暗い記憶
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小学生時代、脳炎にかかった時、私は学校の中で最も弱い人間だった。それを見た人々は色んな反応を見せた。殆どの人は私を穢れたもののように扱い、離れていく。いじめる人もいた。逆に弱さにつけ込んで異様に近づいてくる人もいた。自分がとても惨めだったし、悔しかった。元々から負けず嫌いだった私は、強くならないと、と思った。強くなるってなんだろう?
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再発を繰り返す中で、唯一できたことがピアノだった。それほど凄くもないけど、地元の小さなコンクールで賞を取った。表彰式の時、不随運動が発症したので賞状は直接受け取れなかったけど、ピアノだけは自分を認めてくれた気がして少し嬉しかった。病気の時に出せてた音は、今はもう出せない。
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ピアノの受賞を皮切りに、私に接触してくる人が少し増えた。接触してきた多くの人がピアノをしていた人だった。見えやすい強みをもっていると、人が寄ってくることを学んだ。別に人がよってくること自体は全然嬉しくなかったけれど、再び、私が人間として社会で生きていくために、人が寄ってくるのは必要な事だった。
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中学校に入って病気も治り、成績が順位としてはっきり出されるようになった。初めて受けたテストは思いの外よかった。そこから中学を卒業するまではそんな感じの成績だった。病気の時はバカにしてきた人達が私に対して敬意を評してきた。母親のコミュニティでも、これまで相手にしてくれなかった親たちが、私にどんな教育をしてきたのかと寄ってこぞって近づいて来たという。小学校の時はみんながいじめるから保健室でお勉強サボってハムスターの絵を描いてたけど?人間なんか大嫌いだ。こちらのステータスで人の態度なぞすぐ変わる。私は何も変わっていない、ただ病気が治って順位という見えやすい結果がついてきただけ。でも、正直まともに人付き合いができた経験は5年ぶりだったので嬉しかった。やっとだ、となった。障害を抱えている人や病気に苦しんでいる人達は、健常人と同じ生活をすることをそれは強く強く切望している。健常者であるみんなが思う以上に。人として生きていくためにはやっぱり、ぱっと目に入りやすい強さやステータスが必要なんだ。
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今思うと、そんなに勉強は得意なほうじゃなかったと思う。中学校で勉強を頑張れた理由は久しぶりに人として社会の中でちょっと優れた健常者として存在することが嬉しかったから、そして当時好きだった人がいわゆる上げマンで、それが頑張れた要因だったと思う。
そこからは伸び悩んだ。伸び悩みながら無理やり見かけの強さを構築していった。あまり勉強が得意ではなかった私は、親に頼んで多めにお金を出してもらうことで、大して行きたくもなかった、世の中では評判の良い大学に無理やり入った。入ってからはなんにもなかった。興味のない中、この学科だったら世の中的にも大丈夫だろうと無理やり始めた勉強はイマイチはまらなかった。唯一自分の味方だった音楽は、大学のサークルにはいる形で続けていた(得意だったピアノは非常にハードだった高校の部活とどちらを続けるか迷った際、部活に入っているほうが見かけが良いだろうと思って部活の方を選んだ)。が、大学や社会でのコミュニティでは、音楽の技術よりも圧倒的に協調性(笑)が必要とされるらしい。脳炎で人が嫌いになった私は協調する気もなかったが、これもまた、強くなるためだ…好きだったはずの音楽は人間関係に手一杯で満足にやれなかった。1人で音楽がしたい。でも、併せて左手の中指を失ってしまったので、1人で音楽をする力はなくなってしまった。これでもう、なんにもなくなっちゃった。
そして今、次の進路を確定させるため就職活動をしなければならなくなった。病気の時からステータスにこだわりがあった私は、中学の頃から大企業に入る目標でいた。だって世の中が、大企業に入らないとって言うもんだから。脳死で就活を続けている中、何か大事なものが遠くに行く気がした。それでも止められないだってステータスが欲しかったから。でもある日、本当にそれがやりたいの?と、とある人に言われた時は、真っ暗になって死にたくなった。やりたいことってなんやねん今更。見かけの強さを、ステータスを構築する、それ以外に人生の中でやりたいことがなかった。厳密に言えばやりたいことはあったけど、それらは世の中にそぐわないとして無理やり頭の中で処分していた。
♢病気の時から上げマン(?)として私を支えてくれた人がいた。彼は私が病気の時から完治した中学時代まで変わらずまっすぐ私を見てくれていた唯一の人だったと思う。特に中学当時はその人のおかげでなんでも頑張れたと思うし、なんにでもなることができた。
私が見かけの強さを身につけていく程、彼は私から離れた気がする。あんなに近くで応援してくれたのに、今はとっても遠い。もう5年近く会えていないしまともに連絡も取れない。私は基本的に人間に関して諦めているので、滅多に個人を嫌いになることもないが、それ以上に好きな人もできない。もうあんなに人のこと好きになるのはあれで最後だと思う。
♢私がこんな暗い話をすると、大抵の人がスルーをするか相手をしてくれなくなる。私はみんなの暗い話を一生懸命聞くことよくあるのに、なんで私の辛い話はみんな聞いてくれないんだろう。明るくて面白い方が私には似合うんだって。こんな作り物の何がいいんだろうか。
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