#17 三椏の花
あまり有名ではないが、この季節の花に三椏(ミツマタ)がある。庭木として知られる落葉広葉樹の低木で、樹高は人の背丈を大きく超えることは少ない。枝先が必ず三つ又に分かれるため、三椏と呼ばれる。ジンチョウゲ科ミツマタ属。原産地はヒマラヤ地方や中国南西部とされる。春先の3月~4月にかけて花弁が球状にまとまった黄色い花を咲かせることから、仲春(啓蟄3月6日頃~清明4月4日頃)の季語にもなっている。
黄色の頭花が三つ又の枝先それぞれに付き、下向きに咲く。桜や梅と同じく、葉より先に花だけが咲く。甘い芳香を放つためか中国では結香と呼ばれる。ちょうどよい高さの株立ち状の庭木として重宝された。園芸種として品種改良されており、花弁が小さめで赤色になる赤花三椏(アカバナミツマタ)もよく見かける。
三椏にはもう一つ、和紙の原料としての側面があり、繊維質の強い樹皮が使われる。楮(コウゾ)や雁皮(ガンピ)とともに主要な材料として知られる。和紙としての利用は、戦国末~江戸初期からとされているが、三椏そのものは『万葉集』にも登場するため、和紙利用の初源には諸説あるという。現在では日本紙幣の主要な素材でもある。輸入物の多い楮などと違い、ほぼ国産でまかなわれているが、近年は原産地に近いネパール産の三椏を輸入する動きもあるらしい。
梅が花魁(さきがけの花)と呼ばれたように、三椏も先草・幸草(さきくさ)と呼ばれ、縁起の良い花とされた。枝先が三つに分かれることから三枝(さきくさ)とも呼ばれ、姓名としての三枝(さえぐさ)の語源にもなっている。