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「花束みたいな恋をした」のだろうか。

人生で初めて、恋人と別れると決めた。

約2年前の夏、彼からの告白で交際はスタートした。
彼の第一印象は落ち着いている人。話し方がとても穏やかで好印象だった。
私にとって彼との交際は決して燃え上がるようなはじまりでは無かった。
けれど、彼には「信頼してもいいかな」と思えるような安心感があった。
そして、私もそんな彼を愛してみたいと思った。

彼と付き合ってから、色々な場所へ出かけた。
恋愛経験が多くない私に、彼は様々な経験をプレゼントしてくれた。
私のスマホの画像フォルダも彼との思い出で埋め尽くされていった。


昔から思い出を写真や動画を見て振り返るのが私の楽しみの1つだった。
でも、ある日ふと気づいた。
私が何度も見返すのは家族や友達との思い出だけだった。
彼との写真のほうが圧倒的に多いはずなのに、私が見返したい思い出に彼は居なかった。


1年目の記念日。
思い切って彼に別れを切り出した。
彼はとてもいい人だ。
そんな彼を傷つけたくなくて。自分が悪者になりたくなくて。
何より彼に対する愛情が薄れていることを伝えるのが怖くて。
「会える日が少ない」「心の距離が遠い」「お互いの将来設計が合ってない」などともっともらしい言い分を遠回しに並べていた。
別れを切り出している最中、私がなぜか涙が止まらなかった。

彼はうーーーん。。と考え込み、しばらくして「一つ一つ解決していけば、別れなくていいんじゃない?」と言った。
そして、彼はまだ1人暮らしを謳歌したいと言っていたのにもかかわらず「一緒に住もう」と提案してきたのだ。
そんな彼に驚いた私は、「これからもっと彼の事を知れば彼を大切に思えるのかもしれない」という期待を抱いた。
それに別れを切り出した自分が泣いていたことにも驚いていたのだ。
もしかしたら私は彼の事を自分が思っているより大切に思っているのかもしれない。


私と彼は一緒に住むという選択をした。

一緒に住んでから、彼と些細なことでたくさん喧嘩をした。
優しい彼は私が「こうしてほしい」と言うとなるべく改善しようとしてくれた。
けれど、彼は想像以上にマイペースで自由人だった。

当番の家事をしていないまま寝ている彼。
私が風邪をひいて寝込んだ時、頼まないと何も買ってくれなかった彼。
仕事終わりは自分の趣味に時間を割いて、夜中まで帰ってこない彼。

きっと私だってお互い様のこともあるのに、友人や親には彼の愚痴ばかりをこぼすようになった。
日々のモヤモヤは無意識に私の心にストレスとなって積み重なり、体調を崩すことが増えた。


月日を重ねるにつれ、段々と私は彼に期待をしなくなった。
彼においしいご飯をつくろうとか。もっと彼の笑顔がみたいとか。
恋人に抱くであろう感情が薄くなっている自分に気づいて悲しくなった。


2年目の記念日。
私は彼に「私との結婚」について聞いてみた。

「結婚は考えてる。あと1年後くらいにって考えてる。」

正直、びっくりした。
マイペースな彼のことだから、結婚はもう少し先になると予想していたからだ。

そして同時に、どうしようと思った。
誰かと一緒に暮らしたい、いずれは家庭を持ちたいと考えている私にとって、彼からの結婚という言葉は本当にありがたいものだった、のだけれど。

「何かが違うのではないか」と私の心はざわついていた。
本当は嬉しいと感じるはずの言葉で、私が感じたのは少しの安堵と彼でいいのかという疑問だった。



彼と出逢う前に見た映画「花束みたいな恋をした」。
自分の気持ちを整理するきっかけになるかもしれない。
そんな淡い期待を抱き、再生ボタンを押した。

最後に恋人同士の麦と絹がファミレスで別れ話をするシーン。

「またハードル下げるの?」「ハードル下げて、こんなもんなのかなって思いながら暮らして、それでいいの?」

映画「花束みたいな恋をした」より

恋人ではなく、家族になれば上手くやっていけると主張した麦に対して絹が投げかけた言葉だ。


彼と同棲するまで、私はこの言葉の意味がわからなかった。
でも今なら少しわかる気がした。


このまま彼と結婚すれば、私は、そして彼は本当に幸せになれるのだろうか。
彼の長所より、短所にフォーカスしながら生活し、気づけば愚痴ばかりため込んでいる自分は果たして彼の結婚相手になり得るのだろうか。


100%相性がぴったりなパートナーなんていないのかもしれない。
けれどお互いを心から思いやって生活できるパートナーはいるのではないだろうか。
私は彼を心から思いやれていないのではないだろうか。


「どの夫婦もこんなもの」「結婚すればお互いに思いやりなんて薄れてく」
どこかで聞いたような言葉が私の頭をよぎる。
彼と結婚すれば私の人生において「結婚」が手に入る。
でも、私が望む結婚はそんな結婚じゃない。
高望みかもしれないが、私にも、そして彼にもきっと、心から思い合える人が他にいるはずだ。

ただ、彼と積み重ねてきた2年という月日の重みは残酷だ。
別れ話をしようとする度に、私を縛って離さない。


それでもそれを断ち切る時が来たのだと冷静な自分がいる。
何度彼と一緒に歩む人生を想像しても、心から「これでいい」と言える自分がいないからだ。
彼の思い描く「結婚・マイホーム・子供」という夢は私の活力ではなく、重荷となってのしかかってくる。

彼を選んだのは紛れもない自分自身で。
そんな彼を何回手放そうとしても、結局縛り付けているのも自分自身で。
彼を心から愛する努力をしようと思ったけれど、愛そうとしてもその燃料(エネルギー)が私の中にはもう無かった。


どうやって別れ話をしようか。
きっと彼は優しいから、私が抱えている不安をまた1つ1つ解決しようとするだろう。もしかしたら彼自身の夢も捨ててしまうかもしれない。
だからきちんと伝えなくてはいけない。もう気持ちが無いのだと。


今にも泣きそうな自分がいるけれど、これはきっと彼がいい人だから。
私を好きになってくれて本当にありがとう。
たくさんの思い出と学びをくれて本当にありがとう。
でも私は未来に向かって歩き出したい。踏ん切りをつけなきゃいけない。


人生で初めて、恋人と別れると決めた。

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