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【寝前小説】怪物
見られている。
なにもしていないと興味を引くことはない。
だが何かをすると存在を諫めるように目が向けられる。
監視されているのに近いのかもしれない。
僕は僕であるために普通の枠をまもらないといけない。
毎日学校が終わると全力でペダルを踏み込み、ギターをかっさらって駅へ行く。
別に人並みの青春に憧れがない訳じゃない。
それは自分でも分かっている。
歌を歌う。
作曲家になりたい。
高校生になって受験に失敗し、行きたかった訳でもない私立高校に入学した。
そこまでの人生に大した失敗が無かった僕は高校受験で初めて挫折し、自分を見つめ直した。
音楽が好きだから、そんな理由で作曲家を目指した。
性に合っていた。理由こそ浅かったが作曲にハマっていった。作曲をしていると心が洗われていく。
学校は嫌いだった。
学校では自分という存在を隠すしかなかった。
人付き合いが苦手で話ができなかった。そんな自分が好きなことの話をしていいと思えなかった。
それでよかった。
別に自分には作曲があったし正直他のことはどうでもよかった。
どうでもよいはずだった。
「これ、お前だろ?w」
教室に入って初めに言われた。
明るすぎるスマホの画面には駅で歌う僕がいた。
声を聞かせていなかったしバレないように変装していたからまさかバレるとは思っていなかった。
いや、もしかするとバレることを期待していたのかもしれない。
心のどこかでバレることでクラスの話題になり、馴染めるんじゃないかなんて思っていた気がする。
「お前これ、何してんだよw」
やめた。
有象無象が関わったところで僕の曲は変わらない。
仲良くなれるかもなんて期待したのが間違いだ。
自分のやりたいことに専念しよう。
僕は作曲を生きよう。
なぜクラスの連中と馴れ合おうとしたのか
そのために整えた体裁がいくつあるだろうか
作曲を生きる僕に僕という存在の意思は必要だろうか
見られている
監視されているのに近いのかもしれない
気にする必要はない、僕は作曲を生きるのだ
僕は他を寄せ付けない
そこに僕という存在はいらない
僕は僕という器に餌を与えるだけだ
僕も僕以外も全て消す
世界が楽しみだ