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迷子取りが迷子?になる 2021.11.6

 11月6日、今日は気持ちのいい晴れ。
 昼夜が入れ替わってしまった生活リズムを強引に常人のそれに戻し、朝6時前にしっかり目覚めた私だったが、気力は湧いてこないのか午前中をPCの清掃などをしながらだらだらと過ごした。
 昼前にシャワーを浴びて着替えを済ませた。久しぶりに外行きの服を着た。今日はおよそ2週間ぶりに通学するのだ。
 しかし2週間という期間は長すぎたようで、私の体はすっかり家の中という定位置にべったりと癒着してしまっており、外出の意思を持とうとすると眠気という拒否反応が出る始末であった。
 それでもなんとか時間ギリギリに家を飛び出し、自転車を飛ばして学校に向かった。

 若干の遅刻をしながらも一限だけの講義を受け終わり、私は駅までの道を音楽を聞きながらノリノリで歩いていた。肌に感じる冷気が気持ちのいい季節だ。通行人はどうせ私を気にしないし、されても動画でも撮られていない限り恥ずかしくない。
 あとは帰るだけだと考えていたのだが、ふと今日は家族が家にいないことを思い出した。
 普段家事なんかしない子供部屋ひきこもりおじさんの私には珍しいことだが、今日は夕飯を自分で作ろうと思い立った。
 しかし私はほとんど料理をしないのであまり凝ったものはできない。せいぜい炒めると焼くくらいだ。その中で私が食べたいのはなにか……。

 音楽を聞き夕飯のメニューを考えながら駅のホームに立っていると、アラブ系の顔立ちをした紳士が手に持ったキップを見せながら何やら話しかけてきていた。イヤホンを取るなり紳士はつたない日本語でまた話しかけてきた。
「カスカベ、行きたい」
「かすかべ?」
 キップには春日部と記載があったので春日部駅へ行きたいのだろう。
「ここの電車が春日部行くかっていうこと?」
「アー、じゃない」
「春日部行きたい?」
「そう!どれ、電車、」
「あぁ、OK」
 適当な返事だけ返して私は携帯で経路を調べ始めた。「外国人に道を尋ねられる」という教科書的テンプレイベントでありながらも初めてになる体験のせいで頭が真っ白だった。幸い今いるホームに来る電車から乗り換えもなく到着できるようだった。
「あーえっと、次の、急行!乗ったら、ジャストステイ、……イン、トレイン!」
「オー」
「ユドンニートゥチェンジ!」
「don’t need to change, オケー」
 相手に英語が通じるかもわからないのに、しどろもどろの私は何故かここで平易な日本語ではなくルー語での説明という選択肢を選んでしまった。
「じゃあ、ゴジュウヨンフン(17時4分だと思う)の?」
「そう!」
「次の電車?」
「そう!…あっ次の、次!!!」
「ツギノツギ、オケー」
 説明が終わる頃にはなぜか私の声量は普段の話し声では確実に使わないであろうほどに大きくなっていた。
 紳士は納得したようにその場を離れてホームの奥へ行ってしまった。なんだかどっと疲れた気分になった。

 到着した急行に乗り込み、「なんださっきの説明は」とか「よく考えたら同じ電車なんだからそこまでついていれば良かったのでは」などと反省しながら座席でうとうとし、少しの間目を瞑った。

 車内案内の声で目を覚ました。次は清澄白河駅らしい。
 ……3秒ほど置いてから、今乗っている電車が目的地とは逆方向へ向かうものだと気づいた。
 やってしまった。久しぶりの外出で忘れていたとはいえ、人に道案内しておきながら自分が電車を間違えるとは……。ミイラ取りがなんとやらである。

 すぐに電車を降りて逆方向に乗り直し、家の最寄り駅まで帰った。
 マンションの駐輪場に勝手に停めた自転車は同罪であろう他の自転車たちと一緒に敷地の外に横積みにされていた。回収センター送りは避けたいので自分の自転車を抜き取ってスーパーに寄って帰った。
 結局ご飯はガーリックライスと肉野菜炒めにした。記事トップの画像がそれだ。美味いが量を作りすぎた。食べきれない。
(おわり)

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