映画鑑賞の記録 「ラヴェンダーの咲く庭で」
「ラヴェンダーの咲く庭で」(2004年 原題:Ladies In Lavender) 監督/脚本 チャールズ ダンス
イギリスの田舎を舞台に二人の老姉妹に起こったひと夏の出来事を描いた映画。
海辺に暮らす老姉妹は難破した船から投げ出されたらしい外国人の青年を助ける。言葉は通じなかったが、彼を介抱し共に暮らすことは老姉妹には楽しいことだった。しかし、老姉妹のうちの妹にとっては青年の存在は友人や家族ではなかった。憧れをもってみつめる恋の対象だった。その恋はあまりにも不釣り合いなものであると本人も思うものだから、それは秘められた。それ故に何も起こりはしなかった。やがて青年はすばらしい才能をもつバイオリニスであるあることがわかり, 彼はその才能を見出され、成功を求めて老姉妹のもとを去っていく。
それだけと言えばそれだけのお話。
俳優の台詞は少ないが、その動きが表情が語るものの豊かさ。言葉以上に心を語る存在として効果的に使われた音楽。語られないからこそ、説明されないからこそ、観る方が感じる情報の多さは心が追いつかないほどだ。
映画の中でたったひとつ説明される姉妹の事情がある。それは老姉妹の妹、アーシュラが恋を知らないまま年老いたらしいこと。彼女の憧れと後悔が「人生は不公平だ」という言葉で、たった一度だけ吐露される。それは上品に老いた淑女に似合わぬ激しさと生々しさだった。
私はラストシーンが一番好きだ。老姉妹は青年の演奏会を聴きにロンドンに行き、彼に再会する。そのときのアーシュラの顔。泣くのではない。優しい笑顔を示すのでもない。再会に喜ぶのでもない。愛を告げるのではもちろんない。あの顔は彼女の心の真実だと思った。
夢と憧れと恋は激流なんだろう。誰も止められないし、落ちたら流されるままだ。しかし、愛は意思なのかもしれない。私はこうするのだ、と自分で決めて実行するものだ。アーシュラは恋をして、その激流を切実な思いでくぐり抜けて、愛の意思を持ったのだと思う。
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元フィギュアスケーターの町田樹さんが現役最後の年にこの映画の挿入曲「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」(作曲:ナイジェル・ヘス)で演じていたのですが、その演技のテーマを、彼は「悲恋の極北」と表現していました。
町田さんはプログラムは映画とは独立したものと前置きしたうえで、その表現意図について、それは「叶わぬも想わずにはいられない人への愛を断ち切って、それでもなお前を向こうとする、悲しくも崇高な意志」であり、断ち切ろうとする意志さえも「歴とした愛の形である」と解説しています。そしてこのフィギュア作品が「痛みを伴う愛」を抱えた人のささやかな拠り所になれたら、とも自書で語っています。
町田さんのプログラムは映画のストーリーをなぞったものではないにしろ、映画のテーマとは重なっているなぁと思いました。
競技用プログラムですが、勝敗を抜きにしてみても見ごたえのある良質なフィギュアスケート作品です。
【フィギュアスケート】町田樹 2014 全日本選手権 SP「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア」【町田樹】
https://www.youtube.com/watch?v=5K_2gy1FuF8
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