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【寝前小説】死神
殺風景な天井が見える。目が覚めた。今が朝なのか夜なのかはよく分からない。
1年前、家族旅行中に事故が起き、僕の体は動かなくなった。植物状態というやつだと思う。自分のことを若いのにかわいそうだとかは思わない。僕は別にやりたいことがあった訳ではないからだ。
夢を追う青年が事故で動けなくなり、夢を叶えられなくなるのと比べれば自分はまだ幸せだったのかな なんてたまに思う。
それと同時に退院したら夢を追う人生を送りたいとも思う。
この体になって気付いた。体が動く僕の人生でできる一番の贅沢は夢を追うことだ。
父さんは毎日お見舞いに来てくれる。僕のせいで生活が厳しいはずなのに父さんは僕に「大丈夫だからな。」「がんばれ。」と優しい言葉をかけてくれる。
父さんは僕に生きていて欲しいのだと思う。 父さんは僕が夢を追いたいと言ったら心から応援してくれると思う。
だから僕は生きられる。
さて、
昨日父さんが自殺した。
僕のために相当無理をしていたのだろう。
生活は限界だったが事故の責任を感じて逃げることもできなかったのだろう。
悲しくはあるがそれは健やかな考えだと思う。 不思議ではない。
だが、僕の存在が父さんにとって負担だったと思うと僕の希望にかげりがかかる。
希望は持っている。
夢を追いたい気持ちは消えていない。
死にたいと思うことは父さんの頑張りを否定することだと思う。
でも、僕の意志はどうなんだろう。
僕が死にたいと思うことも充分に健やかだ。
こんな生活を送っているとふと突拍子もない考えを思いつく。
もし僕の目の前に死神が現れた時、人はその存在を否定できるだろうか。