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サン=テグジュペリの入口~「星の王子さま」「夜間飛行」(改訂)
自身がプロの飛行士であったサン=テグジュペリは、その体験を題材とした小説を、全く異なった視座から描いています。
①星の王子さま
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『星の王子さま』(1937)~アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
世界中で広く愛されている「星の王子さま」。この物語の中では、「本当に大切なものは、目には見えない」というテーマが、表現を変えて何度も語られます。
「砂漠が美しいのは・・・」
・・・物語の終盤、砂漠に不時着したパイロット(語り手)と、遠い星からやってきた王子さまの二人が肩を並べて、夜の砂漠を眺める場面で交わされる言葉です。
たとえもう二度と会えなくなったとしても、「夜空を見上げて、互いがそこにいることを知っていれば、空を見ることが楽しくなるはず」・・・そんなロマンチックな会話が続きます。
子供たちに希望を与えてくれるだけではなく、多くを失わなければならない大人も慰めてくれる物語です。
②「夜間飛行」
「夜間飛行」(1931)は一転して、空を仕事場に選んだ者が背負うべき使命と責任が、短い物語の中で厳しく描かれています。
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航空郵便が新しい事業として始められた頃、欧州・南米間の夜間飛行は大変な危険を伴うものでした。
物語の中心人物は事業所の責任者リヴィエールです。
彼は部下に対し極めて冷徹で、僅かでもミスをすると即刻クビにしてしまいます。
たとえ長年勤めあげて来た老スタッフでさえ、些細な事務上の手落ちを理由に解雇を告げ、どれだけすがりつかれても取り合いません。
許しの言葉を喉元で押し殺し、心を鬼にせざるを得ないのです。
それは、彼が飛行士の命と郵便事業の未来を背負っているからです。
そんなある夜、嵐の中を飛行していた一人の操縦士との連絡が途絶えてしまいます。
サン=テグジュペリはパイロットとして活躍しながら小説を書き続け、作家デビュー。以降、世界中にファンが広がって行きました。
第二次世界大戦が起こると、彼は偵察隊に配属されます。そして1944年、フランス内陸部を写真偵察するために飛行中、地中海上空で消息を絶ってしまいました。
時を経た1998年に、地中海沖で彼のものと思われる名前入りのブレスレットが発見され、その付近に落ちていた飛行機の残骸が彼の搭乗機であると世界中で大々的に報じられました。
さらに2008年、フランスのローカル紙に、当時ドイツ軍のパイロットだった老人による、サン=テグジュペリの偵察機を撃墜したとする証言が公開されました。
この不運な老人は、「長い間、あの操縦士が彼では無いことを願い続けていた。」と悲嘆しました。
彼もサン=テグジュペリの愛読者だったのです。
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アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900- 1944~フランス・作家)
20世紀前半のフランスを代表する「行動派」の作家です。
自身の飛行士としての体験に基づく「夜間飛行」(1931)やベストセラー「星の王子様」(1937)、「人間の土地」(1939)など、人間の尊厳を称えた小説を世に出しました。
二次大戦に従軍しましたが、ドイツ軍に撃墜されて他界しました。
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Planet Earth
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