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【寝前小説】虚の器
公園のベンチに腰掛けた
友人のAちゃんは韓流アイドルが好きだ
韓流アイドルの話題を出すと喜んでくれる
Bちゃんはヌタバの新作の話題で喜ぶ
スイーツの話題が好きなのだ
私はふたりが喜ぶ話題を知っている
だからふたりが喜ぶ話題を提供する
そこに私は居ない
私が私である時は随分と騒々しい
人の話し声
車の通る音
風の吹く音
太陽の照る音
聞こえるなんて緩やかなものじゃない
すべての音が意志を持って頭に流れる
音が私を蝕む
音が私を飲み込む
息が聞こえない
私の息が私まで届かない
私はこの世界に生きて存在していない
「はぁっはっはぁはっはぁ。」
不格好な息遣いで生を受ける
俯瞰の目で私を見ていると楽だ
それだけで生きていられる
あぁそうだ 俯瞰の目だ
それだけでいいのだ
それは虚の私だ
私が公園のベンチに腰掛けたようだ
風が吹く