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せせらぎのような音。

川のせせらぎの音は
とても癒されますよね。

だけど、川がないところで
せせらぎのような音がすると
『地獄』に変わるのはご存知でしょうか?


ヤツの七回忌も終わったことだし、
ちょっと思い出書いてみよう。
あれはもう数年前。
それはヤツと付き合っていたころ。

『釣りしたいから島行くぞ!!』
の鶴の一声で島に行った時の話である。

あいにくの雨だったが
昼ご飯を食べ、雨の中散策したり、
釣りを見たり、のらねこと戯れたりと
珍しく穏やかな日だった。

夜も宿でご飯を食べ、
大人しく部屋で過ごすかと思いきや
どこから仕入れた情報なのか、
『飲み屋いくぞ!!』
と近くのスナックへ連れ出された。

あー、終わった。
まったりした島ライフ終わった。
と覚悟を決め、徒歩で向かう。

『暗いから気をつけて』
『段差あるよ、転ぶなよ』

よく喋るし、よく歩くし、
めちゃくちゃ気遣ってくれて紳士的。
しかし、こいつは酒クズだ。
優しいし、割とわたしを気遣ってくれる。
本当に酒さえ無ければ
面白くて、いいヤツである。

よく喋るということは上機嫌。
上機嫌の時こそ飲む。
めちゃくちゃ不機嫌でも飲む。
後のことを思うと非常に面倒くさい。

スナックへ着いて
『素麺が食べたい!!』
と座るやいなや言い出し、
マスターを困らすヤツ。

でもすごいね、出てきたよ素麺。
3束茹でてもらって5口で食べちゃった!

えぇー…さっき飯食ったやん…
マジダイソンやん…
変わらない吸引力やん…

と何とも言えない顔になる私。
マスターもあ然。
茹で時間より早かったもん。

『お前、歌え!』

いつもそうだ。
カラオケのある飲み屋に行くと
必ず歌わされる。
ニコニコしながらエヴァの曲を入れられ、
パチンコの方の歌かよ…と思いつつも歌う。
歌うことに抵抗はないし、
歌ってる間は静かに飲んでくれるので
とりあえず歌う。

ただ、この日は上機嫌。
静かに飲んでるのはいいが、
いつもより飲むペースが速い
どうすっかなぁ…
こんなペース速いのはなぁ…

『お兄さん、飲み過ぎだよー』
とマスターに言われてもまだ頼む。

仕方ないので、私も水を頼んで、
トイレ行ってる隙に
焼酎と水をすり替えたりしたが
時すでに遅し。
ベロベロ。いや、ベロンベロンだ。
何を言っても『ふぅ…』しか言わない。
いや、溜め息出るのは私なんだけど!

『閉店だって!!』
と大声で嘘をついて、
帰らそうとするも
来た距離まともに歩けるとは思えず、
どうしましょ…と話したら
マスターが車を出してくれて、
宿まで送ってくれた。

迷惑、実に迷惑…
マスター、あの時は
本当にありがとうございました。

車から出して、部屋まで行くのも一苦労。

プロレスラー体型で
身体がデカい成人男性を
大して大きくもない女が
抱えて部屋まで歩く。
フロントの人等にはどう見えただろうか…

泥酔介抱選手権ヘビー級があれば
私は一位二位を争える選手になっただろう。

部屋はもう布団が敷いてあり、
とりあえず布団へぶん投げる。
優しく寝かす筋肉はないので、
ザッサァーとぶん投げるのが限界だ。

ザッサァーとぶん投げられたままの
体制で寝た。
気絶だったかもしれん。
分からんけど生きてればいいので、
そのまま呼吸音確認しつつ、
風呂入って私もすぐ寝た。
歩いたし介抱で疲れてすぐ寝れた。


『チョロチョロチョロチョロ…』


ああ、なんていい水流音…
夢でもこんなにクリアに音が聞こえる…
夢心地。

待て、違う、これは夢じゃない!!
海はあるが、川なんてない!!

飛び起きた。

隣で寝ぼけて用を足してやがる。
こういう時に
落ち着いた行動を取れる人はすごいな。
私は無理だった。

びっくりして、
どうしたらいいか分からず、
何故かその排泄口を指2本で塞いだ。
加トちゃんぺ!を股間にしたと
想像して頂くといいだろう。

ホースに加トちゃんぺ!をしても
止まるわけがない。

当然止まるハズもなく、
ただ汚れただけ。

『私、何してんだ(笑)』
感覚がバグって爆笑する自分。

ただ、その後部屋の清掃が頭に過る。

ここ、畳やん…
布団やらかしてるやん…
そんでコイツそのまま寝てるやん…
なんでやねん…

心からのなんでやねん。
漫才師さんでも心からのなんでやねんは
言わないんじゃないだろうか。

とにかく、ありとあらゆる紙を使って
拭き取るも畳の吸収力は半端ない。
もはや、為すすべのない私。
なんて無力なのだろう。
嘆いても仕方ないと諦めて寝る。
よく寝れるなと思うだろうが、
そうするしかない。

翌日のチェックアウトの時。
お支払する時に
昨晩の粗相の事を話し、
クリーニング代を申し出て、
別でまたお金を払った。
くそ、余計な出費だ!!
この金を払ったのはわたしである。

当の本人はというと、
全く覚えていない。

そして…

『支払いに時間かかってたね』と。


全てどうでも良くなった。
良い意味で。
0に0をかけた所で0である。

それからと言うもの、
睡眠時にトイレに行くことを察知すると、
『トイレはそこじゃないよ!』
と声かけをするようになった。

というか、ちょっとした物音でも
起きるようになった。
もはやトラウマだ。

二度と同じ轍は踏まない。
いや、踏めない。
出費的にも、私のキャパ的にもだ。


せせらぎ音は
時として癒しから
地獄へと化す事を知った日のことである。

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