mouthwashing感想
話題になっていた地獄が見られるゲームと聞いてやってきました。無事地獄が見られたので感想を書きます。
全編ネタバレなのでよろしくお願いします。
間断なく襲いくる恐怖と絶望 そして最悪
本作の恐怖演出はサイレントヒルにかなり近いなと感じた。
精神的恐怖、絶望、そして最悪が手を変え品を変え、プレイヤーに次々襲いかかってくる。
シークエンス間はかなり短く、恐怖に慣れる前に、あるいは束の間の平穏に心が弛緩する前にどんどん場面が転換していく。
このテンポの良さで恐怖がプレイ中ずっと持続するのは非常に良かった。
惜しみないアイデアが詰め込まれていて退屈させない。いやもう誰がここまで最悪を詰め込めって言ったんだ、助けてくれ。
ドキドキ文芸部をプレイした時もそうだったが、鬱屈とした話が続くタイプと思いきや、アグレッシブに恐怖が投げつけてくる純正ホラーであるのでそこは注意が必要だ。
もっとテキストベースで進むかと思ったらすごいプレイヤーに色々やらせてくる。これが最悪ポイントであり、本作の出色のポイントでもある。
ジミーの最悪な人間性の追体験
冒頭でいきなり事故を故意に引き起こすところから始まり、プレイヤーに否応なしに罪悪感を植え付け、最悪な気持ちからゲームはスタートする。
隕石に進路を取るのも、鍵を取り出してロックを解除するのも、オートパイロットを無効にするのも全てプレイヤーの手で行わさせる。
これによってある意味共犯関係となったプレイヤーはそこに巻き込まれていく無辜な船員に同情を寄せてしまう。可哀想な船員を何とかしなくては。俺がなんとか。
そしてこの後も次々に嫌な事をプレイヤーにやらせてくる。
肉を切らせ、銃を撃たせ、無理やり食わせる。なんで俺がこんな事しなきゃならないんだよー!!!!!お前が勝手にやれー!!!!!とプレイ中ブチ切れていた。
しかしこの心情は多分ジミーが感じていた気持ちとおそらく同じである。こんな事したくないのになんで俺にこんな事をやらせるんだ!!!俺はしなくちゃならない事をしてるだけでこんな事やりたくないのに!!!
この加害者の被害者感情をここまで追体験させてくる作品もなかなか無いと思う。わかるわからないを飛び越えてそういう気持ちにさせてくる。あまりに強い。
いや私は本当に悪くないんだけどね?
追体験という話に付随するが、唯一「何故事故を起こしたのか」だけはわからずに終わる。
しかしこれもまた追体験なのかもしれない。ジミーに「何故」と問いただしても「わからない」と言うのでないだろうか。過ちとは往々にしてそうだから。
「責任を果たせ」とは何なのか
繰り返し脅迫的な演出として出てくる「責任を果たせ」という言葉。
だが「責任を果たせ」という言葉だけは出てくるが、具体的に何かを行なってシークエンスが終了する事はない。感じている「責任」の正体は明らかにならない。
これこそがジミーの人間性の致命的な所だ。「責任」があることはわかっていてそれに対して追い詰められる気持ちはあるが、具体的な内容はハッキリしない。
そして追い詰められている気持ちと裏腹に現実世界で表出するジミーの発言・行動は最悪の一言だ。
徹底的に他人に責任を押し付け、自分は悪くない、被害者である、お前が悪いと罪悪感を植え付け、具体的なリスクからは逃げてお前がやれと強制する。そしてそのすべてのアイデアが良くない結果をもたらす。
全てから逃げてお終いも見極められず、自己決定の死ですらなく、もう逃避先を失っただけの結末。
ジミーは徹頭徹尾最悪だが、その最悪の源泉が「弱さ」であることは疑いようがなく、この一点だけでやり切れなさが生まれている。
弱さが周りを破壊しうる攻撃性を秘めている事を突きつけてくる物語は、自分の弱さに自覚的な人間ほど抉られると思う。
自分の弱さを庇い立てするとき、他人を傷つけてはいないだろうか?
俺、やったんだ…
プレイヤーからすればあらゆるものから逃避しきった末の結末にしか見えず、ジミーは何も成し遂げていないように思えるのですが、ジミー視点では何かをやり遂げたと確信して最後拳銃自殺します。
ジミーが何を成し遂げたと思ったのかはいろんな感想があると思いますが、個人的には「カーリーに苦しんで生きて欲しいという執着を手放すこと」だったのかなと思いました。
これは直前のポレとの会話で「(申し訳ないと思っているなら)なんでまだそんなにカーリーを意識しているの?」という話でシーンが切り替わることからの考察です。
カーリーへの執着が間違いの始まりだったとジミーが認めて、それを手放すのは、多分ジミー的には非常に難しいことをやってのけたんじゃないかと思うんですよね。
1時間前には一緒に生き延びようと言ってギリギリまで生きて苦しむことを望んでいたけれども、考え直して冷凍ポッドに入れた。苦しめるものは誰もいない。
でも結局それはカーリーが最大限苦しむ選択肢なのは、ジミーが意識も意図もしていない、というのがこのゲーム、ジミーという人物のダメさのすべてが凝縮されたシーンに思いました。
本当に救われねえな…このゲーム……。
まあとはいえ……
いやもう弱さが表出して最悪な行動・言動をしてしまう事に多少の同情や共感が芽生えるとはいえ、限度があるだろうが!?というのが正直な感想で…。
アーニャの妊娠の話をされた時に「お前(カーリー)の監督が不行き届きだったのがいけないんだろ」とばかりに完全に他人事だったり、消毒液の話で「お前のせいで」とスウォンジーに急に責任を押し付けたり、妄想のカーリーに「俺が悪者になるよ」って言わせたり、ついぞ「俺が悪かった」という話が出てこない!
アーニャに対して「些細な事で挫けるな」じゃねえんだわ!何ヶ月経ってると思ってんだ〜!?
「俺が何とかできる」じゃねえんだわ!!そもそもお前があんな事しなければ何も起こってないんだが〜!?!?
自分が悪かった事、記憶障害かってレベルで忘却したかのように振る舞えるのすごすぎる。まず、「こんな事になったのは俺のせいです」が出てこないのか!?責任感じる前にお前はまず罪悪感って言葉から覚えた方がいいですよ。
妄想の燃え上がるカーリーには謝ったけど、いや、なんかその、今ここで、カーリーになの??他の3人には???
俺は何でこんなヤツに付き合わされて最悪な気分に………。
ジミーは色々同情の余地がないわけではないし、深堀すると「いや、お前だけが悪いわけじゃない…」という気持ちにはなるんですが、プレイ後の「いやこいつクソだろ!!!」という怒りの気持ちも大切にしたい。
せんじはそう思いましたのでここに怒りの丈をぶつけました。
余談ですが、プレイ後いくつか実況動画も見まして。
蘭たんの実況動画見た際に、この燃えるカーリーとの対話シーンで「なんかエモい音楽流れてるけど、ここそんないいシーンか…?」って言ってたの本当にそれすぎて笑いました。
ジミーがいいシーンだと感じているからこの演出なのかな~と思うとなんかもう、なんかもう、ね!
罰なき生温い優しさに満ちた船内
何かしたらすぐ罰則のポニー運送ですが、思ったよりも船内の雰囲気は悪くない事に注目したい。
泡を噴出してしまうダイスケや、仕事を完遂できないアーニャにカーリーは叱咤する事なく「俺が何とかするよ」と結構甘めの態度を取る。船員の不出来・ミスに対してカーリーがサポートし、不問にする空気によって全員が居心地の良さを感じている。
これはポニー運送倒産の話が出たリアクションからも明らかで、人を人とも思っていない対応をされていたにも関わらず「清々した!」と会社に悪態を吐く人間は一人も居ない。
だが、これはあくまで「カーリーの目線」の話だ。結局ジミーの鬱屈とした気持ちもアーニャの苦悩も汲み取る事ができず、アーニャへの非道についても問い詰めたり罰したりする事ができない。致命的な出来事に対処する事ができなかった。
カーリーの態度は事勿れ主義と批判される事も多いが、平時ではダメ野郎の巣窟に平穏と安寧を与えていたのも、そういったカーリーの甘さ故なのではないかと思う。
罰なき船内を最も象徴するのは皮肉にも生き残らされ続けるカーリーだろう。
船員全員がそれを望んだのだ。
そしてあらゆる罪を背負ったジミーは罰されることもない。永遠に。
これに付随するが、ジミーが銃を手に取ったときにカーリーが笑ったのは、そういった生温い船内の終焉、カーリーの船の終わりを悟ったからではないかと考えている。
アーニャが立て篭もるまではカーリーの作った平穏は見た目上保たれていたのだろうなと考えるとどんよりした気持ちになってくる。
総評
なんにせよ人物描写が限られた中でも非常に巧みで、それゆえにあのキャラはああで…このキャラはこうで…と同情したり怒りを覚えたり様々な感情を引き起こしてくれるんだろうなと思いました。良作です。
あと、この手の現実と妄想と回想を行き来するタイプには珍しくストーリーラインがかなりはっきりしており、話に分かりづらい点が少なかったのも非常に良かった。
妄想部分も恐怖している対象がかなり具体的で、モチーフのわからない恐怖が少なく曖昧な印象はない。曖昧なエモさで煙に巻かずに直接的すぎる地獄で殴り続けてもらえます。
全ての事象がキャラクターの弱さに起因していることがはっきりしていて、決してシナリオの都合で悪人になったりしているキャラクターが居ないところは本当によくできていて、一から十までどん詰まり、閉塞感、鬱を余計な味一切加えずにずっと堪能できる!混じりけの無い地獄!!!
地獄作品見たいな~!とずっと言っていた私もボコボコにされました。マウスウォッシュを飲んで、私も酔いつぶれて寝ようと思います。
苦しみを祈る。
余談
消毒液を探す際に視界がおかしくなるのは何故か
ダイスケの傷を治療するための消毒液探しで医務室に入ると視界がおかしくなってアーニャとカーリーの姿が見えなくなっている。
これはどちらか、あるいは両方の死体を認識したくないんだと思ってたんですが、スウォンジーに追われてコックピットに逃げ込んだ際、「認識できない何か」を手にしており、これが後の情報から考えると銃であると思われる。
つまり視界から認識できなくなっていたのは「銃」であり、死体の方では無かったが正解かなと。
アーニャの死体を上手く認識できないくらいにはジミーもアーニャの死にはショックを受けてるんだな〜と思ってたのにさぁ!ジミ坊さぁ!!!!
深掘りするほどカスの情報しか出てこない。ジミーってやっぱクソですね。
ただちょっとここだけ擁護(?)しようかなと思うのは、多分ジミーの自認的に「俺とアーニャは悪くない関係」だと思っていたのではないかなということ。
これはジミーが「自分が明らかに加害者である」という立場を徹底的に避けてた事から、「加害である」という認識がある事を実行できないと思われるから。それと、アーニャがサシでジミーに妊娠を告白している事・ジムと愛称で呼んでいる、年単位で付き合い自体はあるというのが理由です。
ジミーが本当に強姦魔であり直接加害を辞さない相手ならさすがにサシで話し合うという選択肢はリスクが高すぎて取れないでしょう。
つまり「冷静に話し合う余地がある」とまだ考えられたのだと思います。まあ結局そこで信頼関係は決定的に壊れて「ここに居てほしくない」になっちゃった…っていう感じかなと。心中考えるくらいなんで「全部終わりだよぉ~~!!!」って感じになっちゃったのかな…。
あとアーニャの社員証がコックピットにあるのは恋人の写真がわりなのかな?と思ったのもあります。
何故ジミーは拳銃を手に取ったのか?
スウォンジーが「もう勝手にポッド使え」と言った後で、もう武器を手に持つ必要は無かったはずなんだけど…。化け物とすら言ってたし、スウォンジーの言葉が信じられなくてきっと不意打ちしてくると思ったのかな…。
ダイスケが死にかけてから、あるいはアーニャが死んでから正気と狂気の境目が曖昧になり、合理性に欠く行動が増えるので、まあもう正気では無かったのかもしれん。
操縦席について
通常左側が機長席らしいですが、少なくともタルパ号では右側が機長席であってると思います。
これはカーリー視点の際にコックピットに誰も居ない状態でも右側にしか座れないこと、ジミーの妄想で「ナイフを取ってきてくれ」と言われてコックピットに向かった際に右側の席に斧が振り下ろされている事を鑑みて結論付けてます。
自分のプレイ時はカウンセリングの席の位置の段階でジミーが犯人である事は予想できちゃってたので、道中のうんざり度も爆上がりでしたね…。