、おおむね小ぶりの花弁であるが、ハマナスは少し大きめの花であり、その実が食用となるためハマナシ(浜梨)と呼ばれた。冷涼な気候を好むため、東北から北海道の海岸沿いに咲く。筆者の育った青森市や出身の上北郡野辺地町の市花、町花ともなっている。
子供の頃、青森市ではスポーツ競技としての綱引きが盛んで、各地域に綱引きチームがあった。横内フレンドと青森はまなすが二強だったのだが、今は昔か。
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