「正しい大人のファッション」って
ファッション雑誌の表紙に「この春、着るべき服はコレ!」って書かれていても、まぁ、スルーする。
そのカテゴリのファッションが好きな人が着るべき服ってことで、他人事として処理できるから。
でもね、「この春、大人が着るべき服はコレ!」って書かれてたら、どうしてもイラっとしてしまう。
35歳だから、私は大人だ。
けれど、私はどうしてもその雑誌に載っているような服は買えないのだ。
多くはない服飾費の使い先として、どうしても選べない。
私は、アトリエBOZやヴィクトリアンメイデンといった、ロリータブランドと言われるお店の洋服が好きだ。
ああいうのは、せいぜい学生のうちに楽しんでおくファッションと思われがちだけれど、社会人になったからって服の趣味がころっと変わる訳がない。
どう頑張ってもオフィスカジュアルにはならないファッションなので、もちろん会社には着て行かなかったけれど(とはいえ、どうしても片鱗は覗いてしまっていたらしい)、会社以外で着てるぶんには何も問題無いはずだ。
けれど。
その格好、何歳になったらやめるの?
なんの屈託もなく聞かれるたびに、就職したばかりの私は「やめる歳を決めなきゃなぁ…」と思っていた。
常識のある大人として社会で生きていくためには、やめなくてはいけないと思っていた。
実際は、やめる歳を決める前に体力と気力の低下で着なくなっていったのだけれど。
20代後半〜30代前半頃までロリータ服は着ていなかったものの、欲しい服はロリータブランドのものばかり、ユニクロに行っても何を買って良いかわからずにいた。
結果、洋服が大好きでセンスが良い母のお下がりを着ていた。
センスの良い人が選んだ服を「自分が欲しくて買ったわけじゃ無い」と思いながら着るのは、悪くなかった。
褒められるし、社会に馴染む。
おまけに、自分の奥底に眠るモヤモヤをそっとしておくことができる。
自分が好きじゃ無いものを買うという選択をしないで良いから、モヤモヤは無かったことにしておけたのだ。
だけど。
私は会社を辞めた。
オフィスカジュアルが必要なくなった。
さらに、キャラクター性が必要な仕事を始めた。
あ、これ、ロリータ服着ても良くね?
34歳だった。
まぁ、周りから見たら「そういう洋服を『着てる』人」ではなく「(大人なのに)そういう洋服を『着ちゃう』人」に見えているのでしょう。
私は、30代ロリータモデルの青木美沙子ちゃんのように可愛らしくないから。
人前で話す仕事をしているので、「キャラ作りの一環として目立つ格好をするためにロリータ服を着ている」と捉えている人もいるようです。
もう、それでいい。なんでもいい。
とりあえず、私は誰かに服装を問われた際の言い訳を手に入れた。
私は、表立って「ローリータ大好き!」「大人だってロリータ服を着ていい!」と叫ぶ度胸はないし、啓蒙活動をする気もない。
そんなガッツはないし、ロリータ服に対する忠誠心もそんなにない。
でも、ロリータ服は着たい。
「この春、大人が着るべき服はコレ!」と書かれたファッション雑誌の表紙を横目に、今日もフリルがたっぷりついた洋服で本屋を歩き回る。
ビジネス書を吟味し、小説を買いあさり、制服を着た女の子の後ろに並んで漫画の新刊の予約をする。
大人、だけどね。
着るべき服は着てないけど、ね。
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