#85 同じ穴のムジナ
慣用句「同じ穴のムジナ」とは、外見は別種に見えても実は同類の意であるが、悪い意味合いで使われることが多い。貉(ムジナ)は、狸(タヌキ)と混同されることもあるが、元々は別種のニホンアナグマ(日本穴熊、標準和名はアナグマ)のことである。かつて青森市教育委員会で働いていた際、山に近い場所にあった出土品整理室の庭先で見かけたことがある。生きたニホンアナグマを見たのはそれが最初で最後だが、自然系の博物館などで剥製を見ることはたまにある。我が国の固有種であり、里山で見かける身近な動物であった。
生息域は本州・四国・九州で、北海道や沖縄には分布していない。タヌキはホンドタヌキだけでなく、北海道にエゾタヌキがいるが、ニホンアナグマは北海道には進出しなかったようだ。ユーラシアアナグマの亜種とされてきたが、独立種という見解も示されている。体長は40~60㎝で、タヌキより若干小柄である。
そもそもニホンアナグマはイタチ科で、タヌキはイヌ科であり、別種の動物である。ただし、食性は似ており、ニホンアナグマが掘った地下の巣穴をタヌキが利用することもあるため、「同じ穴のムジナ」の慣用句が生まれたとされる。言葉通りに聞けば、タヌキの穴をムジナが利用しているようだが、実際は逆である。アナグマというだけあって穴掘りが得意で、地下に張り巡らされた巣穴は縦横無尽でセットと呼ばれる。入口は狭く、器用に身体をひねって回転しながら巣穴に入り込む動画を見たことがあるが、巣穴の中はある程度快適な空間が確保されているらしい。我が国では狩猟鳥獣に指定されており、狩猟対象であるが、近年生息数が減少傾向にあるため、保護すべきとの声もある。
民話の世界では、ムジナはタヌキ・キツネとともに人を化かす動物として登場し、『日本書紀』推古天皇35年(627)条には、人に化けて歌うとの記述がある。当時から賢い動物と考えられていたのであろう。概してイタチ科の動物は、イタチ、テン、カワウソなど賢い動物が多い。