
【寝前小説】たばこ
火を点ける。
いつも決まったことをしている
そんな気がする。
毎日同じ電車に乗り同じように仕事をこなし帰って寝る。
誰に決められたのか 私は逆らえない。
思えば昔からそうだった。学生時代は日々を楽しんでいたし自分で選んだ道へも滞りなく進んだ。
ただそれだけだった。特に大きな転換点も人生を変える決断も感じることはなかった。
たばこに火を付けると最後まで吸わないといけない。タバコ休憩は2時間に一度、毎回とっている。
吸いたくて取ったタバコ休憩もこうなっては仕事の一部のようなものだ。 この日々になんの違いももたらさない。
一口吸う。
ふと初めてたばこを買った日を思い出す。
誰に勧められたでもなく、誰に憧れたでもなく、ただ一瞬吸いたいと思った。
「184番ください」と言った。
なんの数字でもなかった。金色で目を引いたのかもしれない。そのくらいの理由だ。
一口吸った。 むせた。 買ったことを後悔するくらいに不味かった。
でもそれで良かった。
決まったことをしてきて失敗しなかった私は自分の意思で選んだたばこで失敗したのだ。
苦くて不味くて惨めにむせた。
むせるほど心地よかった。
論理的に進まない生き方も悪くないのかもしれない と思う。
たばこを吸うと落ち着いて物事を考えられ、自分に向き合える。
それでいて頭がボーッとし、どこか論理から外れたようなところに行き着く。
そうさせてくれるタバコが好きなのだと私は思う。
一口吸う。
いや、吸わない。
まだ吸えるタバコはこのまま捨てて行こうと思う。
もったいなくてバカらしくて論理的じゃなくて。
それで居て心地良い。