帰省したら。
釧路空港には思ったよりも早くついた。
路面の状況がわからないので念には念を、といつもより30分増しで考えていたが、しっかりと路面が見えていて何ら問題なかった。
保安検査場を通る前に、なんとなくロイズの詰め合わせが目に入った。みんなに配ったら喜ぶだろうか。とりあえず、会うことが決まっている計8人の分買おうと手に取る。もちろんみんな女子だ。珍しいものとかご当地感の強いものとかよりも結局こういうのが一番嬉しいと思う。さて、会計とレジに行ってギョッとした。財布が見当たらないのだ。またやらかしてるな。こういうのには慣れている。私も私に28年付き合わされてるので、すぐに車の助手席にポツンと財布が置いてある映像が頭に浮かんだ。出発は10時10分、今の時刻は9時45分。地方だからいいが、成田ならアウトだ。
「なんか、たぶん車に財布忘れてるっぽいんですよ。5分頂けますか?荷物も全部おいていきます。」
ニヤニヤしながら言って、一目散に駐車場に走った。助手席下に滑り落ちているのを拾い上げて、また猛ダッシュで空港のお土産屋さんに戻る。お会計は4360円だった。買いすぎだが、財布を忘れないで済んだと思うと救われたなと思った。お土産買って良かったです、とレジの方にお礼を言った。
時刻は9時50分。
財布は忘れるのに、雑誌はちゃんと持ってくる。
最近ハマっているモノンクルを聴きながらFUDGEを読む。ロンドン・パリの"かわいい"おんなのこスナップ。全く参考にならないが、なにかとても心は満たされた感じがした。やっぱりかわいいと思う世界を自分の中に作らないといけない。帰ったら作りかけのものたちを形にしよう。頼まれてもない、意味のないことをやろう。
………
耳が痛くて目が醒める。
飛行機に乗ったのを忘れ、運転中に寝たのかと錯覚するほどぐっすり寝てしまった。
千葉の太陽光発電パネル群を横目に機体は旋回を始める。
東京湾に途中まで橋をかけるようにしている海ほたるが見えてきたら、羽田はすぐそこだ。
弟子屈が夢で、こっちが現実なので
なんの感慨もなく電車に揺られている。
蒲田は私の生まれた町で親戚も多く先祖墓もここにある。
鶴見はあまりにも見慣れた車窓だ。
家がたくさんあるなとか何か想起させようと思うが、先述の通りこっちが現実なので何も思うところはなく。ただこんなに近くに人が居るのに目を合わせることも無くただ液晶の画面を見つめてるのはすこし奇妙な気がする。まあそれに違和感があるからむしろ弟子屈の生活はすんなりといったとも言えるかもしれない。最近はすれ違う車が誰が運転しているかわかるようになって、車越しに「よっ」と手をあげて挨拶できるようになった。
登場人物を知ってる世界から、エキストラしかいない世界に戻ってきた。
続く